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23.名誉魔導士と修羅場の真ん中

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更新は毎週金曜20時予定です~。


 ジンの堅い結界を抜けるとド修羅場であった。

 なんて名作パロディをして気を紛らわせたいくらいには、そこはバトルフィールドだった。ドームでも超エキサイティンでもない。

 ジン入りゴーレムに抱えられて、依織は少し離れた場所からアワアワと事態を見ている。


「とりあえず様子を見てみようカ」


 というジンの提案に頷いた結果、担ぎあげられてしまった。中身がイケメンという恐怖はあるものの、今目の前にあるのはゴツゴツとした岩だ。なんとか悲鳴も奇声もあげずにすんだ。

 先程ゴーレムに先導されて辿り着いた見晴らしの良い広場のような場所。そこにはここまで一緒に登ってきた面々と、もう一人、見覚えのない人がいた。

 恐らく彼が、このド修羅場を巻き起こした中心人物なのだろう。

 この国生まれの人達と同じように褐色の肌であることに変わりはない。だが、髪色が少し違う。この国の人は濃い色の髪の人が多いのだが、彼は薄いグレーだ。もしかしたら異国の血が混じっているのかもしれないと思わせる。その髪を後ろで一つに束ねた彼は、四方八方から詰め寄られている感じだ。


「今まで何処で何をしていたのか、まずは吐いてもらおうか」


 低くて渋いイケメンボイスを更に低くすると、大変凄味が増すらしい。イースが地響きのような声でそう問いかけているかと思えば、


「いえ、それよりもまず何故こんなところにいるのかを問いただすべきでしょう!」


 ヴァータがいかにも血気盛んな若者、といった雰囲気で拳を握って声を張り上げている。


「エーヴァ様に向かって問いただすとはなんだ!」


 ヴァータに負けずに声を張り上げているのはナウマだ。この声の張り上げ合戦で、依織はすっかり委縮してしまっている。腕の中に癒しの塊であるシロがいなければどうなっていたかわからない。

 にも関わらず、ゴーレムに入っているジンはとんでもないことを言い出した。


「まぁとりあえず真ん中に登場してみようカ。びっくりして黙るかもしれないしネ」


「へぁ!? や、やだ……あ、あ……」


 依織の懸命な「やだ」の一言が飛び出す前に、ゴーレムはのっしのっしと広場に姿を現した。


「イオリさん!?」

「ご無事でしたか!」


 同時に聞こえてきたのは誰の声だったか。複数重なりすぎていて判別がつかない。ただ、ジンの目論見は多少成功したようで、ピリピリとした空気が依織の登場により少しだけ緩和されたような気もする。

 それはそれとして、あまり注目しないでほしいコミュ障心である。


「えと、無事。ありがと……で、あの、えーと……」


 さて、何を言えばいいのやら。

 どうして揉めていたのかと聞くべきかもしれないけれど、揉め事に関して自分が何かの役に立つとは思えない。

 実はこのゴーレムはジンで、と説明するのは有意義だと思う。けれど、何がどうしてそうなったかを説明するのは難しい。少なくとも説明の準備に一時間くらいは欲しいところだ。言葉選びと音読の練習で最低それくらいの時間が必要だろう。


「ゴーレムが人質をとっているだと!? イース、何を落ち着き払っているのだ!」


 何から話すべきかと依織が悩んでいたところ、渦中の人物が杖をかまえてイースに文句を言いだした。

 確かにこれまでの成り行きを知らない者には、依織が人質にとられているように見えるかもしれない。

 だが、ここまで同行してきた一行はジンの「一人借りるよ~。危害は加えないよ~」という言葉を聞いているわけだし、いつの間にか現れた、しかもどうやら揉めていたらしい相手につられて戦闘モードに入るなんてそんなことは――。


「っ! 総員、戦闘態勢。イオリ殿の身の安全を最優先だ!」


 イースの掛け声と共に全員が戦闘モードに入る。何故だ。

 彼らの立場になって考えれば、王族のお気に入りかつ国にとっても重要人物である依織が攫われたということになる。思わず気色ばむのも仕方のないことなのだが、未だに自分の重要度を計りかねている依織にはその辺りのことが理解できなかった。

