06.ほのぼのとロイヤル
ラハルトさんに案内されて、フランティス殿下とエンジェラ様に付き添われて。
「わしがクランブレスト国王、キンギオ五世である。こちらは我が妃、クィーナだ」
「はじめまして」
「は、はじめまして」
私は今、プラチナブロンドのロン毛ヒゲ国王陛下と、ハニーブロンド化粧濃いめ若作り王妃殿下の前にいまーす。おおう、思いっきり顔がひきつる。あ、化粧が濃いと言ってもさすがに白塗り口紅べったり、とかじゃないから大丈夫だからね、うん。
……『のはける』読んだときも思ったんだけど、キングとクイーンの変化形でてきとーなネーミングだよなあ。この国王夫妻。王子様がジャックとかジャッキーとかじゃないのか、って思ったけどまあいいや。その並びで行くと、私ジョーカーあたりにされそうだし。
「そなたが新しい聖女殿か。遠いところを、よくぞ参られた」
「は、はい。セデッカ伯爵家の養女となりました、キャルンです」
一応、エンジェラ様にカーテシーのやり方を習ったのでやってみる。うーん、自分でもぎこちないなあと思うよ。名目上でも貴族の娘ってことになったんだし、これからしっかり練習しないとね。
「ええ、お話は伺っているわ。片道五日ほどだと思うけれど、馬車の旅は大変だったでしょう」
「ずっと座りっぱなしでしたけれど、いろんなものを見られて楽しかったです」
「そう。それは良かったわ」
王妃殿下は私の緊張を解してくれるかのように、優しい言葉をかけてくれた。こっちがど平民の娘だってこと知ってるからか、内容も選んでるかな、これは。
「既に話には聞いていると思うが、平民から聖女が現れるのは珍しいことでな。故に身の回りでも色々と不都合があるやも知れぬ故、息子の婚約者であるエンジェラ殿と仲良くすると良い」
「はい、お話は伺っております。お気遣いありがとうございます」
「それと、世話役としてメイドと小姓を一人ずつつけよう。人を使うことには慣れておらんだろうが、聖女はなかなか忙しくなるものなのでな」
わざわざ、国王陛下自らご説明くださるとはありがたや。多分、私の面倒を見てくれるのがフランティス殿下の婚約者であるエンジェラ様だから、だろうな。陛下からしたら未来の娘だし。
「メイドはお部屋のお掃除や洗濯を、小姓は書類の書き方やスケジュールの確認などの事務的なことをお願いすればいいのですよ」
「な、なるほど。分かりました、ありがとうございます」
補足説明はエンジェラ様から。おーなるほど、そりゃ便利だ。……あ、書類といえば文字、ちゃんと覚えないとなあ。
「キャルンは、掃除や洗濯はどうしていたんだい?」
「小さい頃は親がやってくれてましたけど、十歳くらいからは自分でするようになりました」
「そうなんだ!」
んでフランティス殿下の方は、下々の者の生活について目を丸くしておられる。そりゃ、そういうところめったに見ないだろうな、王子様って。
……あれ。王妃殿下が、国王陛下見てにっこり笑ってる。しかしあの笑いは嬉しいとか喜ばしいとかじゃなくて、なんというかブラックな笑顔に思えるんですが。
「陛下、お言葉が柔らかくていらっしゃいますわね。良いことですわ」
「う、うむ。色々、考えることがあってな」
「平民出の聖女様の扱いを疎かになさって、わたくしにしばき倒されましたものね。陛下は……ああ、当時は王太子殿下でしたけれど」
「は?」
王妃殿下、国王陛下をしばき倒したことあるんだ。というか当時は王太子殿下って、つまり若い頃だよね。それで王様しばき倒せるって王妃様、実はめちゃくちゃ強かったりするんだろうか。
……この夫婦、結局『のはける』だとどうなったんだっけかなあ。王国側の描写が殿下とキャルン中心になっちゃって、終わりがたほとんど出てなかったんじゃないかな?
「聖女様に領主の養女という形をとっていただくのは、昔の陛下のようにその身分をもって扱いを変えることのないように、というご先祖様のお気遣いによるものですのにね。仮にも親元を離れ城仕えとなっていただく以上、その身柄はわたくしどもが責任を持って保護せねばならぬと言うのに」
「いや悪かった! あれはわしが悪かったから!」
「お二方、夫婦喧嘩はプライベート空間でお願いします!」
フランティス殿下、あれは夫婦喧嘩というより国王陛下が王妃殿下の尻に敷かれてるというんですがまあ、どうでもいいか。
あと、『のはける』のフランティス殿下がキャルンに優しくしてた意味もちょいと分かった。国王陛下が昔、平民出の聖女をないがしろにしたのを反面教師にしたんだ。王妃殿下にそう教育されたのか、どっかから話を聞いててフランティス殿下自身がそう考えたのかはわからんけど。
まあとりあえず、国王夫妻には歓迎されたらしいというのは理解した。最高権力者に悪い印象持たれてないってのは、こういう世界だと重要だもんね。あーほっとした。