66.会議はティータイム
「魔女の情報は、ラハルトを通じて帝国側に流れるように手配しておいた。そのうち、あちらでも手入れがあるんじゃないかな」
数日後、いつものようにフランティス殿下主催のお茶会。そこで殿下から、そういう情報をもらった。
うんまあ、ラハルトさんなら魔帝陛下のところに情報渡るもんな。……完全に知ってて利用してるな、殿下。多分、魔帝陛下も。
「お疲れ様ですわあ、殿下あ。できればあ、わたくしもおてつだいしたいのですけれどお」
「次に王城近郊に出たら、お願いするよ。セイブレストの力、使わないのはもったいないしね」
「ピュティナ様はともかく……こちらではどうなっておりますか? 大公家などは、王家が動いてくださらないとどうしようもございませんもの」
「グランビレ大公家も、さすがに押さえてはいるよ。当主夫妻と家族の身柄は領地の屋敷で軟禁、使用人たちも順次取り調べている」
ほにゃんといつもの口調のピュティナ様も、目は笑っていないのが怖い。うん、殴れる敵なら殴りたいでしょうね。私もだけど。
エンジェラ様の質問に殿下は、肩をすくめつつきちんと答えてくれた。セイブランとかならともかく、グランビレ大公家について取り調べるにはそれ以上の権力……ま、要は国王陛下の許可を得ないと駄目だよね。面倒だな、階級社会。
「まあ、当主なんかは自分は何も知らない、娘も利用されているだけだって叫んでいるみたいだけれどね」
「それで通るんですか?」
「さあね。もしかしたら実際、当主は蚊帳の外ってこともあるかもしれないし」
「スクトナ様がお一人で暴走なさった、というのも考えられる話ではありますね」
思わずツッコミを入れてしまった私に、殿下とコートニア様がきちんとお話をしてくれる。
ああまあ、確かにあのスクトナ様なら一人で暴走してもおかしくはないのか。でも、結局のところはグランビレ家をこの国のトップにもり立てるためだろうしなあ。娘のやってることを黙認してる可能性はあるか。
……ああ、そうか。グランビレの家を守るために、父親が娘を切り捨てることがあってもおかしくないのか。
それが、私が今いるこの世界だものね。スクトナ様は自分を誰かが助けてくれるって思っているみたいだけれど、親は無理みたいだし魔女も……無理だよねえ? 魔女にしてみたら、国境の向こうにいる貴族の娘ってくらいだろうし。
なんてことを考えているうちに、エンジェラ様が話を変えてきた。
「わたくしども、のんびりお茶を楽しんでいてよろしいのでしょうか?」
「いいんじゃないかな?」
エンジェラ様の疑問ももっとも、かな。一応、王国と帝国両方にまたがるクーデター未遂とかいう感じだし。
といっても実際、どこかの勢力が軍を動かしているわけではないよね。そんな話があったら、殿下はまずその話をしてくれるはずだもの。
聖女である私たちの能力は、正直戦争のときに超便利だと思うんだ。私の癒やしとかコートニア様の解毒とか、戦場で使うと効率よく味方を回復できるだろうし。
でも、フランティス殿下は私たちに戦にいけとは言っていない。つまり、まだ戦は起きていないわけだ。少なくとも、聖女を動員するレベルのものは。
「だって、ほとんど作戦会議になってるじゃないか。警備もやりやすくて助かる、って近衛兵が喜んでいてね」
「まあ、殿下と聖女がひとかたまりになっておりますものね」
ま、そんな難しい話はともかくこのお茶会は確かに、殿下と私たちの作戦会議の場になっているんだよねえ。セイブランとかグランビレとかスヴァルシャとか、面倒なことをやってくれる方々のおかげで。
個人的に動くのがお好きだったらしいピュティナ様も、もう当然のようにお菓子つまんでるもんな。この場にいるメンバーで多分、ゲルダさんや殿下の次くらいに強いんじゃないだろうか、この人。
コートニア様の言う通り、私たちがひとかたまりになってるってことは警備がしやすい。セイブラン以下略の反体制派組が何かを起こすにしても、ここお城の中枢部だしなあ。それなら私たちをわざわざ狙わずに、いきなり城爆破したほうが早いわ。うん。
「殿下。急ぎの知らせが参りました」
「何だ?」
外に控えていた兵士さんが、入ってきてそんなことを言ってきた。そうして、メモ用紙を差し出す。それを受け取って、開いて見て殿下は、ひどく目を丸くした。すぐそばにいるエンジェラ様が、訝しげに眉をひそめる。
「殿下? いかがなさいまして?」
「……スクトナが、脱獄したってさ」
『は?』
どうやってだよ。
全員、言葉にしなくてもそう突っ込んだであろうことは想像に難くない。聖騎士のみんなだって、そういう顔してるもの。
「赤い短髪の男が地下牢に侵入し、スクトナを連れて逃げた。牢番や兵士数名が犠牲になった、とのことだ」
「赤い髪」
メモを読んだ殿下と、それから私たちの視線は自然にというか、赤い髪の人物に集中する。この場にいるメンバーで該当するのは、エイク一人だ。
「ぼ、僕はずっとキャルン様のおそばにいました!」
「ええ。私も証言できます」
つーても、さすがにエイクがスクトナ様を逃がす理由はない。
……んー?
「エイク。ドナンさん、確かスクトナ様のお付きだったことあったわよね?」
「あ、はい」
「……あの愚か者!」
私とエイクの問答で意味を悟ったらしく、コートニア様が目の前のテーブルを拳で叩いた。
ドナンさん、行方不明中に髪切ってスクトナ様逃がす算段してやがったな!




