27.公然のシークレット
国王陛下に呼び出された翌日、お城にいる聖女全員がフランティス殿下の応接室でお茶会ということになった。まあ、一人だけ呼ばれなかったコートニア様にも話はしておかなくちゃいけないよね、ってことになったからね。
「セイブランでしたら、わたくしも噂は伺っておりましたわ」
「あらあ」
で、事情を説明した後コートニア様が発した第一声がこれ。あらー、はピュティナ様の感心の声である。感心というかちょっと困った顔、というか。
「絶縁しているとは言え身内、恥を晒されるのは困りますわねえ」
「セイブレストとは別の家、と皆周知しておりますわ。そこはご安心を」
ピュティナ様が困って、コートニア様が安心しろ、という。一体何したんだセイブラン、この際目の前にいる当事者に聞いてみるのが一番か。
「……本家が絶縁するレベルって、一体セイブラン家って何やったんですか……」
「あら。キャルン様はご存じなくて?」
「はい。かなりのことやったんだろうな、というのは想像つくんですけれど」
コートニア様が上から目線なのはいつものことなので、素直に答える。
あくまでも本家が絶縁、であって爵位が下がったり平民になったり、とかそういうレベルのことではないわけだけど、さて。
答えをくれたのは、当事者一族たるピュティナ様だった。
「手っ取り早く申し上げればあ、本家の婿を寝取ろうとしたんですのお」
「ぶっ」
おい、セイブレスト辺境伯令嬢。言葉を選べ言葉を、その言い方は私みたいな平民がぶちかますときの言い方だ。
「ピュティナ様、お言葉を選んでくださいなはしたない」
「だって、説明しやすいんですものお」
「やっぱり、僕のところに集めておいてよかったねえ」
苦笑しつつたしなめられたエンジェラ様に、ピュティナ様はしれっとしたお顔で答える。そしてフランティス殿下、さすがだ。
しかし、本家の婿を寝取ろうとしたって、何かどこかで聞いたような話なんだけど、えーと。
「……どこから婿入りされる方だったんです? まさか」
「王家から、ですわ」
「……」
いやいやいやいや。
『のはける』キャルン、先輩がいたぞー。失敗してるぽいけどー……遠い目になりかけて、慌てて意識を現実に引き戻す。まあ、他の皆は当時のセイブランが何やってんだ、って考えてるんだろうと思ってくれたみたいだけど。
「いろいろありましてえ、わたくしの祖母が当時の第四王子殿下を婿として迎えることになってたんですう。それを、セイブランの娘が横取りしようとなさいまして……セイブランの一族が寄ってたかって、その娘を援護したんですのお」
「ありえねー……いえ、あり得ないことしてますよねそれ」
さらっと説明してくれてありがとう、ピュティナ様。いや、そりゃいけません。何やってんだ分家。
「セイブレストのお家が、縁を切ったのも理解できますでしょう?」
「絶縁で済んだのであれば、表向きは大したことにはならなかったんですね」
「そうみたいだね。結局セイブランの娘は、こっぴどく振られたようだし」
エンジェラ様もフランティス殿下も、思いっきり呆れ顔になっている。いや、あなたがた、一歩間違えてたら似たような問題の当事者になりかけてたわけなんですが! 原因私だけど!
そういう感情を顔に出さないように頑張って落ち着いて、話を聞こう。ほんと、『のはける』では出てこなかった話がいろいろとあるなあ。この辺り、シークレットムックにもなかったはずだし。
「振られた上に本家から絶縁されて、セイブラン家は大丈夫だったんでしょうか?」
「そのあたりの話は表沙汰にはなってないけれど、噂としてはがっつり広まったからね。セイブランが何を言っても、恥の上塗りにしかならない程度には評判が落ちたんだよ」
「それでえ、しばらくの間はおとなしくしていてくださったんですけどお……」
殿下やピュティナ様の言うように、評判ガタ落ちしておとなしくしてないとどうしようもなくなったんだろうな、セイブラン家。で、しばらくおとなしくしてた間にこう、怨念を溜め込みまくった結果が。
「今度はわたくしを追い落とし、何の関係もないキャルン様を利用して王城を引っ掻き回そうとされたのでしょうね」
「迷惑ですわ。わたくしだって、何の関係もございませんのに!」
うん、エンジェラ様は分かるんだけどなんで、コートニア様まで怒るかね?