表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/25

第4話:混乱②

 ★


 そこに立っていたのは、知らない男だった。

 まるでローブのような真っ黒い服で全身を覆っていた。体格から男だと判断したが、顔もフードに隠れてよく見えない。

 誰がどう見ても不審者だ。私は男を警戒して立ち上がる。

「▫︎▫︎▫︎▫︎……」

「え?」

 男が何事か呟いた。だが、私にはその言葉がわからない。と思った瞬間、男が私に向かって腕を伸ばした。私はびくっと身構えて一歩後ずさる。かかとが水たまりに少し付いた。

 その刹那。

「……!? ごぼっ……」


 突然、私は呼吸ができなくなった。


「ご……が……」

 私はただ立っていただけだ。なのに今、()()()()()()()()()()()()

 首から下はなんともなく、頭()()がフルフェイスヘルメットを被っているように水に覆われていた。当然、私は溺れる。

 何が。一体何が起きてるの? この男が()()()()()()()

 男と私の間には5メートルほど距離があった。しかも男はその場から一歩も動いていない。ただ腕を前に突き出しただけだ。

 私は『水』から逃れるために必死にもがいた。手にしていたと携帯とカバンが地面に落ちる。しかし『水』は私を逃さない。私の動きに合わせて水もついてくる。私は地面に倒れた。

 苦しい、苦しい、誰か、誰か助けて、誰か……なぎ……

 思考ができない。意識が遠くなりかけた、その時だった。


 私は、私の中から、『何か』が湧き上がるのを感じた。


 一瞬、目の前が真っ暗になった。同時に、ばしゃり、という音と共に私の頭は水から解放された。反射的に私は飛び上がり、男と距離を取る。

「げほっ! げほっ! ……はーっ、はーっ、はーっ……」

 私は地面に両手をついて肺に入った水を吐き出す。今ほど空気が美味しいと思ったことはなかった。

「▫︎▫︎▫︎……!?」

 男も何が起こったかわからない、というように動揺しているようだった。

 一体今、何が起きた? 私の中から何かが湧き上がるようなあの感覚。これは……

「……!」

 私は気づいた。今、私は公園内の照明の下にいる。さっきまでは暗かったから()()がよく見えなかったのだ。今ははっきりと見える。

 それは、まるで夜空のような漆黒だった。無重力に墨汁をばらまいたかのように、不定形で真っ黒な、得体の知れない『物質』が私の全身から溢れて空中を浮遊していたのだ。


 −−−


 中学生の運動会の時、私は400メートル走に出ることになった。

 スタートの合図と共に全速力で走った。走り終えて、ゴール横で座り込んでいる時、私は自分の体から熱が放出されているのが、はっきりと感じられた。

 その時の感覚に、よく似ていた。この真っ黒い『何か』は間違いなく私の『内側』から湧き出している。

 これは、一体何だ?

「▫︎▫︎▫︎!」

 ローブの男が叫んだ。その瞬間、男の周囲の水たまりの水が()()()()()()()

「……!?」

 水はまるで生き物のように男の周りを浮遊していた。

 まさか、この男が水を『操って』いるのか?

 そんな馬鹿な……だが……

 男は私に向かって手を伸ばす。同時に男の周囲の水が飛んできた。私は思わず手で顔を守ったが、しかしさっきのようにはならなかった。私から溢れる黒い『何か』が、まるで私を守るように私の前を覆ったのだ。そして黒い物質に当たった水はそのまま地面に落ちた。

「▫︎▫︎!?」

 男は思い通りに行かなかったことに、さらに動揺しているようだった。

 わけがわからないが、逃げるなら今しかない。だが、情けないことに私は腰が抜けて立ち上がれなかった。

「ざけんな! 動け馬鹿!」

 自分を罵倒するが、両脚が言うことを聞かない。

「▫︎▫︎!」

 男が再び私に手を向ける。私は思わず目をつぶる。

 しかし、

「▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎▫︎!!」

 悲鳴を上げたのはローブの男の方だった。

 私は顔を上げる。男の右腕からは血が流れており、地面にぽたぽたと血溜まりが滴った。

 男の右腕には、一本のナイフが刺さっていた。

 なんだ? あのナイフは?


