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第12話:緊張②

 ★


 何を言ってるんだ? と私は思った。

「『黒エア』って、私のエアのこと?」

「そうだ。お前は知らないだろうが黒いエアってのは俺たちみたいなヤクザの間では莫大な価値を持つ。のどから手が出るほど欲しいんだ」

 さっきから神門(ごうど)たちが口にする『黒』とはやはり私のエアのことだったようだ。でも『莫大な価値』があるって、他のエアとどう違うというのだろうか。私がそう尋ねようとしたその時、

「おい神門、マジで言ってんのか?」

 柘榴(ざくろ)が怒鳴った。

「あたしらでこのガキを()()()しろってのかよ。『界裂(ポータル)』の場所だけ教えて、黒エアぶんどればいい話だろ」

「いいか。湊はまだエアを『自覚した』ばっかで『結晶化』すらできねえんだ。ぶんどりたくてもできねえんだよ。それに、湊は襲われてんだぞ? また襲われねえ保証はどこにもねえ。『結晶化』の方法を教えながら兄貴を探せば一石二鳥だろ?」

「そいつらが異世界(むこう)の連中だってなんでわかるんだよ!」

異世界(むこう)の言葉を喋ってた。それにこの辺はほとんど『あの人』の息がかかってる。カタギを拉致るようなアホな真似する奴がいると思うか?」

 私の返答を聞いてもいないのに、神門と柘榴は行く行かないで揉めているようだった。わからない単語がいくつか飛び交っていた。エアを『自覚する』とはどういう意味なのだろうか。

 だが、実際問題神門たちの手を借りなければ、私はその『界裂(ポータル)』までたどり着くことすらできない……

 しかし、報酬が金などではなく(私の)エアとはどういうことだろう。それほどまでに価値のあるものなのか。

「ああわかったよ。兄貴が向こうにさらわれました。……で? それで向こうに行ってなにができる? 砂漠に落ちた鼻クソ探すようなもんだぞ」

 その言葉に、私は尖った氷で刺されたような気分になった。そうだ。その世界に行けたとして、そこでどうやって渚を探せばいい?

「万が一見つかったとして、すでに死体になってたらどうすんだ?」

「……ッ!」

 怒りが爆ぜた。私は柘榴を睨む。テーブルで隔たれてなければ、掴みかかっていたかもしれない。

「あ? なんだよお嬢ちゃん。あたしは可能性の話をしてるだけだぜ。十分ありえる可能性をな」

「柘榴、少し黙ってろ」

 神門がそう言った瞬間、私の全身にぞくり、と鳥肌が立った。

「あたしがなんか間違ったこと言ってるか? 神門。死んでるかどうかはともかく、どうやって探すんだよ。何年異世界(むこう)にいるつもりだ?」

 神門はふう、と息を吐くと立ち上がった。

(おみ)

 臣も神門に続いて立ち上がる。二人は部屋の真ん中に立った。

 私は二人が何をしようとしてるのかわからない。柘榴もわかっていないようだ。

 すると、神門はおもむろに右手を床に向けた。そのポーズに、私は見覚えがあった。

 次の瞬間、何もなかったその手の先の空間に、()()()()一人の男が現れた。

 包帯が巻かれた腕は後ろ手で拘束され、猿轡(さるぐつわ)を噛まされている。目には布を巻かれ、耳には耳栓がつけられていた。完全に見る・言う・聞くを絶たれている。

 今はそれを着ていないが、間違いなく昨夜公園で私を襲った、あのローブの男だった。

「居場所がわかんねえなら、知ってるやつに案内を頼めばいいだろ?」


 −−−


「な、なんだよこいつ!」

 柘榴が言った。

「さっき言ったろ? 湊を襲ったクソ野郎だ」

 目の前で起きた出来事に私は驚いたが、そういえば昨日も突然この男の腕にナイフが現れていた。あれも、そしてこれも神門のエアの能力による現象か。しかし、一体どんな能力なのだろう。

「そして、渚を(さら)った奴のお仲間でもある」

「えっ!?」

 私は思わず声を上げてしまった。

「なに驚いてんだ? 兄妹が二人そろってたまたま異世界のやつに襲われるなんて、そんな偶然起こるわけねえだろ。最初から、お前ら兄妹2人が狙いだったわけだ。繋がってて当然。あるいは、こいつが渚を拉致した張本人かもな」

 どくん、と私の心臓が高鳴った。こいつが、渚を拐った『犯人』……?

 最初から、私たちに狙いをつけていた……?

「ど、どうして……」

「それを今から聞こうってわけだ。柘榴、これなら文句ねえだろ?」

「……」

 柘榴もさすがに黙るしかないようだった。

「よし、じゃあ『尋問』を始めんぞ」

 神門はそういうと、男の耳栓を取った。男は突然音が聞こえたことに動揺したのか、体を揺すった。

 神門は耳栓の代わりに、なにか補聴器のような機械を男の耳に取り付けた。

「それは……?」

「これは『翻訳機』だ。これを付けりゃこいつは俺たちの言葉が異世界(こいつら)の言葉に聞こえるってわけだ。逆に俺たちがつければ、異世界(こいつ)の言葉がこっちの言葉(日本語)になる」

「そんなものが……」

「エアで作った道具だ」

「エアで?」

「ああ。ほれ、臣」

 神門はそう言って臣に翻訳機を投げた。受け取った臣は自分の右耳にそれを取り付けた。

 一対しかないのだろうか。だとしてもどうして臣だけなのか?

「おい、聞こえてるな? じゃあまず一問目。お前は(こいつ)の兄貴を拐ったか?」

 男は動かない。聞こえてないわけじゃなく、聞こえた上で動きを止めたようだ。それはそうだろう。素直に答えるはずがない。第一猿轡(さるぐつわ)を噛まされているのだから喋れるわけがない。

 しかし。

「『俺は拐ってない』ってさ」

 臣が、そう言った。その言葉を聞いた男は激しく動揺した。

「よし、二問目。お前は湊の兄貴を拐った奴の仲間だな?」

 やはり男は答えない。なんの動きもない。だが、

「『そうだ』だって」

 臣はまたもそう言った。

「やっぱりそうか」

「ど、どういうこと?」

「僕だよ」

 臣が答える。

「僕は『相手の考えてることが分かる』。僕の前じゃ、嘘も黙秘も無駄だよ」

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