101.変じた騎士はデッド
「うごあ?」
「ん?」
「あれ?」
スクトナ様が身動きを取れなくなったところで、ドナンさんの動きが鈍くなった。というか、あの太くてゴワゴワした毛がばさ、ばさと抜け始めている。何となく、身体も縮んできているような。
「エイク!」
「あ、はい!」
そこに、当然ガルデスさんもエイクも気づいたわけだ。二人はすかさず剣を構え直し、ドナンさんを挟み込むように動いた。そうして、突進。
「はあっ!」
「たああ!」
腕が片方落とされたドナンさんの、その片腕が生えかけてるんだけど中途半端な長さで止まっている。その短い腕と切られてない方の腕を振り回してドナンさんは、ガルデスさんとエイクをぶん殴ろうとした。
ただし、二人とも器用にその攻撃をかいくぐり、そうしてほぼ同時にその胴体に、剣を突き刺した。
「がっ、が、はっ!」
「兄上。いずれにしろ、あなたに未来はない。このまま、お眠りください」
血を吐き出したドナンさんの顔は、だいぶ人のかたちに戻っている。その兄にエイクが、ちょっと悲しそうな表情をしてそう告げた。
罪人として牢に入れられていたスクトナ様を救い出して逃亡した時点で、ドナンさんもまた罪人として手配されている。おまけに、魔女の手先として帝国と王国に歯向かったってことで、まあ死罪は免れない。
生け捕りにして連行したところで、どっちみちドナンさんは死ぬことになるんだ。
「ここで死んだほうがまだ、名誉は守れるかもしれんな。ドナン!」
そしてガルデスさんは胴体から引き抜いた剣を振り上げて、横に薙いで、首を落とした。
罪人として処刑されるより、諸悪の根源である魔女の陰謀によって暴走させられて戦死……ならまだ、マシなのかな? いや、その辺まるで分からない。どっちにしろ、こちらは被害者だし敵だしなあ。
それはともかく、飛ばされた首は地面に落ち、何度か転がって動きを止める。その顔は、私やコートニア様もよく知っているドナン・カリーニ、そのひとのものだった。
「……一応、魔女の陰謀ということで報告はしておく。そこからどうなるかは、俺は知らん」
「ありがとうございます、部隊長」
軽く剣を振って血を飛ばし、そんな事を言いながらガルデスさんは警戒をやめない。魔女がピンピンしてるからだけどね。
さすがに実の兄を殺したわけなので凹んでいるエイクをかばうように、足を踏み出した。
「エイク! 凹むのは後にしてください、生きてればいくらでも凹めますから!」
「キャルン様、おっしゃり方が大概ですわ……」
一応私も声を上げるけど、エンジェラ様にちょっと呆れられた。いやでも、実際そうでしょうが。死んじゃったらもう、何もできないんだから。
魔女はこちらをにやにや眺めていて、余裕がある感じだ。だよねえ、余裕なかったら今の隙間に触手うねうね攻撃かけてくるよね。
「聖女の祈りも、口をふさげば効果がなくなるのね。ま、私には関係ないけれど」
「スクトナ様の場合は、そうなんじゃないでしょうか……はて」
魔女が確認のためにか、口にした言葉に私はそう答えてみる。いや、だって私今、口に出してお祈りしてないし。心のなかで神様助けてくださいバフ大量にお願いします、とか言ってるだけだし。
……これで叶えてくれる神様がいるとしたら、えらく寛大だなあ。自分の能力であれば納得行くんだけど、実際はどこからこの能力が出てるのか分からないねえ。うん。
「ふむ、個人差か」
「過去の聖女には、祈りさえせずに一瞬で力を放つ者もいたという話ですし」
セーブルさんが触手対処しながら感心するのに、コートニア様がそう答える。
いやまじで、祈りというより普通に魔術の一種なんじゃないだろうかね、聖女の力って。
今目の前で頑張って髪触手増やしまくってる、魔女もそうだと思うんだ。……って、何か魔女、回復してない?
「クソ聖女と小悪党聖騎士の魂は、魔力変換させてもらったわ。ああ、おいしい」
「……」
うん、さすがに本人以外全員ドン引き。
つーか、魂かっ食らう魔女ってそれ、既に人間やめてるぞ、おい。