「よお、なんかトラブってる感じ?」


 声がした。その方向に視線を向ける。


 −−−


 そこには、一人の男が立っていた。ノーネクタイのスーツ姿で、無精ヒゲを生やした男だった。

 何者だ? なぜこんな異常極まる状況を見て落ち着いていられるんだろうか。もしかして、あのナイフはこの男が()()()のか?

「いや〜まさかとは思ったけど、マジで『黒』だな」

「は……?」

 ヒゲの男は私に向かってそう言った。なんのことかまったく理解できない。

「▫︎▫︎▫︎!」

 ローブ男が、ヒゲの男に向かって怒鳴った。そして、傷んでない左腕の方をヒゲの男に向けた。その瞬間、周囲の水が今度はヒゲの男を目掛けて勢いよく打ち出された。

 だが、

「▫︎▫︎▫︎!!」

 伸ばしたローブ男の左腕を貫くように、4本のナイフが()()()()()。男は叫び、腕を押さえる。水はヒゲの男に届く前に地面に落ちた。

「悪いんだけど、俺この子に話があるからさ、外してくれねえか?」

 余裕たっぷりにヒゲの男は言った。私に話がある……?

「▫︎▫︎……▫︎▫︎▫︎!!」

 両腕に重傷を負ったにも関わらず、ローブ男はまったく戦意を失っていないようだった。今度は両腕をヒゲの男に向ける。

 その動きに連動するように、水が男に向かって襲いかかる。

「ガッツあるねえ。でも……残念」

 水は、ヒゲの男に到達する前に、男の周囲の空間に()()()()()()()()()消えた。

「▫︎▫︎……!?」

「お前にとって俺は、()()の相性が悪すぎる」

 ヒゲの男はそう言ってローブ男に近づいた。さすがに打つ手無しか、ローブ男は呆然とするだけだった。

「ちょっと大人しくしといてな」

 そう言うとヒゲの男はローブの男の頭を掴んだ。その瞬間、ローブ男はさっきの水のように、空中に飲み込まれるようにしてその場から消失した。

「……!」

 夜の公園には、私とヒゲの男の二人きりになる。

「やっとゆっくり話ができるな」

 男は、そう言った。


 −−−


神門(ごうど)だ」

「え?」

「俺の名前だよ。神様の門って書いて神門。どうぞよろしく」

「……」

 なぜこのタイミングで自己紹介を?

「早速だけど嬢ちゃん。その黒いやつについて話したいことがある」

 そう言って、男–––神門は、一歩私に近づいた。

「近寄らないで!」

 神門はピタリと動きを止める。

「まあそう警戒しないでくれよ。嬢ちゃんに危害を加えるつもりはない」

 信じられない。この男もローブの男と同じように不可解な現象を起こせるようだ。助けてもらったとは言え、『危険』なことには変わりない。

「……この黒いのがなんなのか、あなたは知ってるの?」

 私は神門にそう聞いた。黒い『何か』はまだ私の体から漏れていたが、だいぶ弱々しくなっており、今にも消えそうだった。

「ああ、よく知ってる。……嬢ちゃんは自分に()()があるのを知らなかったのか?」

 私は頷く。

「今初めて、こんなものが体から出てきた。これについて話したいことがあるなら、まず私の質問に答えて。これは一体『何』なの?」

「初めて? ふむ……」

 神門は少し考える素ぶりを見せた後、口を開いた。

「『エア』と俺たちは呼んでいる」

「『エア』?」

「さっきみたいなわけわからん現象を起こす物質のことだ。俺たち人間は、誰しも体の中にエアが宿ってるんだ」

 神門は、語り始めた。

初バトルが新キャラvs新キャラ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