74.魔女の狙いはオマエ
「いひい?」
あ。
ローブの彼女と、目が合った。何だかやばい、という直感を持った次の瞬間。
「あひゃひゃひゃひゃ!」
突然彼女が、高笑いを始めた。いや、さっきまでも笑ってたけどさ、また違う声というか。
「ほうら、ほうら魔女様、いましたよお! 出てきてくれましたよお聖女があ!」
「は?」
「……む」
「うわ、うるさっ」
ええと、私を聖女と認識……できるか。この服着てるのが聖女、って情報くらい帝国にもあるだろうし。でも、どうやら魔女の思惑に引っかかっちゃったってことなのかなあ。
セーブルさんは眉をひそめ、エイクはめんどくさそうな顔をして耳をふさぐ。うん、確かにあのけたたましい笑い声はうるさいよねえ。
「あはははは、どおして今頃出てくるのよお! じょーだん、じゃないわっ!」
「え」
すっくと立ち上がる、彼女。そのままフラフラと、酔っぱらいみたいにふらつきながらこちらに近づいてくる。エイクが私の前に立ってくれたのは、さすがというか聖騎士だなあ。セーブルさんも、身構えてる。
「あんたがあ! 魔女様の狙い通りに動いてくれないからあ! こんなところまで来なくちゃならなかったのよおおおおお!」
「狙いなんて知らんがな!」
両手を上げて、がおーと私に向けて吠えた彼女に思わず素で返す。いやほんとそちらの狙いとか思惑とか、私が知るわけないだろうに。
「寝てろ!」
「ぷぺっ」
そこにエイクが、彼女の眉間にチョップを一撃。衝撃でクラっと来た彼女は、そのまま後ろにばったんと倒れ……たのはいいけれど仕切りの布とか巻き込んだ。ま、あれがクッションになったっぽいし、大丈夫でしょう。
「よし、寝ました!」
「良い一撃だった」
一発撃墜にガッツポーズを取るエイクを、セーブルさんがよしよしと頭をなでて褒める。いや、それいいのか?
まあ、この状況で剣振り回したらアレだよねえと思いつつ。でも、眉間にチョップはないだろう、エイク。兵士に連れて行かれたあの人、目が覚めたらどうなるんだろうと思いつつ見送った。
「……ところで」
ひとしきり褒められて満足したらしいエイクが、私の方に向き直る。うん、何か別の問題が出てきたよねえ、たった今。
「魔女の狙いって、何だと思われますか?」
「私に分かるわけ、ありませんわよ。私、まだまだ新米聖女だもの」
「新米かどうかはともかく、私も分からないなあ」
エイク、私、セーブルさんでうーんと考える。まあ、最終的には魔帝陛下とこっちの王家を潰すのが狙いだと思うのだけれど、それで何で『聖女が魔女の狙い通りに動かない』とか文句を言われるのかは理解できない。
私たちが知らないことを、知っているかもしれない人は……ああ、いるな。ここに、たくさん。
「魔女の狙いについて、少しでもいい。知っている者はいるか?」
そのことをセーブルさんもすぐに把握したようで、元の広場に溜まっている人たちを見渡しながら問うた。ほとんどの人はお互いに顔を見合わせながら首をひねったり、露骨にこっちから目をそらしたりしている。後者、知ってるけど言いたくない口だな?
「あ、あの」
その中で、わりかし神官っぽい服装の女性が恐る恐る手を上げた。周囲からの視線が軽く痛いみたいだけど、セーブルさんがそちらを睨むと視線の痛みは止んだみたいね。そうそう、あなたがた捕虜ですからねー。多分魔女さんからは今後無視されたり見つかったらぷちっと潰されるタイプの。
「よし、来てもらおう。連れてこい」
「はっ!」
セーブルさんの指示で、彼女は他の兵士さんに抱えあげられるように立ち上がった。服装のあちこちが汚れてるけど、傷は大丈夫っぽい。いや、私が治したからだけど。
「キャルン様。同席なさいますか?」
そうセーブルさんに尋ねられて、私は一も二もなく頷いた。だって。
「はい。私や他の聖女様たちに向けた魔女の狙い、聞いてみたいです」
こっちだって、知りたいことはあるもの。