72.聖者アフターウォー
夕方過ぎになって、出動命令というか依頼というか、がかかった。なんでも、レックスくんの案内で敵部隊を発見した近衛隊が連中フルボッコにしたらしい。以上、丁寧な言葉できた報告の意訳。
「負傷者が敵味方それぞれに数名出ております。味方に関しましては軽傷ゆえ問題はないのですが、敵捕虜の治療をお願いしたく」
「は、はい」
つまり、まじで近衛隊は敵フルボッコにしたようだな。んで生き残りを捕まえたか何かして、連れ帰ってきたと。それで、急ぎで治療したい事情があるのかもしれない。
そんなわけで私は、エイクに付き添ってもらって王都の外まで出てきた。草原にテントが張ってあって、近衛隊の人たちととっ捕まえてきた敵さんたちはひとまずそこにいるんだそうだ。まあ、敵の人たちをそのまま王都に連れて行くわけにも行かないか。
「癒やしの聖女様をお連れしました。怪我人の方は、こちらでよろしいですか」
「はい! よろしくお願いいたします!」
エイクが連れてってくれた先は、まず近衛隊の人たちのところだった。アレ、と思ったんだけどどうやら、ここの責任者の人に会わせるということみたいね。
「失礼いたします! 聖女様をお連れいたしました!」
「ああ、ご苦労さま。……確か、エイク・カリーニくんだったね」
「は、はい!」
おー、銀髪碧眼中肉中背イケメン騎士。……ん? 確かアニメで見たことあるぞ。えーと、近衛隊の責任者、となると確か……。
「自分は近衛隊第一部隊隊長、セーブル・クラッパと申します。どうぞ、お見知りおきを」
「は、はい。キャルン・セデッカです」
セーブルせーぶる……あ、思い出した。
聖女よりもレアな存在、聖者セーブル。ちょい役で出てきてたんだけど、リアルでまじまじと見てもイケメンな設定がアニメだともっとイケメンなのですごく人気が出たっけなあ。
確か『のはける』では王都の人たちを連れて、何とか辺境まで落ち延びた、みたいな話があったっけ。さすがに主人公エンジェラ様や魔帝陛下に、めったやたらに一般人殺戮させるわけにもいかなかったんだろうな、と見てて思った。
「えっと……噂に聞いた、聖者様でいらっしゃいますか?」
「ああ、はい。そうです」
うん、あっさり頷いてくれたね。
近衛隊の隊長に据えて、国王陛下の命により動くこの人は、あんまり周囲にその素性を知られてないって『のはける』では言ってたっけ。まあ、貴族の出でウルトラレアだしな。素質が分かった時点で皆に口止めして、王城に報告がすっ飛んでいったんだろう。
「聖者って、本当におられたんですね」
「ひどく珍しいものですから、よく言われます。王族と近衛隊、聖女様がたくらいにしか明かすなとは言われていますね」
ああ、ある意味秘密兵器なんだ、セーブルさん。まあ、ラハルトさん辺り知ってそうだから、そこから魔帝陛下には行ってるかな。魔女さんたちに知られてなければいいんだけど。
「ということは、近衛隊の方々に負傷者が少ないというのは、セーブル様のおかげということですか」
「それくらいしか、取り柄がないんです。聖女ピュティナ様より狭い範囲での、防御能力が基本ですので」
思わず聞いてみると、苦笑しながらセーブルさんは能力を教えてくれた。いや、それ基準間違ってるから。ピュティナ様、王都まるっと守れる人だし。
ということは、対人戦で支障ないレベルの結界とか張れる人なわけだ。なるほど、王都の人たち連れて逃げるのにも適した能力なんだろうな。……変なところで『のはける』との設定の一致を見ているなあ、私。
「では、自分がご案内いたします。今回応戦した相手のほとんどはあまり戦闘能力のない神官や術師でしたので、彼らを安堵させる意味でも聖女様のお出ましを願ったんですよ」
「ああ、そういうことですか。分かりました、よろしくお願いします」
セーブルさんにそう言われて、ぺこりと頭を下げる。
……というか、なんで長距離魔術ビーム部隊のほとんどが戦闘能力ない人なのよ?




