50.なぜだかペアレンツ
「まあ、ピュティナは昔からあんな感じだったよね」
「もともとマイペースな方でいらっしゃいますから」
既に夫婦漫才かお前ら、という無礼極まりないツッコミを飲み込んで私は、フランティス殿下とエンジェラ様が笑顔で見つめ合うのを見ている。ゲルダさんがあーまた始まった、って顔してるよ。お疲れ様。
辺境伯のご令嬢も、まあ王族とはお付き合いあるよね。国の要所を守る重要な家柄だし。そういう関係で、殿下もエンジェラ様も何だかんだでコートニア様やピュティナ様とは面識がある。
ないのは私だけ。当然だ、聖女の素質を見いだされるまで私は平民だったんだから。まあつまり、既にできてた仲良しグループの中によそ者である私が入り込む形になったわけだ、すごくぶっちゃけるとそういうことだよね。
おかげで迷惑だったかもしれないし、変なやつだと思われたかもしれないけれど、でも。
「嫌いな相手ならそもそも話しかけもしないから、キャルンのことを嫌いではないだろうね」
「それは……そうみたいですね。いろいろと手助けしてくれましたし」
幸い、殿下はきっちりピュティナ様のことも理解してくれてるみたいで、おかげでどうにかなりそうである。
つーか手助けってあれだ、怪しい人をとっ捕まえて、ぐるぐる巻きにして顔面ひっつかんで引きずってきたりとか。レックスくんやガルデスさんが見きれない速度で。
少なくとも、敵には回したくない相手である。コートニア様だと何か睨まれるだけで済みそうなんだけど、相手がピュティナ様だとうっかりミスったら速攻デストローイされそうで。いやよかった、嫌われてなくて。
でもまあ、エンジェラ様は最初から好意全開ぶっかましてくれたし他の皆さんも嫌ってはいないみたいだし。『のはける』キャルンじゃ絶対四面楚歌で、だから味方も少なかっただろうけれど私はわたし、だ。
「なら、全員に注意喚起をしておけばひとまずは安心かな。それぞれのおつきも含めて、仲違いさせるやつが出てくるかもしれないことは伝えておこう」
その結果を踏まえて、フランティス殿下はそういう結論を出した。
セイブラン、スヴァルシャ、それぞれの残党や関係者が私たちにちょっかいを出してきて、グランブレスト王国内部に亀裂を入れようとしている。その陰謀に注意せよ、ってことだろうな。
まったくもー、『のはける』よりえらい展開になってるじゃないの。まあ、うまくやれば王国も帝国も無事に済むとは思う……んだけど、一介の新米聖女に何ができるかってね。うん。
と、エイクがおずおずと手を上げた。
「……あの、兄は大丈夫でしょうか」
「兄?」
「コートニア様についておられるドナン様が、エイク様の兄上ですわね。殿下」
「ああ、カリーニの次男」
あら、あっさりと名前と家柄出てくるのね……って、そのくらい覚えてるんだろうな、エンジェラ様は。
「兄は聖騎士と認められて、少々思い上がっている節があります。セイブランやスヴァルシャの誘惑に引っかかる可能性が、ないとは言えません」
「そうだね。……コートニアと、それからガルデスにはよく言い含めておこう」
エイクの危惧もよく分かる。ドナンさん、物理的にも心理的にも上から目線だもんな。
そして殿下が挙げたコートニア様とガルデスさんは、その二人ならドナンさんを止められるだろうっていう人選よね。……なんで『のはける』の殿下、あそこまで目が節穴になったんだろ?
「それにしても、殿下もエンジェラ様も皆様のこと、よくご存知ですよね」
「年齢の近い貴族の令嬢とは、だいたい顔を合わせてるはずだ。だから、キャルンのことはとっても新鮮でね」
「なるほど。そういうことになると、私はいきなりやってきた新顔ですもんね」
「そういうことですわね」
うん、まあそうだよね。思わず確認してしまったよ。というか、新鮮かあ……それで『のはける』の殿下は、キャルンにのめり込んでいったのかな。で、苦言を呈したエンジェラ様を遠ざけて、そして。
「とはいえ、さっきも言ったけどキャルンに対してはあくまでも妹のような感情、なんだよね。妃として迎えるべき、そして迎えたいのはずっとエンジェラだし」
「……あ、は、はい」
おお、しれっと不意打ち食らってエンジェラ様が耳まで真っ赤になった。肌の色薄いから、赤くなると目立つなあ。
「そ、それは見ていれば分かります。割り込むつもりはまったくもってありません、というか割り込めませんよね」
「ははは、それはもちろんだよ。でも、キャルンにも良い伴侶が見つかるように助力はさせてもらうつもりさ」
「では、わたくしは作法をお教えせねばなりませんわね。良い方と結ばれるように」
「あ、ありがとう、ございます……」
何かこの二人、兄姉というよりすっかり私の保護者化してないか? その方がまあ、変に誤解されないけどさ。