97.進めよラストバトル
「呪い、でございますか」
ばきばきべきべき、と軋む音を立てながらドナンさんはどう見てもケダモノ、みたいな外見へと成り果てた。
ひたすら祈りを捧げ続けているスクトナ様も金の髪から色が抜け、まるで蜘蛛の糸のように伸び続けている。でも、それなりに美人だったお顔がわかりやすく老婆のように成り果てて。
まあ、どう見ても魔帝陛下の言うように呪われてるよね、あの二人。コートニア様がため息つきつつ繰り返すまでもなく。
「見た感じ、そのくらいしか心当たりがないな」
私たち聖女を彼らから引き離すように、魔帝陛下はその間に立つ。うーむ、さすが本編ヒーローやることかっこいい……いや、そこじゃないな、うん。
「しかし、スクトナとやらにそのような力はあったか?」
「多少なりとも持ち合わせているかもしれませんが……あそこまで強いものは、わたくしは初めて見ましたわ」
「そうか」
魔帝陛下の質問に、コートニア様ははっきりと答える。私はそもそも、呪いなんてものにはほぼ縁がなかったからなあ。あんなものをはっきり見るなんて、初めてだ。
つーか、王国兵どころか魔女側の兵士も初めて見たんじゃない? 全員ドン引き、ぽかーんと口開けてたり腰抜かしたりしてるし。
ま、こうなるとほぼ戦意喪失でよさげだな。敵は魔女と、スクトナ様と、ドナンさんくらいにまで減った。ただし、味方もあんまり使えなさそうだけどさ。
「呪いということであれば!」
エンジェラ様が、祈りに入る。コートニア様も、そして私も祈ってみよう。神様神様、あの魔女の呪い、どうにかなりませんかね。力を貸してほしいんですが!
「っ!」
「あららあ」
前方で何か感覚があって、思わず目を開ける。ピュティナ様とセーブルさん、そして魔帝陛下が三人並んで結界を張り、何かを弾き返している。
つか魔帝陛下、そんなこと……あー、できたな。『のはける』でエンジェラ様に向けられた攻撃を、跳ね返した描写があったはずだ。
「無理ですわ! 弾かれてしまいます!」
エンジェラ様の方はというと……うん、解呪の能力を跳ね返された、ね。私の祈りもぺいっとはたき返される感じだったけど、本職であるエンジェラ様の能力が届けられないとなると、だ。
「エンジェラ様でも無理……ということは、どうやら」
「あーひゃひゃひゃひゃ! もう、ドナンは元には戻らないでしょうね! スクトナを狂わせて、祈りの力を暴走させて、ドナンも狂わせたから! ひゃひゃひゃっ!」
コートニア様の苦々しげな声に反応して、魔女が高笑いしながら宣言してくる。
この魔女にとってはスクトナ様もドナンさんも他の兵士たちも、代わりが利くただの手先でしかない。……いや、スクトナ様みたいな聖女に代わりがいるか、とは思うんだけどそれは私の考えることじゃないものね。
だから、使い捨てのように暴走させて、ここで暴れさせて終わらせるんだろう。それで、自分が勝つと思ってるから。
「……何という」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 私が、私が国の長になる! グランブレストもワリキューアも、私の前にひれ伏すのおおおお!」
「一番狂っているのは、魔女本人ですわね」
呆れ果てたガルデスさんの声をかき消すように、魔女の高笑いは響く。こちらの感想としては、エンジェラ様のお言葉が全てを示しているよね。これ。
魔女がとち狂ったせいでスクトナ様がぶっ壊れ、そうしてドナンさんがケダモノ化してしまった。この三人はもう、どうしようもないのだろう。
だから。
「キャレラの首は、俺が取る」
魔帝陛下が宣言し。
「元聖騎士ドナンは、このガルデス・ウーラが討ち取りましょう」
「カリーニの家名にかけて僕、エイク・カリーニも戦います」
聖騎士の二人が名乗りを上げ。
「スクトナ様はあ、わたくしがぶっ飛ばして差し上げますわあ」
敵を殴り飛ばせる聖女が拳を振り上げた。
「ピュティナ様」
「ですからあ、セーブル様は皆々様をお守りくださいませねえ? お願いしますわあ、聖者様あ」
「……はい。承りました」
そうして聖者は聖女の言葉に頷き、私たちの前に立って手のひらを掲げる。
本来の物語から外れていった世界の始末は、ここにいる皆でつけないといけないのだろう。もちろん、私も。




