試験で暴れる
- 〈ノクシアス〉視点 -
双子の魔法使いを主軸にした冒険者パーティ〈ノクシアス〉は、一切迷うことなく廃鉱山の最深部へと降りていく。
「お前達か」
最深部で待っていたギルドの試験官が、苦い顔で呟いた。
試験官から底へ潜った証を渡された後、〈ノクシアス〉は来た道を戻る。
そして、広まった空間に隠れて息を潜めた。
この空間は、採掘中に突き当たった天然の空洞だ。
広くて戦いやすく、障害物も多い。待ち伏せするのに絶好のポイントである。
「ふふふー、全滅させちゃえー」
「あー、雑魚のあがく顔を見るのが楽しみだなー」
……だが、待てども待てども冒険者が来ない。
いくらなんでも遅すぎる、と双子が焦れた頃。
いくつかの冒険者パーティが、一斉に広間へと飛び出してきた。
「このクソ共がーっ! お前らだけは全員で叩き潰してやるっ!」
先頭に立つイーゴリが、剣を掲げて叫ぶ。
冒険者たちは〈ノクシアス〉を敵として一致団結していたのだ。
「うわー、勝てないからって群れてるー。ウケる」
「雑魚はどんだけいても雑魚なんだよー?」
双子が揃って杖を向けた。
「〈ミアズマアローレイン〉」
「〈ソーンバインド〉」
地面を突き破って現れた棘が、冒険者たちの足を絡め取る。
そこへ毒の矢雨が降った。
冒険者たちが必死に抵抗するが、次々と倒れていく。
対抗魔法や結界で対処しようとした魔法使いは、〈ノクシアス〉のメンバーに狙い打たれて無力化されていく。
「て、撤退だ! 一時撤退!」
「あーあ。〈トラップガス〉」
「〈ソーンウォール〉」
狭い道へと戻った冒険者たちが、棘の壁に阻まれて撤退先を失う。
事前に設置された毒罠魔法が炸裂し、更に冒険者たちを無力化した。
「……っ、卑怯だぞてめえら……!」
「雑魚マッチョがなんか言ってる。ウケるー」
「体で戦ってたら、魔法使い様には敵わないんだよ? 知らなかったー?」
くすくす笑う双子に、〈ノクシアス〉の冒険者たちが同調する。
……彼らはみんな目が死んでいた。
「ニコライ! イヴァン! ユーリ! あんな奴らとパーティを組んでて、恥ずかしくないのか!? それでいいのか、お前らは!?」
「……うるっせえ! なんと言おうがな、俺はB級に上がるだろうし、お前はC級のままだ! それが結果なんだよ!」
〈ノクシアス〉の弓手が叫ぶ。
「そこまでしてB級になりたいかよ! そんなに金が欲しいか!?」
「……うるせえっての! 悪いか!?」
イーゴリが〈ノクシアス〉から集中砲火を受けて膝をつく。
残った他の冒険者たちも、棘による拘束と毒のコンボを受けて為すすべなく負けていった。
「くそっ……畜生。お前らみたいな連中を、B級にしてたまるか……ッ!」
イーゴリは気合で体を動かし、立ち上がる。
そんな彼の頭を、棘の触手が引っ叩いた。
「ごがっ」
「ウケるー。無駄な気合入れちゃってー」
「あ、そうだ! 皆、今すぐ装備とか捨てて裸踊りしてよ! できたら証明部位分けてあげるよ? B級になれるねー、よかったねー! うちってやっさしー!」
「ぎゃははは! いいじゃん! ほらほら皆ー! B級になりたいなら、裸になって媚びてみせてよー!」
双子の暴虐を、〈ノクシアス〉の面々は死んだ目で見過ごしていた。
まだ意識のある冒険者たちが、双子を睨む。
だが、誰も手を出すことはできない。
「誰も裸になんないの? つまんないなー」
「一人ぐらい殺しちゃおっか?」
「えー、また? もっかいB級試験受けるのめんどくさいよー」
双子はくすくす笑い、杖をイーゴリに向けた。
「〈エアブラスター〉!」
その瞬間、ロープつきの杭が広間の中心に突き刺さった。
- オットー視点 -
「〈セレスティアルウィング〉!」
輝く翼を展開したオットーが、空を飛んで広間へと突入する。
(あいつら、滅茶苦茶だ! 試験をまともにやる気すらない……!)
