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第5話:『魔法』①

 ☆


 人間の体には、とある『物質』が宿っている。

 ミューレさんはそう言った。

 その『物質』は、普段は目に見えないし、認識できないが、人間は誰しも自分の『物質』を自由自在に操作することができるのだという。

 そして、『物質』はあらゆる物体、生物に干渉し、変化させることができるという。その『物質』は『▫︎▫︎』と呼ばれ、その『▫︎▫︎』を使った技術のことを『▫︎▫︎』と言うのだという。

 ミューレさんの説明を聞き終えた俺は、完全に『予想』が確信に変わっていた。

 なんてこった。俺は……

「先ほど言いましたように、今(わたくし)たちの会話が通じているのは私の▫︎▫︎(技術)の効果によるものです。簡単に言えば、私の▫︎▫︎(物質)が互いの言語を翻訳しているのです」

 やはり、俺はその『技術』を忘れたんじゃなくて、もともと知ってるはずがなかったのだ。

 なぜか。()()()()には存在しないからだ。

 

 ここは、俺のいた世界じゃない。


 俺の世界にはない概念だから、翻訳することが出来ず『▫︎▫︎』としか聞こえなかったというわけだ。

 それはともかく……気づいたら異世界で大怪我を負ってぶっ倒れていた?

 俺の困惑は深まる一方だった。

 俺はとりあえず、人間の体に宿っているという『物質』のことを『魔素(まそ)』、魔素を使った『技術』のことを『魔法』と呼ぶことにした。『()法の()』なので『魔素』だ。

 安直だと言われても、覚えやすいに越したことはないのだ。

「この耳飾りも、私の()()と同じ効果を持っていて、装着した者同士はお互いの言語を理解できるようになります。こういった魔法ような能力を持った道具のことを▫︎▫︎▫︎と呼ぶのですが、魔法を忘れてしまっているなら▫︎▫︎▫︎もお忘れですよね?」

「え!? あ、ああ、そうですね。わかりません」

 さっきまで『▫︎▫︎』としか聞こえなかったミューレさんの言葉が『魔法』、『魔素』と聞こえるようになっていた。自分の中で言葉を設定したらそう聞こえるようになるのか。

 魔法のような力を持った道具か……じゃあ『魔導具(まどうぐ)』かな。『魔道具』じゃなくて『魔()具』なのがミソだ。

 どうやら、ミューレさんの『魔法』によって、俺たちは互いの言語が翻訳され滞りなく会話ができている、とのことだった。そして、このイヤリング(魔導具)にはミューレさんの『魔法』と同じ能力があるらしい。

「耳につけてみてください」

 ミューレさんにそう言われ、俺は片方のイヤリングを右耳に装着した。ミューレさんも左耳にもう片方のイヤリングを着けた。

「今、私は魔法を使っていません。耳飾りを外してみてください」

 言われるままに、俺はイヤリングを外す。

「▫︎▫︎▫︎▫︎?」

「……!」

 突然ミューレさんの言葉が理解できなくなった。もう一度耳につけてみる。

「▫︎▫︎……ですか? 今はちゃんと聞こえるでしょう?」

「き、聞こえます」

 イヤリングを耳にかけた瞬間、正確には触れた瞬間にミューレさんの声が日本語に聞こえるようになった。

「これが魔導具です。私の魔法を元に製作されました」

 凄い。俺の世界にも翻訳機はあるが、こんなに円滑に会話ができるようなものはまだ開発されてないだろう。

「他に何かご質問はございますか?」

 俺がイヤリングに感心していると、ミューレさんが俺に尋ねた。

「えっと……」

 その時俺は気づいた。俺の体には包帯がぐるぐる巻かれているが、元々俺が着ていた服が無かった。(パンツはちゃんと履いてます)

 下校中だったから、学校指定のカッターシャツとズボンを着ていたはずだ。

「あの。俺が着てた服って……?」

「ああ。それでしたらお洗濯して今干している最中です。昨日、ナギサ様を手当てする際に、全身に傷を負っておられましたので、誠に勝手ながら預からせていただきました」

「そ、そうなんですか。……全身手当てしてくれたんですか?」

「はい。全身くまなく」

「そ、そうですか……」

 正直恥ずかし過ぎるが、手当てしてくれたことはありがたい。

 だけど……全身に傷……?

「昨日、ナギサ様が眠っている間にお医者様を呼んで治療していただいたのですが、お医者様のお話によりますと『明らかに何者かから、あるいは複数名から暴行を受けた傷』だとおっしゃっていました」

 俺はゾッとする。誰かにリンチされたってことか……? だが、相変わらずまったく思い出せなかった。

「おそらく、野盗か何かに襲われたのでしょう。おいたわしいことです。……あ、そうでした。これをお渡ししようと思っていたのです」

 俺が困惑していると、ミューレさんが俺に何か手渡してきた。

「これは……」

 それは、一つの腕時計だった。


 −−−


 間違いなく俺の腕時計だ。高校に入学するときに、初めて自分で買った物だ。

「こちらも昨日、手当てをするときに預からせていただきました。……ところでそれは装飾品ですか? 見たところずいぶんと精巧な造りのようですが……」

「えっ。いや、普通の腕時計ですけど……」

「ウ、デ……?」

 ミューレさんは俺の言葉が理解できていないようだ。俺は気づいた。どうやらこの世界には腕時計が存在しないらしい。やはりその人間の中にない概念は翻訳できないようだ。

「えっとまあ、装飾品のようなものですね」

 といって俺は誤魔化した。まるっきり嘘というわけでもない。

 腕時計の表面は傷がついていた。かなり乱暴に扱われたようだ。しかし、針はちゃんと動いている。一番頑丈な奴を買っててよかった。

 この腕時計は日付も表示されるタイプだ。狂っていないなら、今は7月17日の午前10時のようだ。

 俺の高校の終業式は7月14日だった。昼には学校が終わり、俺は下校した。そこから記憶が途切れ、ミューレさんの話では俺は昨日(16日)の明け方にこの屋敷の前に倒れていたのだと言う。

 14日の午後から、15日を挟んで16日の未明。この空白の1日半の間に、俺の身に『何か』が起きた。そして俺は異世界に来て、誰かにボコボコにされた……

 一体『何』が……?

 わけがわからない。

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