91.現実は物語とチガウ
「キャルン様?」
「一体、どういうことなんだい?」
ああ、みんながこっち見る。エンジェラ様とセーブルさんが代表して上げたのは、疑問の声。ははは、そりゃ私と魔女以外の人たちには分からないよねえ、『のはける』なんて。
この世界がその略称で呼ばれる小説の中に書かれた世界、それとよく似た世界だなんてこと。
「……んー」
さすがに、そのまま説明するのもおかしな話だ。まあ、私が私だと自覚してから一応はいろいろ考えてみたんだけどね。いつか、説明する時が来る可能性があるからって。
「今まで黙っていてごめんなさい。実は私」
「ちょっと、キャルン!」
「聖女としての素質を認められたときに、ちょっとした嫌な未来を見ちゃったんです」
「嫌な未来、ですのお?」
ひとまず魔女は黙っとれ。あんたより私のほうが、王国内では信頼されているはずだからね。
なので、嘘でもないけれど微妙に本当からずれる言い訳を私は、皆に話す。
「その未来では私は、そこのお間抜け魔女が言うようにフランティス殿下に近づいて、エンジェラ様を蔑ろにしてしまった。詳しいことは省略しますが、それがきっかけでグランブレスト王国は酷い結末を迎える……そんな未来です」
「あ、あんた、なに」
何言ってるんだ、って顔をしているよ魔女め。『のはける』ってそういう話だろうが、伊達に円盤買ってないぞ前世で。
ああ、もしかして私が自分自身が破滅する話を口にするはずがない、とかそんなこと考えているのかしら? やーねえ、現実になってないんだから別にいいじゃないか。あんたの思惑からもずれてるみたいだし。
「とはいっても、実際にお会いしたフランティス殿下もエンジェラ様も、とても良い方々でした。お二人の仲睦まじさもはっきり拝見させていただきましたし」
「あら」
「確かに、お二方とっても仲がよろしいですもんね」
で、ここからは本音をぶちまけて差し上げよう。エンジェラ様が頬を赤らめるのも可愛らしいし、エイクが楽しそうに頷くのもいいよね。
魔女は私を『のはける』のとおりに動かしたかったんだろうけれど、それができるはずもなし。というか、そこからどうするつもりだったんだろうね? ま、知ったこっちゃないけどさ。
「ていうか、殿下とエンジェラ様の仲引き裂くとかめっちゃ無茶すぎますって! お二人ともお綺麗でかっこよくて、そのまま仲良くご夫妻になっていただいたほうがいいに決まってます!」
「こ、言葉遣いは少々アレですが、わたくしもそのご意見には同意いたしますわ。キャルン様」
んでまあ、思わず力説してしまったら一番にコートニア様が同意してくれた。これには私もびっくり、である。ツンデレ要員、そういうところまでツンなのか。うんうん。
「ちょっとキャルン、あんた、本気でそんなこと言ってるわけ?」
「フランティス殿下のことは嫌いではないですし、正直憧れてもいますけど。でも、エンジェラ様という素敵な婚約者がいらっしゃってお二人の仲も良好、何で割り込まなきゃいけないんですか馬鹿じゃない?」
「まあまあキャルン様あ、本当のことおっしゃってはいけませんよお」
魔女はひどく焦っているけれど、別に私が困るわけじゃない。万が一困ったところで、ただの平民の娘に戻ってしまえば何の問題もないんじゃないかな、と思う。
あとピュティナ様、はっきりしっかり魔女をけなしておられるのはさすがです。見習いたいなあ。
「……ええと、キャルン様」
おっと。
ガルデスさんが、こちらに視線を向けてきた。いかんいかん、私の話ばっかりしてる場合じゃないわね。彼にも聞きたいことはあるだろう。
「つまり、あちらの魔女も同じような未来を見ていた……そういうことなのですか」
「あ、ええ。多分そうです」
彼の質問は、魔女についての確認というやつだった。そうそう、彼女もおそらく『のはける』を読んでいて、あの展開に持ち込んだあと自分の好きなようにやるつもりだったんだろう。難しいことは分からないけれど。
それで、物語のキーである私、キャルンがちゃんと動かなかったためにこんな事になってしまって。
「おかしな未来に持ち込みたかったのだけれど、彼女はそうできなかった。故に、力ずくで自分の望む未来を目指そうとした、愚か者です」
まったく、無茶をやりおって。