珍しく怒り心頭の彼が、パイルアンカーを握りしめた。
「来たか、オットー!」
「え、あいつ……最下位の雑魚だろ!?」
「何だあの魔法!? 魔力の気配が、こっちまで……!」
冒険者たちがざわめいた。
「……っ! 〈ソーンバインド〉!」
棘つき触手の群れがオットーを追う。
だが、追いつかない。
「〈ミアズマシュート〉!」
「〈デフレクト〉!」
撃ち出された瘴気の弾丸が、跳ね返されて双子に直撃する。
瘴気も一種の風だ。相性がいい。
「がほっ! く、くるし……おねえちゃ……!」
「げほ、げほぉ……〈クレンズ〉!」
毒の浄化に時間を取られた双子に、オットーが迫る。
「〈ソーンウォール〉!」
生成された棘の壁は、魔法の光翼によって叩き切られた。
無防備になった双子へと、オットーがパイルアンカーの筒を向ける。
「〈エアブラスター〉!」
オットーが上空から木杭を叩き込んだ。
双子の片割れの顔面に直撃し、歯を何本も叩き折って地面に倒れる。
わあっ、と冒険者たちが喝采した。
「すげえ! 何だあの戦い方、頭おかしいだろ!?」
「いいぞ! もっとやれ、最下位ーっ!」
毒をまともに食らって動けない人々も、拳を突き出して応援している。
声援を受けて、オットーは弾丸のごとき速度で飛翔する。
「よくもねえちゃんの顔をー! 〈ソーンバインド〉!」
「〈エアブラスター〉!」
ロープつきの杭が再び撃ち出され、地面に刺さった。
コンパスじみた円運動で棘を振り払いつつ反転し、再びオットーが突撃する。
「……喰らえっ! 〈エアブラスター〉!」
「〈ソーンウォール〉っ!」
撃ち出された木杭を、棘の壁が受け止める。
だが、その杭はフェイクだ。
ロープを掴み、オットーが地面に刺さった杭を引き抜く。
そして、大きく横へ薙ぎ払った。
棘の壁を迂回して飛んでいった杭が、双子をまとめて薙ぎ払う。
「あっ……がっ!」
「わあっ!?」
二人の双子がまとめて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて呻く。
杭を引き抜き速度が落ちたことを利用し、オットーが軽やかに着地した。
「……随分と好き勝手やってたみたいじゃないか。お前らみたいな腐った魔法使いなんて、魔法学園でそれこそ腐るほど見てきたよ……」
双子の片割れへと歩み寄るオットーを、横から〈ノクシアス〉のメンバーが止めようとする。
が、あっさり〈エアブラスター〉で吹き飛ばされた。
「ま、待って。許して。ちがっ……」
「ほめんなさい……あ、歯が……」
「違う? 何が違うんだ? 許す余地があるようには思えない」
「やめ……助けて! ごめんなさいっ!」
「た、たしゅけてください!」
「断る」
オットーは彼女にパイルアンカーを向けた。
「ひいっ! おねえちゃん助けてえっ!」
「あああ殺さないで! 殺さ……」
「〈エアブラスター〉」
「がっ……あ、あ……」
二人の頭すれすれに杭が突き刺さる。
涙を流して失禁している魔法使いたちを、オットーは睨んだ。
「僕は空を飛べる。お前がどこで何をしようと、すぐに飛んでいける。僕に殺されたくないなら、二度と悪事を働かないことだ」
双子が人形のようにかくかくと頷いた。
「……やりすぎたかな?」
オットーの呟きは、冒険者たちの歓声にかき消された。
……悪人とはいえ、人間がボコボコにされている場面を見て拍手喝采だなんて、少しばかり趣味が悪い。
だが、あの双子の最悪ぶりを考えれば仕方がないことだった。




