25.もしかしてツンデレ
お茶会報告から五日。
私のところには、その後どうなったかという情報がおいでになりやがらない。面白くないなあと思いつつもぐもぐとお昼を食べていると、コートニア様がこちらを伺ってきた。
「あれからどうですの? 進展はあったのですか?」
「全然分からないんです。当事者なのに、詳しいことは教えてもらえないんですよねえ」
素直に答えると、「あら」と不思議そうな顔をしながら隣の席に座る。これからお昼なのか、コートニア様。
エイクにもこまめに尋ねてるんだけど、あの子いつも「いえ、詳しいことはまだ」つって首振るんだよね。頼むから、少しくらい教えてくれたって良いだろうと思うんだけど。
「情報漏洩を危惧して、ですわね。聖女から漏れたとあっては、今後のわたくしどもの活動に支障が生じるでしょうから」
おお、そういう事かもしれないな。何しろ今どこに、誰のスパイがいるかも分からない状態だし。特に私なんて、このお城の中では新参者だからねえ。
それに、聖女の活動に支障が出るってのはつまり、だ。
「ああ、監視がびっしりつくとかお城から出られなくなるとか、そうなっちゃうかも知れませんね」
「あら」
自分の推測を口にすると、コートニア様はなにそれおっかしい、なんて顔をした。
「聖女付きの小姓とメイドは監視役ですわよ? ご存知なかったのかしら」
「あ、そうなんですか?」
マジかー。いや、エイクは分からなくもないんだけど、ゼッタさんもですか。
個人用メイドとおつきができるなんて、前世込みでも初めてなんだからそんなの分かるかい。
「だって私、もともと平民ですよ。自分専用に騎士見習いさんとかメイドさんが付いてくれるなんて、生まれてはじめての経験なんですから」
「まあ……それはそれは」
なので前世の部分だけ省いてぶっちゃけた。コートニア様は生まれた頃から付いてたんだろうから、こういう感覚はわからないと思う。おのれー。
「でしたら、ちょっとしたことをお教えしますわ」
ん?
え、何か教えてくれるのか。貴族令嬢として必要なことなのか、とりあえず拝聴しよう。
「彼らには王城より給与が支給されておりますから、わたくしどもが気にかける必要はございませんわ。ですが、お菓子やちょっとした日用品などを差し入れて差し上げるのが気遣い、というものです」
「ふむふむ」
「小姓や騎士であれば剣や鎧を手入れするための油、メイドであればエプロン、どちらでもハンカチなどは重宝されるのではありませんかしらね?」
なるほど。プレゼントしてご機嫌取りするのか……考えてみりゃそうだ、私個人のためにせっせとお仕事してくれてるんだもんな。
お給料なら私たち聖女もお城から出てるから、そういうプレゼントできるくらいにはお財布に余裕もある。そうか、やってみようかな。
「もっとも、何を必要とするかは人にもよりますから、最初のうちは当人に尋ねたほうがよろしいかと存じますわ。押し付けにならない方が、相手は喜びますものね」
もぐもぐ、と食事を淡々と進めつつコートニア様は、ぷいと私から視線をそらした。……耳が少し赤くなってるのは気のせいですか。
つーか、なぜそういうことを教えてくれたのだろうかとちょっとだけ疑問。まあ、平民出身の私が貴族令嬢から見たら見てられないから、かなあと思う。
そういうことで指導してくれたのなら、お礼を言わないとなあ。
「ありがとうございます、コートニア様!」
「……ふん、礼など言われる筋合いはございません。キャルン様お一人の言動が、聖女全体の印象に影響するんですの」
「そういうことを、教えてくれたお礼です!」
「っ」
ありゃ。コートニア様、顔全面真っ赤にしてしまった。
……何、コートニア・サフラン様、実はめっちゃちょろい?