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31.夫婦エスピオナージ

「終わりましたわよ。キャルン様」

「……ふへ」


 エンジェラ様に声をかけられて、ふっと顔を上げた。周囲には鉄……じゃないな、血の匂いが漂っていて、地面にはこう……もと人間がいくつも転がっている。慌てて目をそらすことはなかった。いや、戦闘での死体は初めてだけど獣に襲われた死体は時々見てたからね。


「……どうも、聖騎士を甘く見られているのではないかな?」


 ふん、とつまらなそうな声にそちらを見ると、ゲルダさんが剣を振るって鞘に収めるところだった。息も乱れてないよ、この人。さすがガルデスさんの妹で、エンジェラ様のおつきに選ばれただけのことはあるわ。


「ゲルダ殿が、強すぎる、んですよ……」

「私など、兄上に比べればまだまだだからな」

「比べる、基準が、高いんですっ……」


 対してエイクは膝に手を当ててぜーはー言っている。場数と実力が違うんだろうなあ、これ。コートニア様んとこのドナンさんだっけ、馬鹿兄貴はどちらに近いんだろう?


「それより、人を呼んできて欲しい。どうやら、人払いがされているようだからな」

「わ、分かりました」


 ゲルダさんの指示を受けて、エイクは私に一礼すると走っていった。まあ、ゲルダさん一人いたら何とかなりそうな気がするもんな、この周囲の惨状を見ると。


「エンジェラ様、キャルン様。失礼ながら、これらの顔を確認していただけますか」

「構いませんよ」

「は、はい」


 そのゲルダさんに言われて、コスプレ刺客の皆さんの顔を見ていくことにする。万が一にもどこかで見た顔があれば、そこから身柄調べられるもんね。


「知った顔はございますか?」

「いえ、ないですね」

「……………………あ」


 一人ひとり見ていって、メイド姿の一人の顔にふと見覚えがあるような気がして、私は立ち止まった。いや、知り合いにはいないはずなんだけど、でもどこかで見たような。この服じゃなかったのは、確かなんだけど。


「……あ」


 その近くに倒れていた小姓スタイルの男性の顔も同じような見覚えが、あって、あれ。


『せっかくだから、王都に行く前に拝ませてくれ! うちの子にも、いい素質が出ますようにって!』


「あー!」

「キャルン様?」

「いかがなさいました?」


 いや、大声出しちゃったけどいいよね? いくらなんでも、こんな事あって良いのかよ、ねえ。

 とは言えこの場でこのことを知っているのは私だけだから、エンジェラ様にもゲルダさんにも伝えないといけない。だから私は、二人を交互に指差してはっきり言った。


「この男の人と、この女の人、見たことがあります」

「え?」

「あの、私が聖女の素質持ちだって分かってすぐくらいに、隣村から子供の頭なでてやってくれって来た夫婦、なんですけど……えええ……」


 うん、間違いない。えらく威勢よく私に迫ってきた旦那さんの方を特に覚えてて、子供抱えながら苦笑してた奥さんの顔はわりとついでっぽい感じでだけど覚えてた、から。


「キャルン様はコトント村のご出身でしたわね。その隣の村、ですの?」

「アカント村、だったと思います。ただ、私は隣村の人もよく知らないので名前、分かりません」


 エンジェラ様、結構細かいところまで知ってくれてるんだよね。なので、知ってることをきっちり伝える。ゲルダさんは私の言葉に「なるほど」と眉を寄せて、少し考えてから頷いた。


「身分詐称の可能性もあります故、内密に調査を行いたいと思います」

「そうですわね。キャルン様とお会いしたときの自己紹介が、もしかしたら嘘なのかもしれませんし」

「……よろしくお願いします」


 えー、なんだろうそれ。私に会いに来たときに嘘ついて、何のメリットがあるんだろうと思って、足元に転がっている夫婦と名乗った彼らを見下ろす。

 メリットじゃなく、私や他の人に正体知られるデメリットを避けたかった、のかもしれないし。

 そんなことを考えているうちにエイクが兵士さんたちを連れてきてくれて、私たちはひとまず事情を聞かれることとなった。

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