22.名誉魔導士と古の魔物
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マンティコア。
人面をした人喰いの怪物。
それを知っているか、と問われて依織は内心ダラダラと冷や汗を流した。
どうしてかというと、ジンの意図がわからなかったから。
(普通に知ってるって言っていいのかな……。あのマンティコアこのジンのペットだったとか? え、ペット倒しちゃったらジン怒らない? 建国のおとぎ話に出てくるような魔物って怒らせちゃったらまずいんじゃ……あれ、ジンって魔物だっけ? 精霊じゃないっけ?)
慣れていない相手と喋っている緊張もあり、依織の思考はどんどん明後日の方向へと飛躍していく。
常人であれば聞かれた質問に答えれば良いだけなのだが、コミュ障(と書いてイオリとルビ)という生き物は考えすぎた挙げ句空回ってしまうのである。
「ふむ、名称だけだとわからないかナ? 顔はニンゲンなんだけど、体が動物の寄せ集めみたいな化物なんだけどサ」
「あ、あのえと……た、たおしました!!」
散々迷った末に、依織は素直に白状することに決めた。何らかのミスをした場合、嘘をついたり誤魔化したり隠したりすると碌なことにならないからだ。それがわかっていても、上手く言葉にできなくてあとで怒られることが多かった気もするが。
前世のあれこれを思い出し気分がズーンと重くなった依織をよそに、ジンは一瞬フリーズしていた。
「……へ?」
少しの間のあと、ジンが入ったゴーレムはやっと間抜けな声をあげた。
「倒しタ……ニンゲンが?」
「あ、えと正確には私と、シロと、トリさんが。あ、トリさんていうのはガルーダで……」
「はぁ!? ソルトスライムだけならともかく、ガルーダ使役してるワケ?」
ゴーレムがバタバタと大きく手を動かす。このジンはなかなか忙しない性格の持ち主のようだ。もしくはボディランゲージが大きいのか。
(あ、ゴーレムって魔力で動かすとか言ってたような……? もしかして魔力の暴走を表してたり?)
ジンはなんだか動揺しているようだし、感情に合わせて魔力が暴れているのだとするとしっくりくる。そのくらいゴーレムはジタバタしていた。
「使役……じゃなく、友達?」
「え、ナニ言ってんノ、このニンゲン。あいつくらい意味わかんなイ……ん?」
突然ゴーレムが動きを止めた。暴れられるのも怖いが、いきなり静かになられてもそれはそれで不気味である。
思わず息をのむ依織。
すると――。
「君、もしかしてカミサマって名乗る輩と関わりあル? 転生させられた、とかサ!」
グリンッと、どこかもげるんじゃないかという勢いでゴーレムは振り向いてきた。
あまりの勢いに依織はつるりと口を滑らせてしまう。
「えっえっ!? なんでそれを!?」
「あーーーやっぱり。道理で言ってることオカシイと思っタ。ていうか、よく見たらこの辺りのニンゲンと毛並み違うネ。なるほどなるほド」
ジン入りのゴーレムは一人うんうんと納得したように頷いている。彼の中では何かつじつまがあったようだ。だが、一人で納得されても依織には何一つ伝わらない。
「あ、あの。一体どういう……?」
「あ~~~。カミサマ知ってるならこの辺りは教えちゃってもいいカ。ボクはネ、カミサマとやらに転生させられた男にこの辺りのことを任されたのサ。ふるーい約束なんだけどネェ」
「へっ!? えっ!?」
ジンの爆弾発言に、今度は依織が驚く番だった。
「カミサマとやら、この世界の仕組みとか説明してタ? その様子だとしてないか、されてても覚えてないのかもネ。まぁ、ボクも全てを知ってるわけじゃないんだケド……」
ジン曰く、この世界には定期的に異世界人が召喚されるらしい。何故かというと、外の風を迎え入れないと、世界に淀みが溜まってしまうのだとか。
溜まった淀みはダンジョンと呼ばれる魔境を創り出したり、強力な魔物を生み出して人間に災いをもたらしてしまうらしい。
遥か昔、そうして召喚された異世界人とジンは約束を交わしたという。
『この地にまた強力な魔物が現れたら、どうか倒してやってほしい。そのときにはもう私はいないだろうから』
それが後に初代国王となる異世界人の、唯一の願いだった。
「それでまぁ聞き入れてやったってワケ。ずるいよネ。寿命が短いのを逆手にとってサァ」
(なんか、文句タラタラっぽい、けど……ものすごい話を聞いてしまった、ような)
この国の成り立ちはサラリとイザーク達に聞いていたけれど、まさかこんな秘密があったとは。
「え、えと……それ、どこまで、秘密?」
「別に秘密にすべきとは思ってはないヨ。あぁ、でも、国王がもとはと言えば異世界人っていうのは、王様的にはイヤなんじゃナイ? アイツもそんなことをクヨクヨクヨクヨ悩んでいたヨ。アイツがボクを説得したからこそ、マンティコアなんてバケモノが退治できたってのにネェ」
ジンは昔を懐かしむように言葉を続けている。
「でもそッカ。マンティコア君タチが倒しちゃったのカ……」
「ゴ、ゴメンナサイ!」
彼は暫く眠っていたと言っていた。恐らく、初代国王との約束を果たすために起きてきたのだろう。なのに、部外者がその約束をパァにしたとなれば怒っても無理はない。
人とは違う理を持っていそうなジンが、わざわざ人間とした約束。なんだか凄い重みがありそうだ。
だが、ジンはそんな依織の謝罪を笑って流した。
「あぁ、それはいいんだ。約束に固執してるつもりはないしネ。獲物ってのは早いもの勝ちだしサ」
この言葉が本心かどうか、依織には確認する術がない。ただ、少し寂しさを滲ませている声音に聞こえるのは気のせいだろうか。
ただ、不謹慎にも思ってしまうのは、彼が今ゴーレムの中に入ってくれていて良かったということだ。
(あのデカイ野性的イケメンが少し哀愁を帯びた表情なんて浮かべでもしたら絶対にやばい。ギャップで殺されてしまう。イケメン、こわい)
どこまでも真剣に、イケメンの威力に脅える依織であった。
「ただ……うーん、そうなるとちょっと困ったことが起きちゃうネェ」
「えっ!?」
「ほら、淀みのエネルギーって結構スゴくってサ。だから、マンティコアを倒すためにボクも結構頑張ったり……っと?」
饒舌に身振り手振りを交えて喋っていたジン入りゴーレムがふと動きを止める。ふわん、と何かが四方に広がったような感覚があった。
(……今のがジンの魔力なのかな? 人外の方が感知しやすいとか、あるのかも? だとしたら追跡魔法も上手くできる? あ、でももうゴーレム操っている大元はわかったからいらないのか)
人とそれ以外とでは魔力に違いがあるのかもしれない。そういった発見自体は喜ばしいものではあるが、残念なことにそれを生かす場は暫くなさそうだ。興味深いとは思うけれど、緊急性がなくなった今その研究はきっと二の次三の次だ。
何せ今依織の手にはビーズがあるのだから。
ゴーレムの件は操っている主が見つかったことだし、解決も近いだろう。となれば、あとはビーズ細工に没頭できるはずだ、と希望的観測を膨らませていると、ジンが呆れたような口調で言葉を発した。
「なんだか上が物騒だネ? お連れさん喧嘩してるっぽいカモ? ニンゲンってほんっとーに喧嘩っぱやいよね」
「えええええ!?」
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