87.守り守られフレンズ
「はっ!」
ゲルダさんが、息を吐くと同時に素早く四人のところに走り込んだ。いきなり姿勢を低くして走っていったから、もしかしたらあっちの四人はゲルダさんが消えたように見えたかもしれない。
「なっ!」
「こっちも!」
で、彼らの意識がゲルダさんに向いたところでエイクや他の騎士たちが動く。いやさあ、少数精鋭なんだからもうちょっときちんと隠れて動こうよ。
「貴様、騎士ともあろうものが名乗りも挙げず!」
「はん、敵方の甲冑を剥いで着込んで潜入するような相手が、こちらが名乗る余裕などくれるわけがなかろうが。隙ありとばかりに斬りかかるつもりだったのだろう?」
ゲルダさんが切りかかったのは、四人の中でもそれなりに体格がしっかりした一人。まあ、本職剣士とかそのあたりの人なんだろう。言動があれだから、そもそもは騎士なのかもしれない。知らんけど。
というかゲルダさん、名乗る余裕はくれなくてもその長台詞話す余裕はくれるんだその人。いや、鍔迫り合いぎりぎり真っ最中だからなんだけどね。ついでに言うと、ゲルダさんのほうが押している。
他の三人も騎士たちやエイクといい勝負……いやいや、それどうよ。おかしいだろ、選抜決死隊だろこの人たち……というところまで考えて、あっと気がついた。もしかして、もしかしたら。あ、いた。
「エンジェラ様、伏せて!」
「きゃっ!」
慌ててエンジェラ様の上に覆いかぶさるようにして、地面に倒れ込んだ。うん、背中をかすめるようにして飛んできたぞ、毒付きっぽい短剣。やっぱり、そっちが本命だったかあ。
「貴様ら!」
「……!」
騎士の一人が、こちらも短剣を投げつける。見事にクリティカルヒット、向こうでどさりと人が倒れる音がした。即座に騎士数名がそちらに向かって走っていくのを確認してから、私は一旦横に避けて起き上がった。エンジェラ様、いきなり押し倒してごめんなさい。
「……た、助かったのですわよね?」
「ええ、多分」
いまいち状況を掴みきれていないっぽいエンジェラ様だけど、周囲の聖騎士たちが武器を収めつつあるのと最初の四人がフルボッコにされてる様子を見ればまあ、分かるよね。
それから私の方を見て……にっこりと微笑んだ。あうー美人だし可愛らしいし、そりゃ魔帝陛下も惚れるわ。いや、今の世界じゃなくて『のはける』の話だけど。
「もしかして、わたくしを守ってくださったのですね? キャルン様」
「ええ、まあ。だって危なかったです」
ですし、とまで言う前に私は、エンジェラ様にぎゅうと抱きしめられた。あうー、戦場でなかなか身体清められないのにいい香り……いや、体臭消しの香水かなにかか。うん、考えるところはそこじゃないな、私。
「キャルン様のお力は、わたくしどもや我が王国軍にとって大切なお力なのです。ですから、キャルン様はまずご自身をお守りくださいませ」
「それでエンジェラ様を蔑ろにするわけにはいかないですよ。大切なお友達だし聖女の仲間だし、フランティス殿下の大事な婚約者なんですから」
私は確かに癒やしの能力がすごい聖女かもしれないけれど、しょせんは田舎の平民出だしね。
……『のはける』キャルン、何であそこまで自分はすごいんだとかエンジェラ様排除とかに走れたんだろう、とすっごく疑問に思う。つーかエンジェラ様もフランティス殿下も、めちゃくちゃ優しい人だしなあ。
「それでしたら、キャルン様はわたくしの大切なお友達なのですよ? お友達がわたくしをかばって傷ついたら、わたくし悲しいですわ」
「……っ、ご、ごめんなさい」
おう、同じ言葉使って反撃されたよ。ここは謝るしかないなあ、うん。いや、確かにそれは私がエンジェラ様の立場でもそう思うわね。
……ここはまあ、八つ当たりするか。ちょうどいい方々がいらっしゃるし。
「くんぬ!」
「もがっ!」
エイクがぎりぎりと縛り上げていた刺客パーティの一人の顔をビンタさせてもらったけど、私悪くないよね?
「生命狙ってきた相手からの反撃が、これでよかったですねえ」
そう言ってにっこり笑ってあげたら、ひどく顔をひきつらせていたなあ。まあ、猿ぐつわされてるから反論できないだろうけれど。




