64.彼女の名はウィッチ
「……それで、その手紙がわたくしがしたためたものだという証拠はございますの?」
あ。スクトナ様、まだ粘るっぽい。ピュティナ様が「うわ、いい加減認めろよ」みたいなお顔になったのは見ていないことにして、目をそらした。視線は、私たちとスクトナ様たちの間にかかっているカーテンに向ける。
「もちろん。そうでなければ、このような場にスクトナ様をお留めいただく許しは得られませんからね」
取り調べしてる人の方は、自信満々な口調だ。いやまあ、確かに大公家令嬢をいくらお城の中とはいえ軟禁状態に置くなんて、よほどのことじゃないと無理だろうしね。
「王城の窓口からの差し出し先は、グランビレの別邸ですね。そこを中継し、デメント村との書簡のやり取りを確認しております」
「……」
「よもや、グランビレの蝋封がされた手紙を途中ですり替えるなどという芸当は、外の者にはできまいと存じます。万が一の可能性としては別邸でのすり替えでございますが、それは関係者の取り調べで可能性は低いと思われます」
蝋で封をした封筒ってさ、開けると跡がつくんだよね。もらったものをやってみたことがあるから知ってるんだけど、再び閉じるときにはもう一度同じ蝋で、同じ印を使わないとバレちゃう。
グランビレの別邸でなら、中身のすり替えはできるだろう。でもそのくらい、フランティス殿下とかはとっくにご存知だからしっかり調べたんだろうな。
「……もういいわ」
そこまで聞いたところで、スクトナ様の口調が変化した。これは……何というか、開き直った感?
一応、自分が城内を混乱させた元凶である、というのは認めたのかな。今の一言で。
「何を言っても、どうせわたくしが首謀者だと仰せになるのでしょう?」
「いえ、そこまでは」
コートニア様が、呆れたように肩をすくめられた。まあ、これで認めてるのかどうかってものすごくわかりにくいよね。
貴族の人たちなら、こういう腹芸は得意だろうし見破れるのかもしれないけれど……うん、ど平民の私には無理だ。
「ですが、少なくとも首謀者の一人であると、フランティス殿下はお考えのようですね」
「殿下が? まあ、そこまで賢明でいらっしゃったのね」
みし。
エンジェラ様、手の中の扇子がきしんでいるみたいなんだけど……もしかして、殿下を馬鹿にされたって怒ってるか。顔には出してないけれど、まだ扇子がみしみし言ってるし。
「ただ、わたくしを押さえたからといって他の方々が止まるとは……お思いではございません、わよね?」
「やはり、他にも同志の方がおられるのですね」
「ええ。わたくしと共に進んでくださるとおっしゃってくださった方が」
うふふ、という笑い声がカーテンの向こうから聞こえる。あくまでもスクトナ様は、余裕のある感じでお話してるんだな。
あくまでも自分の身は安泰、とでも考えているのか。
「その方のことを、お伺いしてもよろしゅうございますか」
「あら、答えるとでも思いましたの?」
「いえ、思いませんが少しはお話しいただけたら、と思いまして」
対する兵士さんだか誰だか、も意外と余裕のあるような話し方だなあ。そりゃまあ、こういう状況に慣れているような人が出てきているんだろうけれど。
「まあ、グランブレストの情報網を甘く見ているわけではございませんし、少しならばよろしいでしょう。どうせ、すぐにお分かりになることですものね」
その相手にスクトナ様は、どこまでも平然と言葉を紡ぐ。
そうして。
「魔女。その方は、ご自身をしてそう名乗っておられます」
この世界ではほとんど聞いたことのない、でも私の前世にはちらほら登場する単語を、彼女は口にした。




