70.お茶の時間のトーク
まあ、そんなすぐに聖女の出番があるわけではなかった。私の出番は、戦闘で傷を負う人が多くなってからだ。
それでも、いつでも出られるように荷物の準備をして私は、宿舎で待機ということになった。ここにいるピュティナ様以外の聖女は全員、そういうことになっている。
エイクは聖騎士部隊の方に詰めていて、情報が入り次第私のところに来てくれることになっている。それもあり、今私の部屋には私とゼッタさんしかいない。
……で、思い出した。フラット・ロールさんのロールって名字、ゼッタさんと一緒なんだ。
「フラットは三人目の姉です」
「やっぱり」
んで尋ねてみたところが、そういう返事だった。お姉さん多いそうだからなあ、ロール男爵家。
「聖騎士になられた方もいらっしゃるんですね」
「さすがに上に四人もいますので、一人くらいは騎士も出ますよ。フラットは男に生まれなかったのが残念、と父に嘆かれた性格ですし」
「なるほど、それでお父上が許してくれたんですね」
まあ、女性の軍人は少ないけどいるんだよね。聖騎士部隊にも、ゲルダさんとかがいるし。ああ、でも彼女はある意味特殊か?
「ゲルダさんのところは、お兄さんが聖騎士部隊のトップですし」
「フラットも、ウーラ家に憧れていたというのはありますね」
ほうほうなるほどなるほど。ゲルダさんに憧れて、なのかガルデスさんなのか、まあどっちでもいいや。結果として聖女を守る役目を担っているくらい、聖騎士として頑張っているわけなんだから。
さて、荷物の準備なんてすぐに終わる。着替えと身の回りのものだけまとめればいいので、私はゼッタさんにお茶を淹れてもらっていた。いつでも出られるように、とはいいつつ暇なものは暇なんだよなあ。
「キャルン様」
「はい」
プチケーキを差し出してくれながら、ゼッタさんは私の名前を呼んだ。急に低い声で、真剣な感じで呼んでくるものだから私は、思わず背筋を伸ばす。
「戦場に出られたことはございますか?」
「いいえ。コトント村はそういう意味では平和だったので」
「わたくしもございません。ほどほどに、グランブレストは平和なようですね」
私はコトント村と王都、後はせいぜいガラティア様の回ったエリアくらいしか知らない。ゼッタさんもそういう意味ではロール男爵領と王都、くらいなんだろう。
それ以外の範囲で、内戦とか国境争いが起きたらしいのは……王都に来てから勉強して初めて知った。ほら、こういう世界って情報伝わるの遅いから。
でもまあ、戦は知らないけれどそれ以外での凄惨な場は見たことあるな。
「人間同士の戦争は知りませんけれど、人間と魔物との争いの場はよく目にしました」
「まあ」
「人を食う魔物は幸い出ませんでしたけど、それでも魔物にやられて死ぬ人はいるんです。怖くてたまりませんでした」
「……大変でしたね」
「辺境では、当たり前のことだったので」
何も知らなかったキャルンとしての私の経験を、ゼッタさんは少ない言葉で受け止めてくれたんだと思う。
キャルンになる前、前世なんて魔物すらいない世界で、自動車事故とかイノシシや熊が出現したりするニュースを聞いてたくらいだった私だけどさ。
この世界で私は、魔物が人を殺すところは幾度も見た。そうして、前世よりも戦が身近にあることもなんとなくだけど、理解している。更に自分が、その場において望まれている存在であることも。
「でも、きっと戦場で怪我をした人たちにとって私は必要だから。だから、行きます」
「留守を、お守りしております」
『のはける』でキャルンは、戦場に出ることなんてなかった。ずっと、フランティス殿下と一緒にいて、そうして。
でも、この私はそんなことしないからね!