 ただただどう説明すればいいのかと思わず頭を抱えたくなる。頭の代わりにシロを改めて抱きしめなおすが、具体案は出てこない。

 事態は更にややこしくなってしまった。ジンも同じくそう思ったようでゴーレム体の中から呆れかえったような声を出した。


「……なんでニンゲンってこんな戦闘好きなノ?」


「わ、わかんない」


「一番戦闘意欲がないキミがマンティコア倒したっていうのも不思議な話だよネェ。ニンゲンってホントわかんないヨ」


 依織は紛れもなく人間ではあるが、この言葉ばかりは同意だ。人間は、他人は本当によくわからない。

 わからないからこそ言葉を尽くすべきなのだろうが、依織はそれこそが苦手なのだ。


「ネェ。ここでボクが何かしても警戒されるばっかりだし、キミがなんとかしてヨ」


「え、えぇ……?」


 ジンの言い分は尤もだ。だが、依織とて名案があるわけではない。少なくとも皆を説得するなんてことはできる気がしなかった。

 なので、ここは実力行使しかない。


「シロ、塩出して貰っていい?」


 腕の中のシロに話しかけると、彼は任せろとばかりに飛び出した。抱きかかえていた間にだいぶ回復していたらしい。

 そして、一面に勢いよく塩をまき散らす。その塩を依織はいつものようにイメージをして固めていった。


「ちょ、イオリさん!? なんで壁創るんですか!?」


 ナーシルが焦った声をあげるが、お構いなしに依織は彼らと自分を隔てる壁を創った。空気穴も勿論完備である。

 広場のような場所の中心に、円柱型の壁。そしてその中心にジン入りゴーレムと依織とシロがいる、といった具合である。


「だって、武器、こわい」


 忘れられがちだが、依織は一般人である。周囲がなんと言おうとも。

 砂漠で自給自足をしていた経験があっても、ならず者をぶっ飛ばした過去があっても、よくわからない名誉称号を貰ったとしても、一般人に変わりはないのだ。ナーシル達が依織を傷つけることはないだろうとわかってはいても、武器を向けられたら恐怖の一つや二つ感じる。


「僕達だって貴方に魔法あてるとか、後が怖いからしませんって!!」


「後が、というか、あの方がというか……」


 ごにょごにょとザリが言っているが、今はとにかく場を落ち着かせることが優先だ。


「えと、あの、お、おちつこ? これ、敵じゃない、から」


 ゴーレムを指さして言う。考えがまとまっていない状況で言葉を発するのは依織にとって不可能に近い。それでも人間やらなければならないときがあるわけで。


(ナウマと見知らぬ人はわからないけど、他のみんなは私が上手く喋れなくても怒らないはず、だし。が、がんばろ……)


「あの、あのね、このゴーレムなんだけど……」


 ゴーレムがこの地に眠っていたジンであること、ジンの目的はマンティコア退治だったこと、けれど、そのマンティコアを依織というかトリさんが退治してしまって何か不都合があったらしいこと。

 話すべきことがたくさんあるが、それらをどうにか組み立てて順を追って話そうと頑張る。本当であればひとつずつ書いて整理する時間が欲しいところなのだが。

 とりあえず、意を決してまずゴーレムの説明からしようとしたところで、それを遮る声があがった。


「なんなのだ、この魔法は!?」


「ひぇっ!?」


 塩の壁を物ともしないひと際大きな声に、依織は思わず縮みあがる。

 声の主は見知らぬ人。確かにいきなり目の前にワケのわからない壁が生えてきたらそりゃあちょっとくらいはビックリするかもしれないけれど、そんな風に怒鳴らなくても良いではないか。

 だが同時に良い考えが浮かんだ。

 意味がわからない、とひたすら混乱している人達をよそに依織はナーシルに壁越しに声をかける。


「あの、ナーシル。魔法の説明、お願いしていい?」


「へっ!? 僕ですか!?」


「う、うん。あの、その間に、話すこととか、まとめたい、から……」


「あ、あ~~~……」


 依織の口下手さ加減を知っているナーシルは壁の向こうで苦渋の声をあげた。


「……僕が、エーヴァ様に説明、ですか? ううう、いや、でもその方が効率はいい、かぁ……」


 大変気が進まなさそうなナーシルは少し可哀そうだが、これで依織は説明の時間が稼げることになった。


【お願い】


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