26.名誉魔導士とその保護者の危機
コミックス2巻が2/29に発売されております。
是非よろしくお願いいたします。
「本当ですか?」
「それはいったいどういった方法で?」
真っ先に食いついたのはイース、それに続いたのはナーシルだ。ナーシルの方は十中八九、ジンが提案する魔力的なモノに対する興味からだろう。その証拠に彼の目の輝きが違う。できればあの状態のナーシルに依織は近づきたくない。
そんなワクワク顔のナーシルが厄介である、と知らないジンは思い切り芝居がかった仕草で依織の方を指さした。
「そのコ、スライムだよネ?」
「え、シロですか?」
正確には、依織ではなく、依織に抱きしめられたままのシロを。
シロがスライムであることは疑いようもない事実である。依織がブンブンと首を縦に振って肯定を示すと、シロも連動したようにプルンプルンと揺れた。
その揺れとともに何らかの言葉を伝えたのか、ジンが満足そうに頷いた。
「うんうん。ソルトスライムなわけネ。そのコなら、全部の魔力吸える、カモ?」
「えぇっ!?」
(シロって癒しの力だけじゃなく、そんな特殊能力が!?)
一応訂正しておくが、シロに癒しを感じているのは依織のみである。
シロを含めたソルトスライムの能力は塩を食べることと分裂できること。そのくらいだと思われていたのだが、ここにきて実は別の能力があったのだろうか。
「塩だけではなく、スライムは魔力も吸い取れる、ということでしょうか?」
今までの会話から推察したらしいエーヴァが質問をする。
「吸い取れるっていうカ……スライムって魔力で構成されてるからネ。構成物が多少増えても問題ないデショ。といっても普通のスライムなら無理だろうケド」
「シロ、普通じゃないの!?」
驚いて腕の中のシロに問いかけてしまう。
シロはプルプルと震えるものの、当然ながら言葉は返ってこない。ただ、なんとなく「どう説明したものかなぁ」という空気は感じた。
(私だって今までの人生それなりに色々あった上に二周目なんだもん。シロだってシロのスライム生に色々あったのかも……)
色々どころか、実は異世界人のお守りのために神様が能力の底上げをしていたりする。詳しくは単行本一巻にて意外な事実とともに語られているとかいないとか(ダイレクトマーケティング)
ともかく、シロも実は中々にチートなスライムなのだった。
「ボクとかと多少お話できるくらいだしネ。だから、彼なら上手くすれば魔力全部吸収できるんじゃナイ?」
「で、でも危なくないですか?」
なんとなくジンの口ぶりから、不確定な要素を感じる。
陰キャな依織のひがみかもしれないが、陽キャ特有の「まぁやってみればいけるんじゃない」という行き当たりばったり感というか。
それが、どうしてもひっかかってしまい、恐る恐る聞いてみる。イケメンの顔面は大変恐ろしいが、シロの安全には代えられない。
案の定、ジンはさらっと最悪の展開を口にした。
「んー……許容量超えたら弾けるカモ?」
「だ、だめ!!!」
ぎゅう、と腕の中のシロをきつく抱きしめる。ジンの言葉をきいたシロからも慌てた様子が伝わってきた。
多少マイルドな言い回しではあるが、要するにジンが言っているのはシロが死んでしまう危険性があるということだ。
それだけは絶対に無理だ。考えるだけで恐ろしい。癒しを失って、どうやってイケメン集団の中で生きていけるというのか。
「そ、それくらい、なら、わ、わたしが……」
あまりに怖すぎる未来に依織は声を震わせながら一大決心をする。シロがいなくなるくらいであれば苦手な魔力操作の修行であろうとも、はたまたサンドワームの大群であろうとも。
(こ、こわい、けど。でも、シロがいなくなっちゃうくらいなら私が頑張る!)
そんな依織の一大決心をよそに、ナーシルが冷静に突っ込んでくる。
「イオリさんがどうにか、ですか? 一朝一夕で魔力の扱いが上手くなるとはあまり思えませんけど……いや、イオリさんだからこそありえる、のかなぁ?」
「魔力操作は日々の鍛錬で徐々に鍛えていくもの、だとは思うが……」
依織のちょっと不可思議な魔法を目の当たりにしているエーヴァも、自分の物差しで測っていいのか迷っているらしい。
「それよりはその魔力を使って地中から出てくる魔物退治の方がマシではないのか? 彼女一人でやらせるわけでもあるまい」
「お言葉ですがエーヴァ様。今我が国の国力はあまり……できれば軍の遠征などは避けたい状況にあります」
「なんと……」
依織が知っているだけでもオアシスの魔女とか言う眉唾ものに頼るほどの水不足に大きな砂嵐の被害、マンティコア襲来に、確か他国の使者がくるような話もあったように思う。大量の魔物退治のための遠征費。依織にはいくらになるか想像もつかなかった。
「だとしても――」
できるか自信はないけれど、どうにかして魔力操作を身に着けるしか。
依織の思考がそちらに傾きはじめたとき、イースの落ち着いた声が響いた。
「国の大事を一個人に背負わせるなどできるはずがない。例え僅かであっても危険が伴う可能性があるなら尚更だ」
「イースさん……」
驚いて思わず声をあげた依織に微かな頷きで応えたイースは、そのままジンに向き直る。
「ジン殿、どうか我々に知恵を合わせる猶予を与えてもらえないだろうか」
「……『ジン殿』ねェ」
一瞬、ジンが大きく目を見開いた気がする。それは本当に一瞬のことで、もしかしたら見間違いではないかと思う程だ。
瞬きの間の後に、ジンは相変わらずのオーバーアクションで肩を竦めた。
「なんだかんだ小石が大騒ぎしたところで、大岩は不動ってヤツ? これだからニンゲンってのは……。でもまぁリケンとかハバツとかってばっかりでもないみたいだネ。イイヨ。少しくらいなんとかしてあげル」
「それは真ですか!?」
「本当に!?」
「できるんですか!?」
「ああもうホントにうるさいナァ」
ワッと盛り上がった一同が一瞬で静まり返る
「元々僕と君達じゃ時間の流れが違うからネ。とは言えそう悠長なこともしてらんないし……ハイ、あげル」
「へっ? ひゃっ!?」
言いしなジンは手近な石を依織に向かって投げて寄越した。
ゆっくりと放物線を描いたそれは確かにただの石だったはずが、依織の掌に収まったときには様々な色にきらめく不思議な物体となっていた。ついでに言うなら落下速度にも手を加えたらしく、反射神経にかなり不安のある依織でも無事受け取ることができたのだった。
(わ、キレイ……石に魔力を込めた、のかな? 私も風除けの石創るときにやったけど、あれ難しいんだよね。なのに、あんな簡単に……。これが魔力操作の差ってやつなんだろうか)
「方針決まったらそれに魔力込めて合図するとイイヨ。なるべく早くネ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
あまりの見事さについ見とれてしまった依織だったが、状況を思い出して慌てて礼を言うと。
「じゃ時間もないし外まで送ってあげル。ってか、デテケ」
「え…?」
「なにっ!?」
「うわっ!」
その場にいた全員が短い悲鳴をあげ終わると、そこは鉱山の外だった。
遠くに麓の街が見える景色を、一行はしばらくの間呆然と眺めるのだった。
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