90.魔女の中身はオナジ
「お外にい、魔薬をかがされたのか色ボケしている方々が昏倒していらっしゃいますのでえ、コートニア様とエンジェラ様はそちらをお願いいたしますう」
「念のため、ピュティナ様と僕で全員拘束しておきましたので、問題はないと思いますが」
満面の笑みを浮かべたピュティナ様と、その横で疲れた顔をしてるレックスくんのセリフに魔女が「は?」という顔をしてる。何人薬漬けにしたのかは分からないけれど、まあピュティナ様だしね。
「どうりで、魔女お一人のわけですわ」
「まさか、セイブレストのご令嬢の実力を過小評価されていた、のかしら」
エンジェラ様とコートニア様が地味に嫌味をおっしゃっておられる。まあ、気持ちはすっごく分かるけど。
「ば、ばかな! あれほどの数を、二人で」
「実質的にはピュティナ様お一人で、ですけどね。僕はサポート役ですので」
「ぐっ……」
レックスくんの言葉を理解したのかしてないのか、魔女はその手に魔力を展開しようとする。ただ、次の瞬間レックスくんが手に持っていた……多分小石をぶつけてその展開を邪魔した。いや、サポート役っつっても十分役目果たしまくってるよね、それ。
「コートニア様。わたくしどもは、兵士たちを癒やしに参りましょう」
「そうですね。こちらはお任せいたしますわ」
「はあいー」
そして、エンジェラ様とコートニア様はピュティナ様言うところの色ボケ軍団を治療しに出ていくようだ。さて、私は……と考えてるところに、コートニア様と視線が合った。
「キャルン様は、どうなさいます?」
「私はこちらで。どうもこの人、私を狙ってきたみたいなんで」
「承知いたしました。では」
「お気をつけくださいませね、キャルン様」
「はい」
あんまり危険だと思ってないぽい聖女二人とお付きを送り出して、私は魔女に向き直った。
ガルデスさんとセーブルさん、エイクにレックスくんとあと数名が魔女を取り囲み、剣の切っ先を向けている。薬を持ってるから、下手に接近できないっぽいのが面倒よね。
「ふん。聖者も聖騎士も、全部我が傀儡になればいいのよ」
「あらあ、駄目ですわよお?」
「ぎゃ!」
ばちん、と破裂したような音。でも何かが壊れたわけではなく……薬瓶が小さな結界の膜で包まれてる。うわあピンポイントバリア、なんつー精度だ。
「魔女といっても、当人の実力はさほどでもないということか?」
「聖女様方の能力が高い、ということでしょう。あちらは一人、こちらは四名ですし」
セーブルさんもガルデスさんも、のんびりした会話の割に警戒は解いていない。そりゃまあ、王国や帝国を向こうに回して戦やろうとする人なんだものね。何か仕掛けていてもおかしくない、というのは分かる。
ただ、なんで私名指しできたのかはわからないんだよねえ。聞くか、と思っていたら。
「聖女キャルン、お前のせいよ! お前が王太子を陥落させようとしないから!」
「は?」
魔女は唐突に、そんなことを叫んできた。いやいや、それはないから。私、そうならないようちゃんと避けたし。
「どういうことだ?」
「だって、平民出の聖女なんて上を目指すのが当然じゃない! 王太子と近いところに行けるんだから、狙うの当然でしょうが!」
「そんなわけないけど」
エイクの疑問に答える魔女の言葉、まあ『のはける』キャルンなら分からんでもない。
だけど、私はあのキャルンとは違うんだから、そんなルートを選ばずにここまでやってきたんだ。
「そんな訳あるでしょうが!」
「フランティス殿下とエンジェラ様、とても仲がよろしいんですよ? そばで見ている自分も幸せになるくらいにね。それを潰したいなんて、とても考えられないわ」
「おかしいじゃないの! キャルンのくせに!」
……ん?
キャルンのくせに。
この魔女、何でそんな事を言うんだろうと思ったけど……もしかして。
「……『のはける』?」
「っ」
わざと略称で呼んでみせた作品名に、わかりやすく反応した。周囲の皆には理解できないだろうけれど、この言葉がわかるということは、そういうことか。
つまり、この魔女は。
「ああ。私と一緒なのか、あんた」
私と同じく、『真の聖女は魔帝の寵愛を受ける』の読者がこの世界に転生してきたわけか。




