47.隣の国の謎ウィッチ
「スヴァルシャ家、ですか」
月イチ恒例になってしまった、フランティス殿下主催お茶会。まあ、婚約者であるエンジェラ様とその同僚を招待するのに何の問題もないし、私は殿下とエンジェラ様に後見してもらってる立場だし。あとセイブランのせい。
その場に本日は主催者夫妻かっこ予定にその護衛、私とエイクに加えてラハルトさんが来ていた。ということは、何やらの情報が手に入ってその報告会らしい。
黒メインの装いから黒騎士とも呼ばれてる、って『のはける』に書いてあった彼の口から出てきたのが、冒頭のスヴァルシャ家という名前だった。こっちも見たぞ、確か魔帝陛下と反目してる家の名前だ。
「ワリキューア帝国反体制派のトップ、と言われる家だね。ま、噂だけど」
「少なくとも、魔帝家と同じくらい古い家系というお話ですわね」
うんうん、殿下とエンジェラ様の話も合ってる。『のはける』では確か……魔帝陛下の妃に選ばれたエンジェラ様を疎んで、王国と手を組んで魔帝陛下に歯向かったんだっけなあ。ま、それで勝ててないんだけど。
「そこの家に近年、姿を見せない娘がいるんだってさ。ね、ラハルト」
「はい。表に出ません故、姿を見たものは家族以外にはごく少数だそうですが……何でも『魔女』と自らを呼ばせているそうです」
「魔女?」
えーと、スヴァルシャ家に……ああ、女の子というかエンジェラ様より十歳ほど年上の令嬢がいたっけ。この世界では二十歳過ぎたらちょっと遅い、二十五過ぎたらおばちゃんという感じなので……ぶっちゃけ行き遅れというか婿取りそびれというか……うん。
名前、何だったかなあ。『のはける』に名前出たっけ?
「魔女とは、珍しい呼称ですわね」
「そうだねえ。聖女に対する概念として名乗ってるのかな」
「そうかもしれません。姿は見られないのに、その魔力及び術と思しき噂が行商人を通じてこちらまで伝わってきております」
しかし、確かあのご令嬢はそこまで魔力なかったと思うんだ。つーか自分で魔女を名乗るって、どういうことなんだろ。
ともかく、ラハルトさんに聞いてみるか。この場でおかしな動きもしないでしょ、いくらスパイでも。
「何か、強いんですか?」
「と言いますか……スヴァルシャの領地は寒い地方でしかも森と火山が多いのですが、数年前より山火事や爆発が散見されるとのことで」
「はあ……何と言うか、中央から遠ざけられているというのが露骨に見えている領地ですね」
「キャルンが分かってくれるなら、話は早いね。実際のところ、そうらしいよ」
殿下が嬉しそうに笑ってくれる。うーむ、『のはける』キャルンでなくても惚れておかしくないよねえ、王太子殿下。いや、エンジェラ様と仲良くしてくれよほんと。
そこはともかく、マジで辺境に叩き出されたっぽいな、スヴァルシャ。いや、『のはける』で領地の描写ほとんどなかったんで。ただ、グランブレスト王国に近い辺境、ってのはあったけど。だから、王国と手を組むことができやすかったんだし。
「山火事や爆発が多いことについて、当のスヴァルシャ家はどうおっしゃっているのでしょうか」
「火山地帯故のもの、と主張しているようです。まあ、温泉やそれに連なる産業で金を稼いでいる家ですし」
「湯治には最適なんだっけ」
「帝国やその同盟国の貴族、豪族が激務の疲れを癒やすために長期滞在するようです。そのため、彼ら専用の豪華なホテルや温泉などが営業しておりますね」
で、その領地の実際の状況をラハルトさんの説明で理解してなるほどなるほど、と頷くのは彼以外の全員だったりする。正式な国交のない隣の国の、辺境にある貴族の領地ってあんまり情報ないよねえ。
てか、金持ち向けの温泉リゾートやってるのか。それで儲かる……ものなのかねえ。スキーがあるんなら、スキー場とかもやれば流行りそうだけど。
「反体制派、というのはあくまでも噂であって、スヴァルシャ家は魔帝陛下に忠誠を誓っています。税もしっかり納めておりますし、兵士派遣も怠っていませんね」
「その姿勢こそがあくまでも建前、かもしれないけどね。まあ、僕たちに確認は無理だろう」
ラハルトさんは魔帝陛下側の人間だから、スヴァルシャ家の情報を手に入れるのは自分にとっても利益になるわけで。しっかり調べてくれてるみたい。その彼の情報からすると、表向き魔帝陛下に対する反逆企ててるとかそういうことはないっぽい。
……令嬢、というか魔女が何考えてるかわからないけれどさ。
「さて、ラハルト。そのスヴァルシャ家がどうしたのかな。そこの娘、魔女に関する話だろ?」
「はい」
殿下の興味もそこ、魔女にあったようだ。先を促すとラハルトさんは頷いて、報告を続ける。
「スヴァルシャ家の領地は、先程も申しましたように森と火山が多いです。その一部が、実はセイブランの領地と近接しております」
「隣接、ではないんだな? セイブラン領は帝国領に近い辺境だが、間には湿原があって国境が確定していない」
「その湿原と、湿原に水を供給する山地の向こう側がスヴァルシャ領の最南端です。山地を迂回して湿原を渡れば、直接セイブラン領との行き来も可能かと」
……わーい、なんだかものすごくやばいかもしれない。
だってスヴァルシャ家、魔帝陛下と反目してるんだよね? そこと、エンジェラ様や私にちょっかい出してきてるセイブランが手を組んでたりしたら……。
………………何やりたいんだろ?




