37.おちゃめなグランマ
「ほんっとうに釣れるとは思ってなかった!」
「後先考えなさすぎですよね、こいつら」
足元に転がっている元刺客の物体を、エイクが剣の先でつんつん突く。あ、今つついたのはまだ人間だった。軽くうめいたから。
私が大声で叫んでしまった通り、この刺客さんたちは私を狙って釣られてくれたセイブランの手先と思しき方々である。エイクが気配に気がついたので二人だけでちょっと人のいないところに行った瞬間、襲撃してきたわけだ。
「こやつらが噂の、セイブラン家周りの方々かのう?」
「そうですね、ガラティア様。ほら、こいつが指名手配の人物です」
「おやまあ」
別の騎士様が、おばあちゃんに書類を見せている。ああ、セイブラン残党の中で顔が分かっているやつの似顔絵だよね、あれ。
で、いくら見習いが取れた騎士だからといってエイクが一人で勝てるわけはなかったんだけど、今私たちは先輩にくっついて修行中の身である。その先輩、おばあちゃんこと聖女ガラティア様を守っている聖騎士の部隊がさっさとやってきて片付けてくれた、とこういう次第だ。
「キャルン様も、えらく面倒な相手に狙われたもんじゃねえ」
「本当に面倒です。しかも何だかしつこいし」
「他にやることがないんじゃろ。暇人じゃのう」
グレーの長い髪を背中でまとめた上品なおばあちゃんであるガラティア様は、とある伯爵家の元当主夫人だそうな。既にお孫さんがいて、お家はそのお孫さんが何とか回してるとか。
で、ご本人は生き生きと聖女のお仕事に就いている。私がつけられただけあって、私と同じ癒やしの力を持つらしいよ。
「しかしまあ、何が楽しくてこのようなことをやるんじゃろね。落ちぶれたお家の者は」
生きてた刺客さんに癒やしの術をかけながら、ガラティア様はにやにやと笑う。何しろ伯爵家を切り回して来た経験持ちだ、貴族の表も裏も光も闇もしっかり経験した、とは初対面の日に本人から言われたなあ。
「帝国と仲が良いのはまあ、領地の場所を考えるとおかしくはないのですけれど」
「キャルン様も、自分の生命狙った相手なんじゃから気を使わんでもええんじゃよ」
傷の治った刺客さんは口の中に布突っ込まれていて、後ろ手に縛られてそのまま運ばれていく。どうでもいいけれど、運び方が大型のかばんみたいでそれはどうよと言いたくなるよ。何で、縛ったロープでちゃんと持ち手まで作ってあるのよ。
「中央と仲の悪い勢力に加担して、可愛い後輩を狙うのは感心せんの。自業自得じゃ」
「城の中で暗殺未遂に及んだ以上、一族郎党処刑されてもおかしくないですよね?」
「エイク殿の言うとおりじゃが、れっきとした証拠が見つからんかった以上、貴族籍の剥奪で精一杯だったんじゃろ? ほれ、こやつらでそれなりの証拠になるのではないかな」
「ああ、そうですね。指名手配犯いますし」
さっき似顔絵で確認された、かばんもどきにされて運ばれていったセイブランの残党。まあ、あれならセイブラン一族が聖女を狙った証拠にはなるだろう。
「では、証拠の品などを確保しておきましょう。……ガラティア様、証人になっていただけますか?」
「ほほほ、任せよ。がっつり供述書を書きまくってみせようぞ」
エイクの質問に、おばあちゃんはとっても楽しそうに大笑いしてみせた。
そう言えばガラティア様、さっきこっそり刺客の一人を持ってた杖で思いっきりぶん殴ってたっけ。若い頃はもしかしたら、ピュティナ様みたく大暴れしてたんじゃないだろうか? おーこわ。
「五名を捕縛しました。いずれも自決防止策を取っております」
「よかろ。とっとと適当な詰め所に叩き込んでおくれ、暇な兵士にお仕事じゃ」
「はっ」
そうしてガラティア様護衛軍団はテキパキと、刺客の生存者をお持ち帰りする人と護衛を続ける人に分かれてお仕事を進めていく。ああ、生存者は癒やしの術をかけておきましょうねえ、しっかり喋ってもらうためにも。
ところで。
「暇なんですか、ここの兵士さん」
「人相手はの。ここらへんははぐれ魔物がちらほら出てくるでな、それを狩るのが普段の任務じゃ」
「あー」
ガラティア様の説明になるほど、と納得した。
ここは王都から馬車で一日、ガラティア様の伯爵家の領地にほど近い小さな集落である。
ここらへんで盗賊とかが暴れたら、速攻で近くの軍が派遣されるそうな。馬車で一日の距離だと、王都を攻撃したい人たちがアジトにするかもしれないから。




