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10.上から目線アタック

 文字の読み書きに、みっちり三時間が当てられた。この世界、一年は三百六十五日だし一日は二十四時間なので楽で助かる。

 この国で使われてる文字は、前世でいうところのローマ字に近いのでまあ、覚えて読むだけなら何とかなる。ただし、聖女たるもの美文字の方がいいよねということで書き取り練習を、何度も何度も何度もやった。

 特に、まず自分の名前は綺麗に書けないと後世に残るとか何とか。手本として見せてもらったのが、昔の聖女たちの自筆書類でねー。みんなめっちゃ綺麗な文字だったのよ。読む方がまだまだな私にもとっても読みやすい書類ばかり。

 これは、私も頑張らないといけないんだよな。数十年、数百年後に私の書いた書類を手本にしてほしいし。まかり間違っても反面教師にされたくないからね。


「自分の名前と数字が書けるだけで、村ではどうにかなりましたけど……大変ですね」

「大変ですが、覚えてください。エンジェラ様などはこれ以外に数カ国の言葉をマスターしておいでです」

「……うわあ」


 お昼になったので中断して、教室の入口で待機してくれてたエイクと一緒に食堂に向かう。つかエンジェラ様、私よりちょっと年上だったはずだけど……子供の頃からいろんな言葉、勉強してるんだろうなあ。後々フランティス殿下の妃として働くために。

 『のはける』のキャルンは、そういうことができなくてめちゃくちゃ苦労し……はしなかったのかな。外交とかは全部他に丸投げ、って描写があったはずだ。それで帝国はじめ周辺国から良い印象を持たれなくて、それも王国滅亡の遠因となったんだっけ。

 根本的に何やってんだろうなあ、『のはける』キャルン。私はさすがにそんなこと、できる気がしないしするもんか。


「今後、聖女として正式に着任してからは王命書などの書類が届くことになります。俺やメイドが読んでも良い内容ならばともかく、他言無用のものが届くかも知れませんし」

「なるほど。それは自分で読めなきゃいけませんよね」


 それはそうと、エイクは私にきっちり説明してくれる。私付きになってるのが不満なのは間違いないけれど、それはそれとしてきちんと仕事はやってくれてありがたや。よしよし、それでいいんだよエイクくん、なんて考えていたら。


「あら、エイク」

「おや、エイク」

「……っ」


 女の声と男の声で、ほぼ同時にエイクの名前が呼ばれた。途端にびくりと反応したところを見ると、彼からしたらあまり顔を合わせたくない相手っぽいなあ。


「そちらがあなたの主? いやあね、平民出の聖女ですって」

「まあ、お前にはちょうどよい主であろう。せいぜい仕えることだな」


 おー、分かりやすく上から目線が来た。

 女の方は紫の髪の縦ロール、濃い茶色の吊り目のいかにも性格きつい系美人。男の方は昨日のガルデスさんとほぼ同じ格好だから聖騎士か。赤髪オールバックロン毛ってエイクと同じ髪色だなあ。

 どう考えても貴族の人たちだろうし、伯爵以上だよなと思ったので名乗るのを待ってあげよう。軽く頭を下げると、女がふふんと鼻を鳴らして口を開いた。


「わたくしはコートニア・サフランと申します。サフラン侯爵家の長女ですわ」

「コートニア様付きの騎士、ドナン・カリーニであります」

「……カリーニ」


 やっぱり上だ。いやまあ、それはいいとして小姓って年齢じゃないよね、騎士のドナン・カリーニ。

 同じ名字のエイクにちらりと視線を向けると、すっごく苦々しげな表情で教えてくれた。


「……二人目の兄です」

「まあ、それはそれは」


 なるほど、すぐ上の兄が同じ職場にいてかつあっちは侯爵家のご令嬢付き、自分は元平民の伯爵家養女付きか。しかもわかりやすい上から目線、そりゃ不満だろうなあ。私なら逃げるかな、逃げるな。そもそも同じ職場に就職しねえわ。

 ま、それはそれとして名乗られたので名乗り返そう。礼儀は一応、簡単にだけど説明してもらったのだ。エンジェラ様に。


「お初にお目にかかります。キャルン・セデッカ、セデッカ伯爵家にご縁をいただきました」

「ええ、よく存じ上げておりますわ。聖女だから伯爵家の養女としてもらわれることができたのだ、と」


 清々しい上から目線、貴族ってこんなんだよねーという田舎ど平民の認識というか先入観通りなんだよな、コートニア様って。さすがに怒る気にもなれないというか、ここで新入りが問題起こしたらめんどくさいよな、うん。


「おっしゃるとおりにございます」

「それならば、わたくしのサフラン家のほうがセデッカ家よりも格上であることはおわかりですわね?」

「はい」


 全力でパワハラ来やがったな。ドナンはというと、にやにや見てるだけである。まあ、あんたんち子爵家だもんねえ、とちょっとかわいそうになった。

 この貴族階級思想にまみれたおっさんじゃなくてお兄さんは、コートニア様の御威光がなければ私にヘコヘコせざるを得ないんだからねえ。

 で、そういう人とそういう人を連れた上から目線の人に一番効くのは、だ。


「でしたら、わたくしの方が更に格上ですわよ? コートニア様」

『エンジェラ様!』


 もっと上からの目線、である。

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