19.王子とティータイム
結論としては、ひとまず静観。もちろん王家の方々が全力で調査するんだけど、バレたらいけないから私たちは黙ってろ、ということになった。一応、コートニア様とピュティナ様には王妃殿下が呼び出して最低限のお話をしてくださるそうだけど。
「殿下に於かれましては、婚約者ではない聖女殿と親しくしていることが一つの原因なのではないかと……」
「いや、別に僕がキャルンと仲良くしても問題はないんじゃないか?」
そして私はエンジェラ様に誘われて、フランティス殿下のお客様扱いでお茶会に参加中である。気を楽にしてね、とは言われたけれど緊張するに決まってるだろうが! まったくもー。
なお、今殿下に丁寧な言葉でツッコミ入れたのは殿下曰く爺やさん、だそうな。ご両親が国王夫妻ということで国政その他に忙しいので、お父さん代わり……というかお祖父ちゃん代わりに育ててもらったとのこと。
グレーヘアを丁寧になでつけている老年期に入ったくらいの紳士的な男性、てか分かりやすく言ったら老執事だわ、うん。『のはける』で見なかった顔だけど、こういう人がいてもおかしくないんだよなあ。何でいなかった。
「聖女とは言え元平民があまり親しくしていたら、他の貴族や王位継承者の方々に付け入る隙を与えることになるんじゃないですか?」
一応私のことなので、自分から殿下にもツッコミ入れよう。『のはける』でも、キャルンサイドの話でそういうの出てたしな。あっちの殿下はまるで聞かなかったけれど、今目の前にいる殿下ならちゃんと聞いてくれるよね。
「けれど、王族としては聖女は保護しなくちゃならない存在だし。それなら、親しくしたっておかしくないだろう? 大体いつも、エンジェラと一緒にいるんだからね」
「はい。それにキャルン様、しっかりなさっておられますから大丈夫だと思うのですが……」
「お二方がお認めになられたのであれば、私に申し上げることはございません」
わあ、殿下とエンジェラ様の連携攻撃で爺やさんが引っ込んだ。そこ引っ込んじゃ駄目だって。
「……私がしっかりしていても、第三者から見てどう思われるかですよ?」
「父上、母上もおられるし、他の聖女たちも君のことは知ってるから大丈夫、だと僕は思うんだけどね」
「信用し過ぎです」
うんまあ、王太子殿下から信用してもらってるみたいなのはありがたいけどさ。私としては『のはける』でキャルンに溺れた結果悲惨な結末になった殿下を知ってるから……あんまり信用しすぎるんじゃないの。頼むからもうちょっと疑え、いや疑われても困るけど。
「ところでフランティス殿下、これからどうするんですか?」
「うーん。調査は父上と母上が張り切ってなさるっぽいからねえ」
手紙の内容と国王夫妻との会議の結論からして、フランティス殿下はある意味当事者なんだよね。エンジェラ様との仲を引き裂かれたりして大変なことになったら、それこそ国の将来が大変なんだもの……うん、『のはける』はそういう話だったしさ。
なので、国王夫妻は「うちの息子と娘予定に何をする気だ出てこい不審者」のノリでしっかり調査を命じたらしい。実際のところ、そんなに軽い話ではないのだけれどね。
「わたくしどもは、普通にしていればいいのですよ。キャルン様、何か怪しいことがありましたらわたくしやゲルダに遠慮なくおっしゃってくださいね?」
「はい、それはもう。自分じゃどうにもできないですし」
こういうときは、エンジェラ様の気遣いがとっても嬉しい。いやほんと、名目上のみの貴族の養女なんて何の権力も実力もないわけで、だからフランティス殿下やエンジェラ様が後ろ盾になってくれてるってのは力強い。いいぞ権力。
「一応、ガルデスとラハルトにも伝えてある。何かあったら、聖騎士部隊の宿舎も近くだから頼るといいよ」
「……それって、どこかの誰かが暴力で訴えてくるってことじゃないですか?」
「可能性がないとは言えないからね。エンジェラも、ゲルダがいるとは言え気をつけるんだよ」
「分かっておりますわ。フランティス殿下」
殿下に言われて思い出したけど、そう言えば聖騎士部隊って聖女を守る部隊なんだよなあ。ガルデスさんはそのトップで、ラハルトさんは私に手紙持ってきた張本人だから……って。
「ラハルトさんがあのお手紙持ってきてくださったんですけれど、どなたから渡されたとか殿下は伺ってますか?」
「メイドから渡されたって言ってるけどね。今面通し中」
……ちゃんと協力してくれてるのかなあ。もし、あの手紙が帝国の陰謀とかだったりしたら……うーん、なんとなくだけどそれはなさそう。
だって、それで疑われるの、まず帝国の色してるラハルトさんだろうし。