86.敵陣に潜入パーティ
サンドイッチをもぐもぐ頬張りつつ、ふと気づいた。ドリンクで飲み込んでから……うーん、そばにいるのはエンジェラ様だなあ。尋ねてみるか。
「そういえば。ピュティナ様、結界張り通しじゃないんですか?」
「え?」
公爵令嬢なだけあって、サンドイッチを口にするにしてもエンジェラ様は品があるんだよなあ。くっそ、ど田舎娘としてはそこらへんが羨ましい。
こくりと口の中のサンドイッチを飲み込んで、エンジェラ様は私に向き直った。
「王国軍にも帝国軍にも、結界を張れる術師の部隊はおりますわ。三交代制とか、ピュティナ様はおっしゃっておられましたけれど」
「なるほど」
そうかそうか。だよなあ、この世界で結界ってのは防御の一種として定番になってるわけで。当然、軍にも専門部隊がいたっておかしくないわけだ。
しかし……王国軍部隊、帝国軍部隊、ピュティナ様で三交代とな。つまりピュティナ様は、一人で軍の一部隊分の働きを……うんまあできるか。一人で王都カバーしきったもんなあ。
「ピュティナ様、ご自身で戦うこともできるし王都まるごと守ることもできるし、すごいんですよねえ……」
「まあ。キャルン様の癒やしのお力も、とても素晴らしいとわたくしは思いますわよ」
「そ、そうですか?」
「ええ、もちろん」
はっ、しまった。何でか話がこっち向いてしまったよう。というかもちろん、と断言されるレベルの能力なのかなあ、私のは。
だいたい、一度にたくさんとは言え軽傷の人を治せるだけだものなあ。重傷者はエンジェラ様とか、多分コートニア様も頑張ってくれてると思うわけで。
「……キャルン様、気がついておられませんのね」
「はい?」
だから素直にそう言ったら、エンジェラ様は目を丸くしてそんなことを言ってきた。おい、私何か間違っているのかもしかして。
これはあれか、僕また何かやっちゃいましたのパターンか。
「わたくしやコートニア様は、致命的なダメージを負われた方の応急処置をしているだけですわ。キャルン様の癒やしの力は、どうにか生命をつなぎとめることができた方々の傷も癒やすことができるのですよ?」
「そ、そうなんですか?」
ああ、まじでそのパターンだったぽい。軽傷だと思っていた人たち、中に重傷者も混じっていたわけだ。それで、それを私の祈りが一発回復してたわけか。
「……実は私、すごかったんですね?」
「ええ、キャルン様は素晴らしい癒やしの聖女なのですよ。ぜひ、自信をお持ちくださいまし」
「は、はいっ」
うわあ、エンジェラ様にそんなこと言われて自信というよりもあれだ、傲慢にならないようにしないと。
つか『のはける』キャルン、あんたも同様の能力持ってたはずなのに帝国との戦で何やってたんだ。ひたすらお城でビビってただけかい……だから最終的に排除されるんだよ。まったく、我ながら情けない。
少なくとも、この能力を今ガッツリ使わないと王国軍も帝国軍も大変なんだろうから、私は頑張らなくちゃ。うん。魔女は軍が何とかしてくれるだろう、もしくはピュティナ様がぐーで殴るとか。
「聖女様、すぐお下がりください!」
と、兵士の一人が慌てて駆け込んできた。ひどく疲れた様子だけど、何かあったのだろうか。いや、何もなければ来ないわな。
「どうなさいました?」
「少人数の敵部隊が潜入している模様です!」
「へっ」
マジか。魔女め、数名のパーティをこっちに潜り込ませて来やがったか。ほらよくあるよね、大部隊を囮に少数精鋭をボスのところに向かわせるアレ。実際の戦だとどうだか知らないけど、この手のゲームや小説やアニメだとよく使われる作戦。
「あれですか」
「ちっ」
それを、魔女側がやってきたらしいな。ああ、エンジェラ様が睨みつけたところにいる、王国軍の武装しちゃいるけれどサイズがちぐはぐな四名。
私たちをかばうようにゲルダさんやエイク、そして聖騎士部隊の人たちが次々に剣を構えた。
……ところで、さっきの考え方だと魔女は、私たちをボスと狙っているわけ? 何でだ。