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80.行軍の途上のバリア

 帝国側とどういう話があったのか、私は知らない。

 ただ、現在私たちは大きな馬車で戦地へと移動中である。聖騎士部隊がごっそり護衛についていてくれて、ゲルダさんやエイクなんかは馬車のすぐ横を馬に乗って進んでいる。騎士、というだけあってちゃんと馬に乗れるんだと感心した。主にエイクについて。


「こういうときはサクサク進むんですね」

「潰す敵があ、分かっておりますからねえ」


 聖騎士たちとは馬車の中と外で会話しにくいこともあり、会話は主に聖女同士でやっている。現在の話題は……つーか、今後についてだ。一応戦場に向かってるわけだし、実際に戦わないにしても状況は知っておきたいもんね。

 展開がめっちゃ早いことについてピュティナ様は、「魔女を叩き潰せばいいんですよお」とのんびり笑顔である。まあ、今回の戦はそうだよね。

 窓から外を見ると、遠くに山脈が見えてきた。王国と帝国の国境でもある、『壁』山脈だ。もう少しどうにかならなかったのかこのネーミング、とは『のはける』で出てきたときから思っていたんだけど、リアルに見てみたら壁だなあ、うん。


「『壁』山脈ですわね」

「あの山の中腹に、スヴァルシャの魔女の本拠地があるというお話ですわ」


 エンジェラ様とコートニア様が、その『壁』を見ながら言葉をかわす。壁っぽくても山は山なので、途中に谷っぽいところとかあるらしい。そこに、魔女は本拠地を構えているということのようだ。昔、王国と帝国の仲がすごく悪かった時代に国境を守るために作られた砦があるとかなんとか。


「まああ、頂上になんてとても住めそうにないですしねえ」

「建築材料、食料や水、そもそも人間などなど、あの上にはとても上げられませんものね」


 ピュティナ様が、目を丸くしつつ『壁』をジロジロ眺める。……もしかしたら、この後攻略するための確認かもしれないけれど。

 と、その目が一箇所に止まった、みたいだ。ええと……ああ、山と山の間に何か森がぽっかりえぐれた部分が見える。そこか。


「ひどく凹んだ場所がありますわねえ」

「何でも魔女が、魔術や道具などの実験を繰り返していたそうです」


 彼女が肩をすくめたのに、コートニア様が書類をペラペラめくって確認する。実験て、って思ったんだけど、そう言えば思い当たるフシがあったな。


「ああ、あの遠くから撃ってきた魔術攻撃とかですか」

「そういうことですわ。射程距離や威力などを確認しませんとね、うまく使用できませんでしょう?」

「それもそうですね」


 そっか、ぶっつけ本番じゃないんだ。当たり前か。

 一発しか弾がなくてぶっつけ本番じゃないと使えない、とかそういうものじゃなかったもんな、あの長距離魔術ビーム。魔力さえ補充できれば、何発でも撃てるタイプだった。

 あのシステム、ちゃっかり王国軍が確保してるらしいけれど使うのかな? いくらなんでも、私たちが魔力補充役とか言ったらぶん殴りたい。エイクに頼んだら困るだろうなあ、あの子。


「帝国側も確保なさったようですけれど、他にも存在するのは否定できませんわね」

「その割には、あちらから攻撃してこないみたいですけれど」


 エンジェラ様の言葉に、思わずそんな事を言ってしまった。いや、もしかしたら防衛用にあれより射程距離の長いやつを確保しててもおかしくないしさ、魔女ってば。

 でも、私の不安に対してエンジェラ様は、穏やかな笑顔で答えをくれた。


「それは、ピュティナ様がおられることを考慮に入れているのではありませんか?」

「あらあ、わたくしですかあ?」


 ほんわか。

 何の邪気もない笑顔だけれど、目がね、ひどく殺る気に満ち満ちているんですよ、この人。いやもうさすがセイブレスト辺境伯の血を引くご令嬢、としか言いようがない。血の気が多すぎる一族に生まれた聖女様って、戦闘能力も高いからなあ。

 コートニア様が「王都、守りきってしまわれましたからね……」とため息交じりに言うのに、ピュティナ様は笑顔を崩さないまま言ってのけられた。


「まあ、この部隊ぜえんぶ結界で守っておりますけれどお」


 やっぱりか。

 私と、エンジェラ様と、コートニア様。多分、三人とも心の中で同じ単語を述べたに違いない。

 いやだって、今進軍している全部隊を結界で覆ったところで王都よりは規模小さいし。


「そこに魔術を撃ち込んでも、無駄な魔力消費に終わるだけですわ。そのくらいのことは、魔女もおわかりかと」

「なるほど。戦力の温存ですか」

「そうでなくとも、魔力供給源が少なくなっておりますものね」


 そりゃまあ、王都襲撃が大失敗に終わったことくらい報告は行ってるだろう。スクトナ様やドナンさん辺り、ピュティナ様の能力を知ってるだろうから魔女が知っていてもおかしくないわけで。

 だから魔女は、今自分のところに向かっている王国軍をピュティナ様の結界が守っているであろうことを推測して、撃ってこない。魔女側の魔力を、どんどんすり減らすだけだから。

 ……ちなみにピュティナ様も、結界を張るときは当然魔力を使うんでほいほい張りまくるわけには行かないらしい。ただし、必要になったら即展開とかできるので基本的には問題ないとのこと。攻撃が来るのはレックスくんが分かるんだって。すごいな聖騎士。

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