第18話:白色②
★
私の助けを求める声が聞こえた。臣はそう言った。
「そう、こいつが突然『誰かが襲われてる』なんて言うもんだから、ちょっと見に行ったらびっくり。お前から黒エアが出てるのが見えたわけよ」
神門が言った。昨日神門は車に乗っていたが、あの車には臣も乗っていたのか。
「君が……」
「うん。うとうとしてたら目がさめるくらい大きな声で聞こえてさ、感情が強ければ強いほど遠くから聞こえるようになるんだけど、あ、これはなんか大変なことになってるな、って思って。神門に言ったの」
「そうだったんだ……ありがとう」
臣がいなければ、私も渚と同じように異世界に連れ去られていたかも知れない。私は素直に感謝した。
「べ、別に……」
臣はそう言うとふいっと向こうを向いてしまった。
「湊、こいつ照れてるぜ」
神門が茶化すように言った。
「はあ!? な、何言ってんの!?」
臣は年相応に顔を赤くして、神門を蹴った。
さっきから臣はほとんど無表情だったので、その顔を見た私は少し安心した。
それにしても……
「二人は親子なの?」
「は?」
神門と臣は同時に声を出した。
柘榴や神門はこの事務所や楽多町の雰囲気に合っているが、臣は異質だ。彼は、神門と異世界の『角持ち』とか言う種族の女性との間に生まれた子供なのだろうか。考えられるとしたら、そのぐらいだった。
「お姉ちゃん、勘弁してよ。こんな奴が父親なんてさ」
「こいつが俺のガキか。そりゃ傑作だな。でも違う。臣は俺が拾ってやったんだ」
「え……」
「適当なこと言わないでよ。僕がいてやってんだと」
「へっ、言ってろ」
「……」
まったく分からないが、単純な関係ではないらしい。学校などはどうしてるのだろうか……聞かない方が良さそうだった。
私は話をエアに戻すことにした。
「臣のエアは増強に特化してるのは分かった。じゃあ神門のエアは何に特化してるの?」
神門は物を消失させたり、いきなり出現させたりしていた。さっき聞いた6つの属性の中に、連想されるものは無かった。
「俺か? 俺ぁな……」
神門は手の平を差し出す。
その上が、白く光った。
−−−
「白?」
「そうだ。白エアってのは、黒ほどじゃないがまあまあ珍しくてな」
「どれに特化してるの?」
「白はどの属性にも特化していない」
「え?」
「俺のエアの能力はさっき言った6つの中にはない。あの6つはあくまで『基本的な』能力の属性であって、エアの能力の中にはそれに含まれない『特殊な能力』があるんだよ。これはどんな色のやつでも覚えるのに時間がかかる」
「なるほど。だから白エアの人はその『特殊な能力』を覚えるってわけね。どれかに特化してるなら、それを伸ばした方が良いもんね」
神門は驚いたように私を見た。
「な、なに?」
「湊、お前ほんと頭いいな。その通りだ。特殊な能力を覚えてるやつは白エアが多い。あと、全ての属性の能力をバランス良く覚えられるのも白エアならではだな。特化してないからって弱いわけじゃねえ。『何をしてくるかわからない』のが白エアの強みだ。……ちょっと借りるぞ」
神門はそういうと、臣がいじっていた携帯をむしり取った。
「ちょっと! 何すんのさ!」
臣がそう言ったと同時に、神門の手の上で携帯が消えた。
「俺のエアの能力は、こんなふうに物体を『仕舞って』……」
パチン、と神門は指を鳴らす。
その瞬間、私の目の前に臣の携帯が現れた。携帯はそのまま落下して、フライドチキンの骨が乗った紙皿の上に落ちた。
「げえっ! 最悪! 馬鹿!」
「……しまった物をこんな風に任意の場所に『置く』ことができる。……『場所』ってのは適当じゃねえな。『座標』って言えばいいか?」
昨日のことを思い出す。レイリーの腕に突然ナイフが現れていた。あれも、腕に重なるようにナイフを『置いた』ってことなのだろうか。
「『仕舞う』って……しまわれた物はどこにいくの?」
「そりゃ、エアで作った空間よ。『特殊な能力』の代表的なものの一つに、『空間への干渉』がある。空間をねじ曲げて瞬間移動したりな。俺の能力もそれだ。まず、エアで空間を作って、その中に物を自由に出し入れできるってわけだ。便利だろ? 俺は『倉庫』って呼んでるけどな」
「なるほど、要するに『アイテムボックス』ね……」
「なんだって?」
確かに便利だが、同時に恐るべき能力だと思った。なんの証拠も残さず人を殺傷することができる。
「あのレイリーの能力は『水を操る』だろうな。なんの捻りもない操作能力だ。俺との相性が最悪なのは分かるだろ?」
私もそう思った。しかし、それでも戦える術はいくつかあるとも思った。
「……エアとエアの戦いでは、何か理由がない限り自分の能力を知られるのはマイナスでしかない。俺が今自分の能力を教えたのは、お前に信頼して欲しいっていう意思表示だ。わかるな?」
「……分かった」
正直、まだ完全には信用しきれない。でも、異世界の入り口まで案内してくれることは信じていいだろう。
その時、柘榴が部屋に戻ってきた。
「ちょうどいいな。柘榴、お前の『色』も湊に見せてやれ」
「あ? なんで自分の手の内教える必要があんだよ」
「どうせ見せることになるだろうが。遅いか早いかだ」
柘榴はふてくされたように手の平を上にした。そこから、明るい緑色の光が放たれた。
「見ての通り、柘榴の色は緑だ。緑は生成能力に特化してる。エアを他の物質に変換して無から物体を作るタイプだな」
無から……って。エアは私の常識をことごとく超えてくる。そういえば、さっきの『翻訳機』はエアで作ったと言っていたが……
「よし、全員揃ったな。じゃあ行くか」
神門はそう言って立ち上がった。
「行くってどこに?」
「どこって界裂だろ?」
「今から!?」
神門は私が驚いていることに驚いているようだった。
「まだなんか他にすることあったか?」
「いやいや。私親に何も言ってないし……」
「あー……なるほど。確かにそうだな」
逆になぜそのことに思い当たらないのか。
「しかしな……湊を一人で帰すのは危険すぎる。じゃあこうするか」
−−−
というわけで、私たちは神門の車で私の住むマンション『パライソ間賀』に向かった。
「俺たちは近くの駐車場で一晩明かす。ヤバいと思ったら俺の電話にかけろ。コールされた時点で駆けつける」
マンションに到着し、車から降りた私に神門はそう言った。
「あと、一応これも持っていくか?」
そう言って神門は小さめのクラッチバッグを取り出した。持ってみるとずっしりと重い。
「なにこれ?」
「拳銃」
「持って行けるか!」
私がそういうと、神門は爆笑した。どこまで本気なのか分からない。
「じゃあ、明日の朝な」
そう言って神門は車で走り去って行った。
部屋に戻った私は、ボストンバッグに着替えやその他長旅用の持ち物を詰め込んで準備をすませ、お母さんの帰りを待った。
そして7時。お母さんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
「もう夕飯作る?」
「うん……」
お母さんはキッチンに向かい、料理の準備を始めた。
私は深呼吸する。
「お母さん」
「ん? どした?」
「実は、話したいことが……」




