53.目指すぜエンペラー
さすがに、食堂であんまりややこしい話はできない。ので、授業を終えた後自分の部屋で私は、エイクにドナンさんのことを聞いてみた。他の皆様には、また後で話すればいいしね。
「兄ですか……ええ、確かにスクトナ様の護衛役を仰せつかっておりました」
「そうなんだ」
おう、本当だったのか。しかしエイク、何というか困り顔してるなあ。何かあったのか……何もなかったら、こんな顔しないと思うけどね。
「コートニア様のところに移ることになったときには少々怒っていたようですが、しばらくするとあっさり立ち直ってましたね。どうやら、スクトナ様からなにかお言葉を頂いたらしく」
「どんな言葉を頂いたのか……は、わからないわよね」
「ええ、兄も教えてはくれませんでしたので。ですがそれ以来、コートニア様の側付きにものすごくやる気を出したというのが俺だけでなく、聖騎士部隊皆の見解です」
っておいおいおい。聖騎士部隊だけじゃなく、話を聞いただけの私でもそれはすぐに分かるって。
まあ、たまにしか会わない人だけどそのたびにこう、上から目線で私を見下してるのがすごく分かるよね。多分、一緒にいるエイクのこともなんだろうけれど。
「……そんなに分かりやすかったんだ……」
「自分の兄のことを言うのも何ですが、結構分かりやすいと思うんです。顔と態度に出ますから」
「隠さないんですか」
「上の兄はうまく隠すんですが、ドナン兄上はそういうのが苦手……といいますか『隠し事など必要最小限で十分』が信条ですね。本人が口にしたことはないですが」
ああ、ドナンさんは次男だっけ。あの人が長男、つまりカリーニ家の跡取りだったらお家やばいよね、とは何となく思える。戦争で最前線に放り出したら頑張ってくれそうなタイプだけど、指揮官とかには似合わなさそう。
「必要最小限、のレベルが多分人とドナンさんとでは違いますよね……」
「おそらく、そうだと思います」
「それで貴族が務まるのでしょうか」
「務まらないと思います。最低でも当主や役職は」
「でしょうねえ」
そこら辺の意見はエイクと一致した。ドナンさん、スクトナ様に何を言われたのかはともかく本人が元気づけられるようなことだったってのは分かったし。ま、あれで秘密の指示を受けていたならそれは『必要最小限』に入ってるだろうけれど……。
……スクトナ様、多分肝心なところはドナンさんに言ってないな、うん。そうでなくてもどこから何が漏れるかわからないだろうし、ドナンさんみたいに態度で嘘つけない人になんてとてもとても言えないだろうし!
「ところで、キャルン様」
そんなことを考えていたら、エイクに呼ばれた。「はい?」と答えた声が、無意識のうちに上ずる。
「兄のことを調べているのか、スクトナ様のことなのか、どちらですか」
「……」
えーあー、うん。私もドナンさんのこと言えないなあ……こうもあっさりと、エイクに見破られてしまうんだもの。
肝心なことは、私もなるべく教えてもらわないようにしたほうがいいんだろうか? ま、それはともかく。
「どちらかと言えば、スクトナ様かしらね。何しろ、私はよく知らないお方だから」
「ああ、確かに」
隠しようがないので、素直に答える。だって本当に知らないんだもの、スクトナ・グランビレなんて人。
『のはける』には私とエンジェラ様以外の聖女なんてほとんど登場してないし、エンジェラ様のある意味ライバルな人と言われても王国の大公の娘だからメイン舞台が帝国な『のはける』では消息なんて知りようがないし。
「よくご存知でない、というよりはスクトナ様については、あまり関わりにならないことをお勧めします」
そんな私にエイクは、要するにあれの相手はやめとけということを遠回しに言ってきた。そんなことを側仕えの騎士が言うからには、もちろん理由があるはずだよね。
「そうなの?」
「はい。……王太子殿下とエンジェラ様とのご関係はお聞き及びかと思いますが」
「ええ。それもあって、あなたに尋ねたのだけど」
「なるほど。では、帝国との交流については」
「それも、ざっとだけど聞いています」
「ざっと、ですね」
ふむ。つまり、スクトナ様を遠ざけたい理由は帝国絡みか。でも、反体制派との交流の噂だけで距離を置くのはちょっと理由が弱すぎないかな? 他にも、何かあるのか。
「これは一応、噂ということになっている話です。ほぼ事実であるのでしょうが、はっきりした証拠がありませんので」
その『他の理由』を、エイクははっきりと口にしてくれた。
「スクトナ様とグランビレ大公家は、帝国反体制派と共謀してグランブレスト王家、魔帝一族の追い落としを画策しているようです」
つーか、ぶっちゃけクーデター計画しとるんやないかーい!




