番外編2:現世の非日常①
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間賀市北区の大型複合商業施設『WONDA』の客は家族連れが目立つ。もうほとんどの学校が夏休みに入ったのだろう、子供の数が増え、普段よりも人の数が圧倒的に多かった。
サービスカウンターに頼むと、渚の情報紙をモール内の掲示板に貼ってくれた。
私はフードコートのカフェでアイスコーヒーをテイクアウトして、ベンチ席に座ってそれを飲みながら目抜き通りを行き交う人々を眺めていた。渚がいなくなってからというもの、人混みを見ると、ついその中に渚を探す癖がついた。
7月18日。私は渚を探しに、ここを訪れていた。
なぜ、私はワンダに来たのだろう、と考えていた。単純にまだ探していない場所で、人が多いから、というのもあるのだが。
子供のころ、よく家族でここに来ていた。今は家族で来ることはないが、ワンダは間賀市では一番大きい商業施設なので、友達とは何度も来たことがある。
私はふと、昔の記憶が甦った。私たちがまだ小学校に上がる少し前のころだったような気がする。
その時も、私たちは家族4人でこのワンダに訪れていた。そして、私は家族とはぐれて、迷子になってしまったんだった。
好奇心の赴くままにふらふらと歩いているといつのまにかお母さんがいない。子供にとってそれはまさしく絶望と言っていいだろう。誰を頼っていいのか分からず、どこに行ったらいいのか分からず、私は心細くて仕方なかった。
きっと泣いてしまっただろう。不意に肩を叩かれなければ。
「みつけた!」
と渚は言った。私は驚いて「さがしにきてくれたの?」と言った。渚はにっと笑って、
「あたりまえだろ! ぼくはヒーローなんだから!」と言った。
当時の渚はやたら「ヒーロー」に憧れていて(ひょっとしたら今もそうかもしれないが)、なにかにつけては私を守ると豪語していた。
多分、当時渚が読んでいた児童漫画の主人公に影響されたのだろう。彼は自分の妹を守るために日夜敵と戦っていた。その姿と自分を重ねていたのだと今なら思う。
私の腕にとまった蚊を潰して「みなとはぼくがまもる!」とかドヤ顔で言ったりしていたのを当時の私は鬱陶しく思っていたが、その時は、絶望の最中に現れた渚に、私は心の底から安心したのだった。……まあ、そこまでは良かったのだが。
「で、おかあさんはどこ?」
「……おかあさん?」
そう、渚は一人で私を探していたのだ。事態は何も解決していなかった。迷子が一人から二人になっただけだった。
結果、渚は泣いた。引くぐらい大泣きした。その姿に私は逆に冷静になり、ギャン泣きしている渚の手を引いてお母さんとお父さんを探した。モールのスタッフの人に見つけられ、私たちは無事両親に再会できた。
帰りの車の中、渚は泣き疲れて眠っていた。次の日そのことについて茶化したらケンカになった。
渚は昔からカッコつけようとして空回りしてばっかりだったな。やっぱり今と何も変わってない。そう思うと、私は少し笑った。
少し笑って、そのあとは。
「何が守るだよ……探させやがって……」
私は呟く。昼時のモールは、ますます騒がしくなっていく。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
この作品はカクヨムでも連載しています。なろうでの次回更新は6月を予定していますが、もしもっと早く読みたいと言っていただける方がいればこちらにも上げようと思います。(2020/05/05)




