51.あらたなるライバル
「……まあ、お話は分かりました。気をつけることにいたしますわ」
翌日、朝食をとるときにコートニア様、ピュティナ様とはさっくりお話をさせてもらった。もちろんというか、エンジェラ様も一緒にいる。
「うちの分家があ、ご迷惑をおかけしておりますう」
「失礼ながら、セイブレストの分家はお脳が足りませんの? 力さえあればオールオーケーとかおっしゃるお家柄ですの?」
「実はそうですのお……ですから、セイブレスト本家はセイブランを切り離したのですがあ」
「本家に頭を下げるよりも、力を持って本家を凌駕しようとなさったわけですわね。まあ、愚か」
地味にコートニア様のセリフが厳しいんだけど、まあ事実といえば事実だしなあ……ピュティナ様もなんだけど、よく聞くとセイブレストじゃなくてセイブランだけけなしてるし。
とりあえず気をつけよう、と話がまとまったところで、ふと気配がして食堂の入り口に目を向ける。あれ、めっちゃ派手派手しい金髪ウェーブ超ロングヘアの女の人が入ってきた。着てるのが聖女の衣装なんで、外に出てる聖女の一人なのかな。
「あぁら」
第一声は、手に持たれた扇子の向こう側から聞こえた。あとものすごく高飛車系。うーむ、こういうキャラに覚えはないぞ? 『のはける』だと悪役令嬢っぽいのは、そういう役にさせられたエンジェラ様と帝国の名前覚えてないご令嬢くらいだし。
「エンジェラ様、コートニア様、ピュティナ様、お集まりでございましたか」
「スクトナ様、お戻りになられたのですか」
「王城への報告もございますのでね」
スクトナ、という名前にも覚えはないなあ。つーかエンジェラ様相手で上から目線って、王族周りかそのレベルの高い身分じゃないと無茶じゃね? もっとも、コートニア様が指摘しないところを見ると最低でも公爵以上のおうちの人なんだろうけど。
お戻りになられた、とエンジェラ様が言ってるから、外にいた聖女で決まりっぽいな。ガラティア様と違って、この人とはあんまり仲良くやれなさそうだ。
で、そのスクトナ……様、が私に目を向けてきた。やっぱり、分かりやすく上から目線である。ドナンさんと同じレベルで。
「こちらは?」
「新しく聖女となられました、キャルン様ですわ」
「キャルン・セデッカといいます。よろしくお願いいたします」
「まあ。ではあなたが噂の、平民聖女様でいらっしゃるのね」
ひとまずエンジェラ様から紹介してもらったので、ちゃんと名乗ってご挨拶をする。上から目線全開のお返事もらったけど、まあ予想の内だ。ここまで分かりやすく見下ろしてくれる人だと、すっごく冷めた感じで相手できる。
「グランビレ大公家の娘、スクトナでございます。どうぞ、よしなに」
「はい、スクトナ様。どうぞ、よしなに」
うわ、大公家か。そう言えばそういう家あったっけ、裏設定にちらっと書いてあった気がする。でもまあ、『のはける』ではその程度の扱いだったってことだけど。
「では、父に報告がございますのでこのへんで失礼いたします」
「は、はい」
……ご飯食べに来たわけじゃないんだ、スクトナ様。ふふんと鼻で笑うと、さっさと食堂を出ていった。外で聖騎士や他にも数名待っている人がいたみたいで、その人たちをぞろぞろ引き連れて去っていく。
その人たちが見えなくなってしばらくして、私も含めて四人全員がはああああああと思いっきり息を吐いた。いや、緊張してたんだなあ、皆……って思いながら見渡すと、何か皆さん苦々しい顔しておられるんだけど。特にエンジェラ様。
「……どうも、スクトナ様は苦手ですわ」
「エンジェラ様?」
「しょうがないですよねえ。フランティス殿下を巡ってえ、ライバルでしたからあ」
「そうなんですか?」
あ、それめっちゃ初耳。というかそうか、王太子殿下なんだから婚約者候補になる高位貴族の娘なんて、エンジェラ様以外にもいるよねえ。コートニア様も、その中に入ってるはずだし。
て、大公家令嬢なら確かに対抗馬というかかなり本命というか。
「ああ、キャルン様はご存じないですわよね。グランビレ大公家、とおっしゃったでしょう」
「大公家……ああ、王家と近いお家柄ってことですよね。コートニア様」
「そうですの。スクトナ様はフランティス殿下より二つ年上でいらっしゃるんですが、家柄は申し分ないので殿下の婚約者の候補としてエンジェラ様と並べられていたようなんですのよ」
「それで、エンジェラ様が選ばれた、と」
「殿下があ、エンジェラ様が良いとおっしゃったと聞きましたあ」
うむうむ、と素直に説明を聞くとそのとおりらしい。のはいいんだけれどピュティナ様、しれっと結果を入れてくるんじゃない。おのれもげろ、王太子夫妻かっこ予定かっことじる。
そして当のエンジェラ様は……見事にまっかっか、になっておられた。うん、だからもげろ。
「あららあ。エンジェラ様あ、お慣れにならないと今後大変ですわよお?」
「そうですわね。おそらく今後、フランティス殿下は全力でおのろけになられるはずですもの。王太子殿下とその妃がこれほど仲が良いのだ、ということを国内外に宣伝するためにも」
「あ、は、はいい……」
ピュティナ様に続いて、コートニア様まで追い打ちをかけるでない。仕方がないので、真っ赤になって汗までかいてるエンジェラ様にハンカチ差し出そう。
「あ、ありがとうございます、キャルン様……」
「いえいえ」
ああもう、こういうところが可愛らしいんだからなあ、エンジェラ様は。




