52.私こそがフィアンセ
フランティス殿下のことはさておいて、だ。とりあえずはスクトナ様のことを、もうちょっと掘り下げよう。私はそもそも知らないんだから、聞いてもおかしくないよね。
「さっき、エンジェラ様はスクトナ様のことを苦手って言ってましたけど、それも殿下の関係ですか?」
「え? ……ええ、まあ」
私のハンカチでせっせと汗を拭きながら、エンジェラ様は頷いてくれた。
「スクトナ様は、殿下の婚約者には当然のようにご自身が選ばれると思い込んでいらしたんです。それが、わたくしだったでしょう?」
「あー。そこから辛く当たってこられたとか、そういう感じですか」
「ええ……」
やっぱりか。
振られた女が振った男の本命に対して、自分のほうがふさわしいのにーとかお抜かし遊ばされているわけだ。ま、振った男がこの国の次期国王だしねーしかたないねー。
……『のはける』キャルン、どこまでメンタルが頑丈にできているんだろうな? 平民の小娘が、高位貴族の令嬢を国から叩き出すようその王太子をそそのかすなんてな。
「スクトナ様が聖女の素質を認められたときには、これでご自身が殿下と結ばれると自信を深められたようなのですが」
「その後にい、エンジェラ様も聖女だと認められちゃったんですよねえ」
コートニア様、ピュティナ様が横から情報をくれる。……いや、エンジェラ様が聖女でなくてもフランティス殿下、スクトナ様を選ばない気がするんだけどなあ。周囲から押し付けられることはあり得るか、うん。
「そのようなわけで、わたくしとスクトナ様はなるべく離れて動くようにと陛下直々のご指示がありまして、今こうなっております」
「なるほど。たまに顔を合わせるとああなるわけですか」
「というか、先程のスクトナ様はわざわざエンジェラ様のお顔を拝見しに来られてましたよね。確実に」
「お暇なんですねえ」
うん、あれはわざわざ顔見て嫌味言いに来たね。多分、ついでに新米聖女である私のことも見に来たんだと思う。悪かったな平民で。
あれも何か、殿下取られた腹いせか。大公家はどういう教育してるんだ……と思ったんだけど、もし家ぐるみでああいう感じだったら嫌だなあ。
「そういえばあ、グランビレのお家は非公式に帝国と交流があるそうですねえ」
不意に、ピュティナ様がすっとぼけたようにそんなことをおっしゃった。そうなんだ、大公家。
「ええ。グランビレ家を造られたかつての王弟殿下が、帝国難民の方々を保護なさったことがあったそうで」
「難民ですか?」
「……詳しくは存じ上げないのですが、なんでも当時の魔帝陛下に反発して国を追われた方々だったとか」
エンジェラ様の説明に、私たちは思わず口を閉じた。
当時の魔帝陛下と反発して国を追われた皆さん……ってそれ、反体制派というやつなのではないですか。いや、そういう人たちが皆悪い人たちとは思いませんけれど、私やエンジェラ様を狙ってきたのは現在のそういう方々なんだけど。
で、その反体制派を保護した関係で帝国との交流があるってその、どこらへんの勢力と交流があるんだろう?
『……』
平民出の私が考えつくことは、他の聖女たちもたどり着いたらしい。無言のまま、互いに顔を見合わせる。
「き、気をつけましょうね、エンジェラ様。コートニア様も、ピュティナ様も」
「そ、そうですわね」
「ま、まさかあ、そのような愚かなことはなさらないと思いますがあ」
思わず名前を呼んだ人たちのうち二人ははっはっは、とから笑いで返してくれたのだけれど……コートニア様だけが、顔をこわばらせている。
「……ドナン様、わたくしに付く前はスクトナ様付きでしたの……大公家のご息女なだけに、警戒も厳しくて」
「え」
『あ』
彼女の証言に、つい私たちは固まった。というかエンジェラ様、ピュティナ様、知ってたけど忘れてたって顔だな。
えーと、あのドナンさんがちゃんと任務を果たす人であったり、今はコートニア様の護衛として働いてくれる人だったりしたらいいんだけど!
あ、でもなんかヤバそう。ドナンさん、何かと上から目線な人だから。コートニア様より、スクトナ様のほうが上から目線の高さが高くなる、って何か言い方変だな。
でもつまり、やばいかもしれないってことだ。うん。




