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95.魔女も一族もオロカ

「は……え」

「魔帝陛下?」

「こちらで賑やかなことになっている、という情報を得たのでちょっと見に来たんだが。俺の元身内が迷惑をかけているな」


 黒っぽい剣を抜き放ち、魔女軍兵士を切り飛ばしながら魔帝陛下は悠然と歩いてくる。ほらあれだ、時代劇の終盤に主人公側が敵をズンバラリンしまくるときの結構余裕かましてる感じ。

 ま、まあ魔帝陛下の場合皇帝のオーラ全開で歩いているから、敵味方関係なく兵士が萎縮してるってのもあるんだけど。例外は魔女と聖女と聖騎士、かな。……私の周りほとんどじゃないか。


「我が国の領内とは言え、王国軍の駐留地に失礼だとは思ったが……外にぐるぐる巻きの兵士がやたらと転がっていたからな」

「こちらこそ、ご迷惑をおかけいたしましたわ。我が王国軍の不手際を、お見せすることになってしまいました」


 ……そうだ、この辺帝国領なんだよね。そのトップなんだから、ほいほい来ても良いわけねえだろうが何やってるんだワリキューア帝国トップ! しれっと敵ラスボスの前に顔出してるんじゃありません、危ないでしょうが!

 いや、危なくないかな? この魔女だと……うーん?


「アレン!」


 当の魔女が、ものすごく苦々しげな顔になって叫んだ。ああ、確かアレンだっけ、魔帝陛下のお名前。いや、呼び捨てって不敬じゃない? 敵だからいいの? いやよくない。

 ほら、魔帝陛下がうわうぜえ、って表情になってるじゃない。


「名を呼んでいいとは言っておらんぞ。魔女キャレラ」

「キャレラ?」

「魔女の名だ。一応元身内なんでな、知らんものでもなし」


 セーブルさんが不思議そうに呼んだ名を、その名前を出した魔帝陛下がサラッと説明してくれた。私のキャルンって名前と何か似てるなあ。それもあるのか、魔女が私にこだわった理由。


「元でもなんでも、身内なんて言わないで! お前は私にかしずいて帝国の全てを差し出すためにだけ、生きているんだから!」

「……昔より妄言がひどくなっているな。内戦を起こしてでも、片付けておけばよかったか」


 その魔女は、既に不敬どころじゃないセリフをぶっ放している。対する魔帝陛下のセリフも大概だし……あの、せめて帝国の人しかいないところでそのやり取りはやってください。王国まで巻き込まれたくないけれど、既に巻き込まれているからなあ。

 魔女にとっては、魔帝陛下も身内じゃなくて手駒……にしたかった存在、でしかないんだろう。やだなあ、こんな相手に目をつけられてたなんて。


「昔、といいますと」

「物心ついた頃からああだった、とは聞いている。会ったことがあるのはキャレラが十歳頃のことだったが、その時は俺の妃になるのだと言っていたな」


 エンジェラ様が首を傾げる仕草は、とっても可愛らしい。魔帝陛下はその仕草に一瞬も惹かれることなく、サラリと答えを示す。うむ、ここでこの二人に何かあったら私はフランティス殿下に土下座せねばなるまい。それで済むかわからないけど。


「受け入れなかったんですか?」

「和解の象徴として、うちは乗り気だったのだがな。キャレラの父親、当時の向こうの当主が和解を拒んで、俺の暗殺を企んだ」

「それでえ、破談ですかあ」

「そういうことだ。娘に罪はなくとも、父親に殺されかけたというのはさすがにな」

「そうですわ! 馬鹿な父親のせいでわたくしは、帝国の頂点に立つことを拒まれましたのよ!」


 言っておくが、只今周囲では何とか常態に戻りつつある双方の兵士が戦闘を再開し始めている。セーブルさんとピュティナ様が小規模結界というかもうバリアでいいや、光の膜で魔女側を弾き飛ばして双方の距離を広げようとしているんだよね。

 スクトナ様が祈り、ドナンさんが剣を振り回す。それはガルデスさんが受け止めて、どうにか弾き返している。

 私やエンジェラ様、コートニア様はバフくれデバフ頼むぞ、とばかりに祈りまくっている状況だ。すみません神様、あとでお供え物とかお持ちしますんで助けてください。


「……あのお」


 兵士を三人ばかりグーパンでふっとばしたピュティナ様が、ふと魔帝陛下の方を伺った。


「『当時の』当主とおっしゃっておられましたけれど、その方は……」

「こちらが罰を与えるより前に死んでいた。当時は自害だと言われていたんだが、実際どうなんだ? キャレラ」

「あらいやだ、当然お分かりでしょう?」


 ん? ……ああ、そういうこと、か。


「役に立たなかったんですもの、あの父親は」


 ……あー。こりゃ殺したな。

 魔帝陛下と魔女は、そもそも婚約者候補だったんだろう。双方の家同士は反目しあっている仲だったけれど、二人が結ばれれば和解の象徴として、まあまあ国内ではそれなりに収まるはずだった。

 ところが当時の当主である魔女の父親が、それに不満を持った。多分、魔帝陛下とその一族ぶっ倒すべし、な信条の持ち主だったんだな。で、ウチの娘をそんなところに嫁にやれるか、とばかりに暗殺しようとした……ってその思考になるのがよくわからないんだけど。

 結果、暗殺は未遂に終わったけれどまあ、婚約話は壊れるよね。んで犯罪者となった父親を……魔女は自分の手か配下にやらせたか知らないけれど、でも、殺した。


「アレンの妻になれれば、その後どうにかしてこの私が実権を握ることができたはず! そんなことも分からない馬鹿に、生きている価値なんてこれっぽっちもないじゃない!」


 ……自分の娘の権力欲が、ここまでになってるなんて知らなかったんだろうなあ。いろんな意味でお馬鹿なお父上を持って残念だったろうね、魔女キャレラ。

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