23.報告推測あとヒント
「いいなあ。それ、僕も見てみたかったよ」
怪しい先生かっこかり、をエイクがガルデスさんのもとに持っていった翌日。
フランティス殿下からお召しがあって、この前お茶会をやった同じ部屋……殿下用の応接室に招かれた。報告という名目で、やっぱりお茶会である。
「まあ、殿下ったら。キャルン様のお気持ちもお考えくださいまし」
「ああうん、ごめん。そうだよね」
エイクが怪しいかっこかりを踏んづけたくだりは殿下にとって面白かったようで、同席のエンジェラ様からたしなめられている。まあ、他人事として見たら面白かったかも知れないなあ。私が当事者だっただけで。
でまあ、そのあたりの報告が名目なので当事者の片割れであるエイクも、今ここにいる。プライベートに近い空間で王太子殿下のすぐそばにいるからか、緊張してるのが分かるなあ。背筋ぴーん。
「エイク・カリーニ、だったね。聖女を守る者として、よくやった」
「お、お褒めいただき、光栄ですっ」
うむ、声までひっくり返ってるよ。落ち着け、そもそもお前さんの勤務地はお城の中だ。フランティス殿下以外にもいろいろ偉いさんとかとお近づきになる機会はあろう。慣れろ……私も。
「それで? どうなんだい、ガルデス」
「は」
そして状況が状況なので、ガルデスさんも来ているのであった。これで報告が名目、というのは通じない気がするけど、目の前にお茶とプチケーキやらタルトやらがずらりと並んでいるからな。
「いずれも、雇用主に関しては今のところ口を割っておりません。ですが、本物の国語教師については町外れの墓地の一角で発見されました」
「……うわ」
あの野郎、先生マジで殺ってたのか。ふざけるな、とわめきたいところだけどそれは多分、ここにいる皆も大なり小なり同じ気分だと思うしね。声は控えておく。
「遺族がいれば、補償をしてやってくれ。殉職だ」
「既に手配しております」
「よろしい」
この辺りの手際の良さは、さすが王太子殿下と聖騎士部隊総隊長だと思う。というかフランティス殿下、『のはける』よりも有能な気がするんだけど。色ボケしなきゃ名君、とかだったのかなあ? うわあ、『のはける』キャルンくっそ犯罪者! 今私だけど!
「まいったね。王城内に、出所不明の怪しい連中がいるんだから」
「外敵の手先ですと侵入の手段を塞がねばなりませんし、そうでなければ」
「うん。内側に、敵がいるってことになる」
私が口に出せないようなこと考えてる間に、殿下とガルデスさんは真剣な話を進めている。
何かやらかした実行犯は捕まえたけれど、二人というか多分この話を知ってる全員がその背後に黒幕がいる、と考えているだろう。つか、そうでもなければお城に勤めている教師を殺してすり替わったり、とかやらないもの。
「聖女を狙って、内部にどれだけ得をする連中がいるかなあ」
「キャルン様が直接狙われておりますからセデッカか、もしくは影響のあるわたくしの実家レフリード絡みでしょうか?」
「レフリード家はともかく、セデッカ家ってそんなに何か特別にいいところありましたっけ……」
うーん。
いやほら、エンジェラ様の実家って公爵家だし。貴族の中でもトップレベルのお家柄。対して私を養女にしたセデッカ家は伯爵家で、領地も王国の端っこの方だし。ピュティナ様の実家の領地とは近い、って聞いたけれど。
「ワリキューア帝国との国境から近いけれど、もしかしたらそのあたりかもしれないね。ピュティナ嬢を介して、セイブレスト辺境伯に問い合わせてみたほうが良いかも知れない」
「え」
ああ、そっち関係もあるのか。ちょうど、帝国からの使者さんも来てたところだしなあ。まだ滞在してるんだっけ?