99.硬すぎるショクシュ
「はぁあああっ!」
セーブルさんが剣を振るう。どう見てもグロテスクな触手にしか見えなくなったうねうねの毛ががきんと音を立てて、一部がぽっきり折れて消滅した。
えーあーまー、魔女の髪の毛がめっちゃ伸びて触手化してるんだよね。あからさまにラスボス形態じゃないか、あれ。
「たかが聖者の分際で、わたしの髪をおおお!」
「そのたかが聖者に切られる程度の強度しかない、ということだろう!」
魔女と聖者で口論中。たかが聖者って、聖女と同じ存在かつ性別的にレアだって分かってるんだろうか、魔女。一応『のはける』読んでんでしょ?
「いつの間に、こんな手まで」
同じ触手を、こちらは数本いっぺんに相手している魔帝陛下がぽつりと愚痴る。折っても切っても次から次へと伸びてくるので、愚痴言いたくなる気持ちもわかるなあ。
しかし、魔女は魔帝陛下にはツッコミ入れないのね。そこは分かってるのか、さすがに。
「聖女の力に頼るしかないか。我が国のことで、苦労をかけているな」
「それをおっしゃるのであれば、スクトナ・グランビレとドナン・カリーニは我が国の民ですわ。こちらこそ、我が国の民のことでご苦労をおかけしております」
魔帝陛下とエンジェラ様、『のはける』では結びついて夫婦となった二人が違う立場で言葉を掛け合っている。
エンジェラ様や私たち聖女の祈りで、魔帝陛下や聖騎士部隊はパワーアップして戦えている。
聖女だけなら、たとえ祈りでバフがかかってもまともに戦闘はできない……と思う。正直、そうなると戦力ってピュティナ様だけだし。
だから私たちと兵士や魔帝陛下は、どっちもいなければならなかったのよね。
……『のはける』終盤、グランブレスト王国はほとんどの兵士がやる気を無くし、一部の聖騎士たちがどうにかフランティス殿下とキャルンを守っていた。
対してワリキューア帝国側は魔帝陛下とエンジェラ様、そして士気高い帝国軍や寝返った王国軍たちで……うん、どう考えても『のはける』キャルン、勝ち目ないし。
「わたくしどもの力は、まあピュティナ様はともかくとしてですが、本来皆様がたが持つ力を引き上げるもの。癒やしも解毒や解呪も、己が持つ自己治癒の力を増幅させるものですわ」
コートニア様が祈り続けながら、聖女の力について語る。これ、『のはける』ではエンジェラ様が言ってたっけなあ。
「ですので、戦の力をお持ちになる方々がいらっしゃらなければ、意味はないのです」
「なるほどな。それもあっての、聖騎士部隊か」
「聖者様はお一人で両方を兼ねておられますが、お一人ですのでどうしても限界はございます」
ドナンさんとは、ガルデスさんとエイクが頑張って戦っている。すっかりケダモノになっちゃったドナンさんは、スクトナ様の祈りを受けてどんどん毛が伸びて……あ、魔女の髪の毛と同じく触手化した。勘弁してよまったく。
「……まあ、これはスクトナ様にも共通するのですけれど」
「確かにな」
がぎん。
どう見ても毛なんだけど、金属の音をさせるところを見るとめっちゃ硬い物質になってるらしい。それをどんどん伸ばして攻撃してくる魔女と、そしてドナンさん……あーもう、多分彼らはどうしようもないところまで来てしまってるんだろうな。
「いずれにしろ、彼らをどうにかしないといけないわけだ。済まないが、もう少し頼むぞ」
「がんばります!」
魔帝陛下の頼みなら、頑張るしかないよね。少なくとも私には、祈って祈って祈りまくるしかないんだもの。それも、自分の意志で。
スクトナ様みたいにお祈りの機械になんてならないけれど、やってることは一緒か……まあいい、聖騎士をケダモノにはしないからね。こっちは。
「ち、近寄れません!」
「がっはあ!」
ドナンさんや魔女が生やしまくってる硬い毛の触手に、兵士たちがどんどん吹き飛ばされる。こっちのバフに、あっちのバフが追いついてきたのか……あーいや、デバフがうまくかかってないかもしれない。
「クソキャルン! お前のせいで簡単に殺せないじゃないのおおおおおお!」
ああ、魔女からしたらまだまだ本気じゃないってことみたい。いや、そうそう味方殺されてたまるもんですか。冗談じゃないってば!




