22.怪しさ炸裂テキスト
ピュティナ様がアイアンクローで持ってきた怪しいやつは、ガルデスさんがぐるぐる巻きのロープを片手で掴む形でぶらさげて持っていかれた。どう見ても荷物か何かである。まあ諦めろ、怪しいやつなんだから。
「こちらで取り調べをいたしますので、キャルン様はどうぞ授業の方に」
「あ、はい、よろしくお願いします」
目だけ笑ってない笑顔で言われたので、あーもーどうでもいいやと丸投げすることにする。狙われたの、どうやら私なんだけどなあ。もっとも、取り調べなんて私がしっかりできるとは思わないし。ガルデスさん、頑張ってください。
ま、そういうわけで今私は文字の読み書き練習中である。文字、前世で言うところのアルファベットは何とか覚えたので、現在はいろんな文章を書いて覚える。あれだ、拝啓お元気ですかとかそういうレベル。
「……ん?」
新しい見本をもらって書き始めて、あれと思った。
さっき書いていた文章は確かに、拝啓春の日差しがどーたらこーたら、とかよくわからない時候の挨拶だったはずなんだが。
今書き始めた文章をよく見たら、おかしな文だった。具体的に言うと、だ。
『お城の点検が始まりました』
『私はそろそろ戻ります』
聖女が書くような文章……ぽいところもあるけど、うーん?
……とりあえず、その前に書いた文章思い出してみよう。時候の挨拶はともかくとして、他にはえーと。
『危ないので気をつけてください』
『井戸に隠しておきました』
何か微妙だな。後の見本の続きを読んでみるかな。
『お薬の追加をお願いします』
『みんな待っています』
うん何か微妙すぎるけれど怪しさ大爆発だ。これ書いたらやばいんじゃね、と思ったので。
「えい」
ぐしゃぐしゃぐしゃ。文章を書いていた紙に全力で上書きグシャグシャやってしまおう。ついでに落書きとか、私こんな文章書きたくないとか、見本下手くそとかがりがりと書いてやろう。てか、今日の見本とこれまで書いてきた文章の見本、よく見たら字体が微妙に違う気がするー。
「え、何を」
「先生、これ昨日までと見本の字が違います」
「っ」
そこら辺を指摘して差し上げると、先生が目を見張ったのが分かる。次の瞬間、慌てて飛びかかってきた。っておいおいおい、のしかかるんじゃないわよ怪しい先生!
「きゃー、エイク!」
「はい!」
いやだって、壮年の男性教師が飛びかかってきたら助けを求めるよね? それに、扉の向こうでエイクが待ってくれてるってのは分かってるし。
そうしてエイクは扉を蹴り開けて飛び込んできて、その勢いのままに先生を蹴り飛ばして私から引き剥がした。そうして素早く先生の腕を取り、背中に回して床に押さえつける。おお、前世において刑事ドラマとかでよく見たやり方だ。こっちでもそういうのは同じなんだな。
「……つい反射的にやっちゃったんですが、何かありましたか」
で、押さえつけた先生の上にまたがった格好でエイクは、きょとんとした顔で私を見た。
ああ、そういうのが反射的にできるように教育されてるのか。すごいな聖騎士部隊、ってエイクはまだ見習いだよね。これがラハルトさんとかガルデスさんとかだとどうなってることやら。
「こちらの見本を見てくれれば、分かるんじゃないかなー……と思うんですが」
「はあ」
「うぎぎぎい……」
エイクのお尻の下で、先生……なのかじつは違う人なのか分からない怪しいやつがうめいてる。そこからエイクを動かすわけにはいかないので、私が散らばった見本を拾って持っていった。
ざっと目を通して、エイクは「なるほど」と頷く。もしかして、気がついてくれたのかな。
「平文に見せかけた、何かの連絡事項ですよね。これが、筆記の見本ですか?」
「ええ。私の筆跡で書かせようと思ったみたいですね」
「それで連絡したい相手に伝わればよし、伝わらずに他の誰かに見つかった場合はキャルン様の筆跡だと証言すればいいんですしね」
「ぎゃあああああ!」
おいおいエイク、今先生かっこかりの腕からめきって音がしたぞ。骨軋んでるのではないかしら?
「あの、エイク?」
「え。だって、腕振り回されて抵抗されるの、面倒じゃないですか?」
うん、確かに面倒だけどね!
だからって、ピュティナ様みたいな朗らかな笑顔でそういう事言わないの!




