92.聖女と騎士はアイテ
「な、なな、何を言っているのよ!」
状況が不利だとわかったからなのか、魔女が大声を張り上げた。聖騎士の一人が足を踏み出そうとして、何かに触れたのか怯んだように足を引っ込めた。えーと、地味に結界というかバリアというか張ってるんだな。
「お前は本来の歴史から、世界を歪めているのよ! そんなこと、許せるわけがないじゃない!」
「そんなに、王国を潰したいんですか? どっちみち、帝国は潰れないのに」
「なっ」
私たちの知ってる未来、要は『のはける』の展開。その中では、グランブレスト王国はワリキューア帝国との戦いに敗れ、併合される。帝国は魔帝陛下とその后となったエンジェラ様の元、発展を遂げていってエンディングだ。
魔女、あんたがそれを知らないとは言わせない。もし王国が滅んだとしても、魔帝陛下と対立する勢力であるあんたたちに未来はない。あったとしたらそれは、『のはける』とは異なる展開だ。
「あなたが言う本来の歴史では、あなたも破滅するしかない。つまり、何やっても無駄なんじゃないですかねえ?」
「私はいいのよ!」
「まああ、おっしゃってることがおかしいですわねええ」
「要するに、自分の好き放題な未来にしたいためにキャルン様を利用しようとして失敗したマヌケな魔女、ですよね」
すごいなあ、ダブルスタンダード。それからピュティナ様、エイク、もう言いたい放題言っちゃって構わないかな。多分、議論はこのまま平行線だろうし。
「貴様ら、魔女様に向かって無礼であるぞ!」
「どきなさいませ!」
突然どがん、と何かが爆発する音がした。続いてずば、ばさっとものが切り裂かれる音も。というか、あの声は聞き覚えあるぞ、男のものも女のものも。
「遅いですわよ! 聖女スクトナ、騎士ドナン!」
「申し訳ございません、魔女様!」
「少々、手間がかかりましたので」
テント吹き飛ばしたその向こうにいたのは、やっぱりというかスクトナ様とドナンさんだった。ただし、衣装は王国にいたときとは違っている。
スクトナ様は真っ黒なドレスで、どう見てもあんたも魔女だろという風貌になっていた。やだ、化粧厚いし。
ドナンさんは、聖騎士のときと同じ武装なんだけど色がどす黒くなっている。染め直したのか、同じ形で作ったのかどっちだろ? あと、何かげっそり痩せてる気がするんですが。
そうしてその後ろ、というか私たちを囲むように、よく似た色の武装をした兵士たちが並び立っていた。ううむ、これは自分のところの兵士たちなんだろうなあ。
「我ら、魔女親衛隊! 愚かなる王国と帝国に裁きの鉄槌を振り下ろすため、ここに罷り越した!」
「……」
ドナンさんが誇らしげに宣言してくれたんだけど、見てよ。エイクが眉間揉んでるじゃないの。曲がりなりにも実の兄が何やってんだ、って頭痛に襲われてるんだぞ、多分。
「エイク。気持ちは分かるが、敵だ」
「分かっていますよ。ただ、あれが兄かと思うと恥ずかしくて」
ガルデスさんの言葉に返したエイクの返事に、何かこちら側の皆がうんうん頷いた気がする。しかしまあ、警戒は外れてないっぽいのがさすが聖騎士と言うか。
それに、ぶっちゃけ強そうな気配がするんだよね。魔女と違って、なんだかんだで実力はあるはずだし。それは、他の兵士たちも同じことだろう。
「帝国軍の方は、道を塞いで足止めをしております。魔女様、聖女にお裁きを」
「ふふ、ありがとう騎士ドナン。さすがは聖女スクトナが認めた騎士ね。私に力添えを頼むわよ」
「お褒めに預かり光栄です。おまかせを」
魔女に褒めてもらってとても嬉しかったのか、ドナンさんはひどく張り切った表情で剣を構える。う、さすがに殺気がこちらに向けてびりびりと放たれてるわ。こちらの聖騎士たちも、私たち聖女も、しっかりと気を引き締めて構えた。




