106.私からの一言ザマァ
「エイク、キャルン様をこちらに!」
ゲルダさんの声が、よく通る。その声に反応して、エイクは私の身体を抱えた手にしっかりと力を入れた。あ、これはアクションの前兆だ、私もがっつりしがみついておこう。振り落とされたくないしね。
「はい! 失礼します!」
「っ!」
だん、と床を踏んで飛び下がるエイクは、あっという間に魔女から距離を離してエンジェラ様たちのところへ戻った。いや、さすがに早いわ。
一方魔女の方はというと、髪の毛四割むしられた状態ということでこう、パニックに陥っている。犯人私だけど。
「わたしのわたしのわたしの! かみかみかみかみかみのけえええええええ!」
「少々不憫だが、自業自得だな」
「ですねえ」
そこの魔帝陛下と聖者、不憫とは全く思ってない顔で頷きあうな。剣は構えたままだし……そりゃラスボス戦だけどさ。
「切り裂け! 敵は消耗している、回復に時間がかかる今の内だ!」
「おぉおっ!」
で、ガルデスさんの号令一下、聖騎士たちがわらわらと魔女に向かっていく。髪触手、六割は残ってるんだけどそこまで減ると、ピュティナ様の結界でがっつり抑え込めてる模様。ははは、やったね私。
なんてことを考えていたら、足が地についた。エイクがゆっくり、おろしてくれたのよね。
「キャルン様、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶ」
私のおつきってこともあって、きっちり心配してくれてるのはありがたい。とは言えまだラスボス戦中なわけで、さっさと片付けたいよね。つか片付けよう。
だから、私はエイクの背中を押すことにする。
「私も、まだ祈れます。エイクはあちらに加わって」
「……分かりました」
一瞬だけ戸惑ったけど、すぐにエイクは頷いてくれてそのまま駆け出した。それを見送って私は、拳を握る。
よし、と自分の中に言い聞かせて、他の聖女様たちのところに並んだ。「キャルン様!」と名前を呼んでくれたのはエンジェラ様で、私は笑顔を見せてそうして口を開いた。
「エンジェラ様、コートニア様、ピュティナ様。いけますよね?」
「もちろんですわ」
「当然ですわ」
「うふふ、お任せくださいませねえ」
ピュティナ様は魔女を捕らえておくための結界を張り巡らせ、私たちは味方の戦力を引き上げるために祈る。
祈って、祈って、祈り続ける。それしか、私たちにはできないもの。
「守りは聖女に任せて参るか、王国の聖者よ」
「魔帝陛下のお力があれば、大変心強い」
「は、言っておけ!」
だから、喜々として剣を振りかざす魔帝陛下や呆れ顔で続くセーブルさんにお任せする。
「ゲルダ! ラハルト、エイク、切って切って切りまくれえ!」
『はっ!』
聖騎士たちを率いて、自ら突貫するガルデスさんにお任せする。
「わたしが、わたしがわたしがどうしてどうしてどうしてどうしてえええええ!」
「……あんたは、話の筋を読み違えたのよ」
ずたぼろに髪触手を切り裂かれ喚き散らす魔女に、私は現実を伝えてあげよう。
私が見ることができたのに、彼女には見ることができなかったものを。
「せめて魔帝陛下と仲良くしていれば、良かったのにねえ」
「ききききさまああああ!」
魔女の目が私をにらみつけるけど、怖くない。髪の毛はバサバサに乱れ、防御を破った攻撃によりあちこちが血に塗れたあんたなんて。
何とか聖騎士たちの攻撃を跳ね返しているけれど、ガルデスさんやセーブルさんや魔帝陛下の切っ先に肌を切り裂かれていくあんたなんて。
そして。
「ざ ま あ」
私は、自分が言われるはずだった言葉を、断末魔の魔女に投げかけた。
いやほんと、一つ間違えてたら私がああなっていた、んだろうなあ。もしくは、『のはける』の話のままに。