93.我々と彼女はイノル
「魔女様と我らが軍勢に、大いなる力を!」
スクトナ様が、いかにも悪い魔女っぽい声色で叫んだ。両手を広げたその姿は、どう見ても聖女じゃないのだけれど……でも、その能力はやっぱり聖女として認められただけのことは、あった。
魔女と向こうの兵士たち、スクトナ様自身やドナンさんの身体が、ふわあと光る。エフェクトは敵でも味方でも同じなのかあ、とゲームっぽい思考を走らせている暇もなく、ドナンさんが剣を振り上げた。アレは普通に、聖騎士部隊で使ってるやつそのままか。
「はっはっはあ! 我が聖女、スクトナ様のお力を見るが良い!」
「ふんっ」
振り下ろされた剣は、ガキンと音がして食い止められる。もちろんというか、ピュティナ様が光の盾作って受け止めたわけなんだけど。セーブルさんみたいな戦い方を、ピュティナ様もできるんだね。便利だな。
ただ、受け止められたドナンさんが不敵な笑みで、受け止めたピュティナ様の方が表情を歪めているんだけどさ。
「まああ、お強いですわあ」
「強いですね!」
「ピュティナ様の守護のおかげです!」
他の兵士たちの攻撃を、セーブルさんや聖騎士たちが受け止めてやっぱり顔を歪める。あーさっきの光、そういう効果か。んで、こっちが何とかなっているのはピュティナ様のおかげ……補助魔術、地味に重要なのよねえ。
「少なくともお、王都を狙った魔術攻撃よりは強いですわあ」
「それ、ものすごく強くないですか!」
「当然だ! スクトナ様のお力なのだからな!」
ピュティナ様、のんびりした口調でとんでもないことを言うんだよなあ。ドナンさんが偉そうに攻撃を加えてくるのに、思わず私は祈った。こちらの聖騎士たちやピュティナ様に、最低限あちらと同等レベルのバフください。いや無茶だなあ、私。
「……あらあ?」
なんて思っていたら、ピュティナ様の表情が和らいだ。そうして、「ふんっ!」と勢い良くドナンさんを弾き返す。あ、魔女にぶつかった。
「きゃあ! 何するのよドナン!」
「も、申し訳ありません!」
いや、そこは二人でいちゃついとれ。正直相手するのがめんどくさくてしょうがない、ラスボスと、それから顔見知りだし。
……あれ、そうするとスクトナ様はどうすんだろう、なんて思ったので視線だけをずらしてみる。
「魔女様! ドナンはわたくしの騎士です!」
あー、涙目になってる。そうか、少なくともスクトナ様がドナンさんのこと気に入ってたのはガチか。それもあって、一緒に寝返ったと。
いや、敵になられたこっちの身にもなってほしい。スクトナ様の能力のせいで、面倒くさいことになっているんだから。何かこっちもバフ入ったっぽいんでどうにか互角、といったところまで行けてるみたいだけどさ。
「王国の兵たちよ! 今こそ我らが聖女の祈りに応え、敵を討つときだ!」
「聖者セーブルが振るう剣に、今こそ続け!」
『おおおおお!』
セーブルさんが気合を入れるように叫び、ガルデスさんがそれに乗じる。
単純ではあるけれど、私たち聖女とセーブルさんが戦場にいる意味は他の兵士たちの士気を奮い立たせ、敵を倒すための気力になることにあるんだよね。もちろん、それぞれの能力だって重要だけど結局数は正義、みたいなところあるし。
「冗談じゃないわ! だいたい、こんなに聖女がいておまけにチート能力なんて聞いてない!」
「そこまで書いてませんでしたもんねえ、『のはける』には」
魔女はどこまでも、『のはける』の内容にこだわっているんだと思う。だから、あんなふうに喚くことができるんだ。
それに対して私は、こう現実がっつり見てきたもんな。多くの聖女や聖騎士たち、国王陛下夫妻とかほか色々。そして、平民キャルンとしての十五年の人生も。
「いい加減、『のはける』から離れましょうよ。私たちはあの未来を進んでいるんじゃない、現実世界を生きてるんだから」
「馬鹿なことを言わないで! わたくしは、この世界をわたくしの世界にするしかないのよ!」
魔女の声に泣きが入ってる。だけど、あいにく同情なんかしてられない。私は再び、祈ることにする。
この馬鹿魔女をぶん殴りたいので、もう少し力を貸してください、神様。




