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S級パーティ


「はい!? ハーピィを五十匹以上狩った!?」


 ギルドの受付嬢が、びっくりして聞き返す。


「そう。リントヴルムと……山のドラゴンと協力して」

「ドラゴンと協力!?」

「それで……魔物の死体を運ぶのに、手助けが欲しいんだけど」

「しょ、少々お待ち下さい。私一人ではどうにもならないですよ、こんなの……!」


 受付嬢が奥に引っ込んでいった。


「ねえ、キミ……今の話って、本当なの?」


 たまたま依頼を終えてギルドに居たミーシャが、オットーに尋ねる。


「そうだけど」

「……な、なんていうか、何からツッコめばいいか分からないっていうか」


 ギルドにいた冒険者たちが一斉に頷いた。

 全員がそういう気持ちだった。

 暗黒の森に行って帰ってくるだけでも図抜けているというのに。


「まあ、ドラゴンと仲良くなれたのは僕も驚きだよ」

「ほんとだよ。何があったの?」

「なんか、この前の空中戦で僕のことを認めてくれたらしい」

「ああ……。下から見てても、凄かったからねえ。ほんと気が気じゃなかったけど。特に、森の中を無理やり飛んでた時とかさ。よく木にぶつからなかったよね」

「お待たせいたしました。オットー・ライト様、どうぞこちらへ」


 奥から出てきた偉い人が、ギルドの個室へとオットーを案内する。


「わたくしは冒険者ギルドのマスター、デヴィンでございます。お見知りおきを」

「あ、ご丁寧にどうも。オットー・ライトです」


 老紳士風のギルドマスターとオットーが、個室の机を囲む。


「さて、ハーピィを五十匹以上狩ったということですが、間違いはありませんね?」

「はい」

「……いささか信じがたい事実ではありますが、嘘ではないのでしょう。既に前科もあることですし」

「前科って……」

「ハーピィの死体を回収する場所は、暗黒の森で間違いありませんね? 危険な場所ですから、緊急依頼という形でギルドの腕利きを集める必要があります。まず、この依頼を出すための書類にサインを……」


 冒険者ギルドのマスターが、てきぱきと段取りを進めていった。


「……では、緊急依頼を張り出しておきます。幸運を」


 個室から外に出る。ギルドに集まった冒険者たちがざわついていた。


「ハーピィを五十匹って……」

「あれ、危険度C級の魔物だろ? 五十匹って、討伐報酬どうなるんだ? ここのギルド史上最高額の報酬が出ちゃうんじゃないか」

「いや、ドラゴンと仲良くなってる方もおかしいだろ……神話かよ……」


 冒険者たちがオットーに気づき、はっと息を呑む。


「何、その反応? 僕はただ、空を飛んでるだけだよ。飛べない人と比べれば、ハーピィの脅威度も違ってくるしさ……別にそんな、思ってるほど強くないって」

「いやいやいや」

「にしても竜と仲良くなってるのはおかしい」

「リントヴルムは良いやつだよ? みんなも話せば仲良くなるって、きっと」


 そのとき、カランカラン、という鐘の音がどこからか響きはじめた。


(そういえば、冒険者ギルドの屋上には鐘があったっけ)


 緊急依頼のときに人を集めるための鐘だったらしい。

 その音を聞いた冒険者たちが次々と集まってくる。

 だが、目的地が暗黒の森だと聞いて辞退者が続出した。

 ……オットーは他の冒険者を守ることができないし、リントヴルムも協力してくれるかどうかは不明だ。

 強い冒険者だけが集まるほうが安全だろうな、と彼は思った。


「ハーッ! どいつもこいつも、情けないったらありゃしねえなっ!」

「うわ蛮族……」

「あーん!? 誰が蛮族だとーっ!?」


 斧を担いだ筋肉モリモリの大男が、オットーにガンを飛ばした。


「やめとけよ。あんた言い逃れできないぐらい蛮族だろ」


 彼のパーティメンバーが、静かに制した。


「っせえ! ナメられたら殺すのがマナーなんだよ!」

「どうどう。にんじん食うか?」

「誰が暴れ馬だこの野郎! 食う!」


 どこからか取り出された人参をもしゃもしゃ食いはじめた大男を、(何だこの人)という冷めた視線でオットーが見つめていた。

 ……彼が通っていた魔法学園の経験からして、こういう人間は……。


「ああー!? 緊急依頼だって言うから来てやったのに、死体の回収かよ! つまんねえな! これがS級の仕事かよ、ええっ!?」


 やっぱりな、とオットーは思った。

 頭のネジが飛んでる人間を見たら、強いと思え。

 学園で得た教訓だ。

 頭がおかしくなければ、人間の領域を外れるぐらい強くなることはできない。


「そう言うなよ。危険な森じゃないか」

「暗黒の森ごとき、レベル100もありゃ余裕じゃねえかよ! ん?」


 大男がミーシャに目を留める。


「おおーっ、妹よ! 会いたかったぜ! そろそろA級ぐらいにはなったか!?」


 オットーが二度見した。完全に雰囲気が真逆だ。


「えっと……まだ……その、D級で……」

「なーにやってんだ!? その気になりゃ上がれんだろうに! ま、いいや! オレたち〈ミノアス〉が来たからには、緊急依頼も楽勝だ! さっさと行こうぜ!」


 ミノアス。オットーはその名前を聞いたことがあった。

 S級の冒険者パーティだ。”S級にしては弱い”という評判だが。


「ええと……ミノアさんでしたっけ。依頼者のオットー・ライトです。よろしくお願いします」

「んんー!? あんたみたいな女装の似合いそうなちっこいガキがハーピィを五十匹も倒したってのか? 弱っちそうだな! 全然強そうに見えねえ!」

「やめろミノア。失礼だぞ。……俺はミノアスの副リーダー、リアンだ。よろしく頼む」


 彼のストッパー役らしき青年が、握手の形で手を差し出す。

 その手を握り返したオットーは、ぐいっ、と引っ張られて姿勢を崩した。


「ちょ!?」

「……だが、確かに弱いな。剣ダコも力も無い。魔力はそこそこだが、魔法の練習をしている風でもない……いや、それでハーピィを倒せるのなら、逆説的にすごく強いのか」


 リアンはじろじろとオットーを見つめている。


「背中の機械が強さの鍵と見たが……ところで、にんじん食うか?」

「え? いや……」


 こちらもこちらで変人度数が高いようだった。


「あの……兄さんたちが迷惑をかけてて、ごめんね……」

「お前が謝るこたあねえよ!」

「兄さんの言うセリフじゃないでしょ!」


 ……とにかく、緊急依頼のメンバーは集まった。

 S級パーティ〈ミノアス〉とミーシャ、それから勇気ある中堅冒険者のパーティがいくつか。

 そういう寄せ集めメンバーが、オットーを囲んで街を出発した。


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