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第14話:希望②

 ★


『他人の考えていることが分かる』

 エアはそんなこともできるのか、と私は驚いていた。確かに頭の中なら嘘のつきようがない。質問されたら、否応なくそのことについて考えてしまう。

「三問目だ。お前の出身はどこだ?」

 神門(ごうど)が尋問を再開する。男は完全に動揺してしまっている。

「『リドス』だって」

 (おみ)が言った。

「リドス?」

異世界(むこう)にある国の名前だ。ちょうどこの間賀(まが)と重なってる。かなり広いがな。……四問目だ。渚もリドスにいるのか?」

「『いるはず』だって」

 私は震える。渚がどこにいるのか。それが分かった。

「どうして!? あんたたちはどうして渚を拐ったの!? どうして私を襲ったの!?」

 私は、思わず叫んでいた。

「……『わからない』ってさ」

「え……?」

「『俺はただ命令されただけで、拉致された後お前がどうなるかは聞かされていない』だって」

「まあ、そうだろうな」

 神門が言った。

「エアを使って良からぬことを人にさせる時は、やることだけを伝えて、情報を極力与えない。(こいつ)みてーに頭ん中を見れる能力者なんざザラにいるからな。仮に失敗してもこっちの情報を相手に掴ませないようにするためだ」

 言われてみれば確かにそうだ。エアがあることを前提にするならそうなるだろう。

「ま、それはあくまで同じ世界での話だな。『目的』は知らなくても、『誰に』やれって言われたかは知ってるだろうぜ」

 私はハッとする。

「『湊を拐えと、お前に命令した奴の名前は?』」

「『バルダンク』」

 臣が答える。


 −−−


『バルダンク』

 その人物が、渚を異世界へ連れ去り、私も拐おうとした。そういうことらしい。

「……と、言うわけだ。コイツがいれば、渚を拉致った奴らのとこまで()()()()くれるってこった」

 神門は再び男に向かって手をかざした。

「あ、そうだ。お前名前は?」

「『レイリー』だってさ」

「レイリーね。いい名前だな。じゃあレイリーくん、ひとまずお疲れさん」

 すると、昨日と同じように男–––レイリーはその場から消失した。

「湊、さっきの話の通りだ。俺たちはお前の兄貴を探す手伝いをする。レイリーがいりゃすぐ見つかるだろうさ。お前はその駄賃に自分のエアをちょこっと渡すだけでいい。晴れて二人は再会。俺たちは黒エアが手に入る。みんなハッピーだ」

 神門は私に向き直ってそう言った。

「柘榴、お前もそれでいいだろ」

 柘榴はふん、鼻を鳴らしたが文句は言わなかった。同意したらしい。

「改めて言う、俺たちと取り引きしてくれ。断言するが、俺たちの協力なしで兄貴を見つけることは不可能だ」

 私は沈黙する。彼らは私の力になると言っている。だが、あからさまに危険だ。

 それに、何もかもが未知な異世界に行くことも、リスクが大きすぎる。

 だが、

 渚がどこにいるのか分かった。そこに行く方法もある。

 ならば、私のすることは一つだ。

「私を、その世界に連れて行って」


 −−−


 私は神門の目を見てそう言った。

 神門はにやりと笑うと、手を差し出した。が、私はそれに応じない。

「安心してくれ、ただの握手だ」

「じゃなくて、さっき素手でフライドチキン食ってたでしょ」

「……」

 行き場を失った手を、神門は気まずそうに引っ込めた。

「……まあとにかく取り引き成立(ディール)だ。俺たちは何があろうとお前を守る。俺もそうだが柘榴(こいつ)も強えからな。信用していいぜ」

 神門に『強い』と言われた柘榴は、なんだか得意げだった。

「そう言うわけだ。柘榴、こっからは社長命令だ。文句言うなよ」

 社長だったんだ。

「ふん、わかったよ……楽しい道中にしようぜ、嬢ちゃん?」

 そう言って柘榴は手を出したが、私はやはり応じない。

「このガキ……」

「おい、仲良くしろとは言わねえが揉めるな」

 神門はそう言ったが、柘榴(この人)のことを好きになれそうにはなかった。

「チッ……」

 柘榴は私たちに背をむけ、事務所の出口に向かった。

「おい柘榴、どこ行くんだ」

「トイレだって。このビル、トイレ共同なんだよね」

 柘榴じゃなくて臣が言った。

「勝手に読んでんじゃねえ!!」

 柘榴はそう怒鳴ると出て行った。


 −−−


「エアについて、もっと詳しく聞きたいんだけど」

 私は神門にそう言った。聞いておきたいことは山ほどあった。私たちはソファですっかり冷えたフライドチキンの残りを食べていた。

「なんなりと」

「さっき言ってた、エアを『自覚する』って言うのはどういう意味なの?」

「ああ、それはだな」

 神門はまたタバコに火をつけ話し始めた。

「エアは誰しも持っているが、そのままだと自分のエアを認識できない。自分のエアを認識しないと『魔法』は使えねえ。が、大抵の人間は自分の中にエアなんてものがあることすら知らず一生を終える」

 私は頷く。私も自分の体内にそんな物質があるなんて昨日まで知らなかった。

「じゃあどうやって己のエアを自覚するのか? その方法は簡単。『他人にエアを流し込んでもらう』だけだ」

「流し込む……?」

「そうだ。エアってのはどんな物質、物体にもスポンジに水を染み込ませるように『浸透』させることができる。『魔法』は対象にエアを浸透させることで起こすんだ」

 さらっと神門は言うが、そんなとんでもない物質が自分の中に存在したとは驚きを禁じ得ない。

「そして、他人に対して一定量のエアを流し込む、つまり浸透させると、流し込まれた相手は自分の体に流れるエアを認識できるようになる」

「……でも、私は流し込まれてないけど……」

 ローブの男–––レイリーは私の頭を水で包んだ。おそらく気絶させるつもりだったのだろう。神門の説明からすると、あの水にはレイリーのエアが浸透させてあったのだろうが、彼は私自身にはエアを流し込んでないはずだ。

 にも関わらず、私は黒エアに目覚めた。

「それはだな……」

 神門は煙を吐き出す。

「俺にも分からん」

「は?」

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