39.聖女が語るカコバナ
「よっこいしょ」
夕食と後片付けを済ませて、私とガラティア様は宿の一室に腰を落ち着けている。あちこち回るから、宿なり村長宅なりをそのときに応じて借りているんだそうな。
「さて、と。よいかな?」
「はい。報告書はこちらになります」
「うむ、いつもすまんのう」
「いえ。では、失礼いたします」
ガラティア様護衛部隊の一人が、紙の束を持ってきてくれた。刺客の皆さんをしばき倒して得た情報のまとめらしいけれど……何か、枚数多くないか?
そう考えていたら、ガラティア様が箪笥の引き出しから眼鏡と虫眼鏡を取り出した。虫眼鏡は結構でかい。手鏡くらいあるやつで、結構重いんじゃないかな。
「ここ数年、めっきり目が弱くなってのう。眼鏡使うても読みにくいでな、大きく書いとくれ、と言うてあるんじゃ」
「なるほど」
ばさり、と広げられた紙の束に書かれた文字が、普通の書類で書かれる文字の倍以上のサイズになっていた。あーそりゃ枚数かさむわ、老眼対策だったか。
「キャルン様にはご迷惑かの?」
「あ、いえ。元平民なもんで、文字はまだまだ」
「おお、そうか。それは大変じゃったの」
うん、実は私にとっても助かるというか。報告書って、それなりにきっちり文字書ける人が書いてくれることが多い。だから結構綺麗なんだよね、目の保養になる。あと、読みやすい文章だったりするんで読む練習にもなるし。
で、二人でせっせと読み込む。結論としては、やっぱりなーというものだった。
「やっぱりセイブラン家でしたね」
「他にも面倒起こしそうな家はいくつか知っとるがの、今のところ動いちゃおらんしのう」
「他もあるんですか……」
ガラティア様、どこまで情報抑えてるんだろうなあ。というか、貴族の出だから実家で情報集めているのかもしれないけれど。
「よそはよそ、うちはうちじゃ。わしらは目の前のばかもん共を退けるすべを考えればええ」
「それもそうですね。人のことまでかまってられる余裕、正直ないですし」
「まあ、キャルン様にはわしやエンジェラ様もついとるでな。案ずるでない」
「ありがとうございますー。ほんと助かります……というか、エンジェラ様は当事者です」
「おお、そうじゃったのう」
かんらかんらと笑うガラティア様は、お気楽陽気なおばあちゃんでしかない。もしかしたらピュティナ様の大先輩タイプかも知れないなんて、見た目じゃわからないよねえ。
「フランティス殿下に娘を輿入れさせたい家は、山程あったからのう。エンジェラ様に内定した、っちゅう噂が流れた直後は陛下に謁見を申し込む当主や、お城への貢物がやたら増えたんじゃよ?」
「分かりやすく露骨ですね……それで気持ちが動くような陛下でなくて、ほんとよかったです」
「じゃろ。それと、そういう連中の態度も気に入らなくてそのままエンジェラ様で決まり、となったそうじゃよ」
いや、駄目じゃん貴族ども。口に出さないけど。分かりやすくうちの娘どーですか、エンジェラ様よりいいですよなんてぶっかました人もいるんだろうな。馬鹿か、馬鹿だな。確認するまでもない。
「レフリードのお家は、そのようなことなさらなかったんですね」
「婚約内定前に、他のご令嬢たちと顔見世させたくらいじゃったかの。それで、フランティス殿下がお気に召したとかいう話じゃったよ」
ううむ、平民には遠い世界の話だった。
ガラティア様のおかげで、過去話とか聞けるのはありがたい。『のはける』でも少しは出てきたんだけど、さすがに他の貴族がうちに鞍替えしろと押し寄せたなんて話は出てこなかったし。
……ま、それはそれとしてセイブランの御一行、ろくな刑にはならないよなあ。ご愁傷さま、ざまあみろ。




