20.名誉魔導士と魔力の正体
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ゴーレムに乗せてもらって移動すること数分。
これが、なんというか、意外と快適だった。まず、馬車に比べて揺れが少ない。ラクダや馬の一人乗りと比べても、お尻や内ももの筋肉を使う必要がない。総合すると乗り心地が大変良いのだ。
懸念があるとすれば、ラクダや馬よりも目線が高くなるため、高所恐怖症の人はダメかもしれない。依織はその点も問題なかった。
(……ゴーレムって私にも創れるのかな? エーヴァって人なら創れそうみたいな話もしてたけど……。歩行補助っていうか、乗り物として欲しい。ラクダとか馬の相乗りって気が引けるし、引いて貰ってもあちこち筋肉痛になるんだもの)
俄然興味がわいてきた依織はじっくりとゴーレムを観察する。
ここら一帯の鉱山から掘られる岩で創られたらしいゴーレムは、ところどころに宝石のような綺麗な石が混じっているのが見てとれた。そこから考えるに、材質はなんでもいいのかもしれない。
問題は恐らく魔力だ。
依織は未だに魔力を見ることも感じることもできない。
正確に言えば、自分の魔力はなんとなくわかる、程度だ。現代日本で生きていた頃には感じたことがない感覚。これが依織自身の魔力なのだと思う。
ただ、それが他人のものとなると、全く感じ取れなくなる。
(このゴーレムの大元がこのあたりの岩だと仮定して、岩とこのゴーレムの差を比べて何か感じ取れないかなぁ……。うーんうーん、違うような気もするし、気のせいな気もするし、わからないな……)
自分で足を動かさなくて良い分、考え事がとてもはかどる。仮定や予想はできるけれど、手を動かすことはできないのでまだまだ案とも言えない状態だ。思いついたことをメモしたい衝動に駆られるが、残念なことに今は持ち合わせていない。
液体であるインクは持ち運びにはとても不便なのだ。このあたりもいつか改善したいところである。
とりとめもなく考えを巡らせているうちに、ゴーレムが停止した。
外の景色が見える、開けた場所にたどり着いたようだ。ゴーレムがそっと地面に降ろしてくれたので、とりあえずシロを抱える。シロも抵抗せずに依織に持ち上げられた。
やはり、この感触は至高である。
そうして、シロとともに辺りを見回すと、崖下に町を発見した。
「わぁ……高い……!」
「イオリ殿、落ちないように気を付けて」
思わず身を乗り出しそうな依織をイースが制止する。いくらドンくさい依織でも流石に崖から落ちたりはしないとは思う。まぁ念には念をいれただけだろう。そうに違いない。そこまでドジっ子と思われているわけではないはずだ。……だったらいいなぁ。
「あれはトナンの町ですね。大分登ったことになります……そりゃ疲れるわけですよ」
ザリが苦笑気味に話している。やはり武人であるザリでもそこそこ疲れる道程だったようだ。
高所なせいか、外から吹く風が若干強めだ。途中からゴーレムに運んでもらった依織にとっては少し肌寒いくらいである。
皆が外の空気を吸ったことで少しスッキリとした表情を見せた頃。
唐突に、奇妙な声が響いた。
「そっかそっカ。人間はこのくらいでもくたびれちゃうノカ。それはすまないことをしたネェ」
少し軽い印象を受ける口調と、それから僅かに感じる独特のイントネーション。ただ、その声がどこから発せられているのかがわからないことが不気味だった。
周囲を見回しても隊のメンバー以外の人影は見当たらない。
「っ!? 何者だ!?」
依織以外の全員が、各々戦闘態勢に入る。剣を抜き、杖を構える面々。
だが、相手の姿は未だに見えない。どこからともなく、声だけが響き渡る。町が見える開けた場所だと言うのに、未だ洞窟の中にいると錯覚するような反響具合だ。
依織でもわかるくらいの異様な気配。もしかしてこれが相手の魔力というモノなのだろうか。チラリとナーシルを見ると、今までに見たことがないような緊張した表情を見せていた。
(あ、なるほど。これが魔力なのかな。ナウマもヴァータも妙に怖い顔してるし。これが凄い魔力ってヤツ? もしそうなら、私今相手の魔力感じ取れてるってことだよね。ちょっと成長できた、かも!)
ひっそりと自分の成長を喜ぶ依織を他所に、周囲の空気は緊迫していく。
とはいえ、相手は未だ目に見えず、声だけが聞こえる状態。闇雲に切りかかったり、魔法をぶちかますわけにもいかないのは依織にもわかった。
この声の主が姿を現せば、全員すぐさま攻撃できるよう身構えている。
(……私だけが言葉通じてるわけじゃないよね? 皆私よりはお話上手なんだから話し合いすればいいのに)
依織にしてみれば、何故皆が臨戦態勢なのかさっぱりわからない。その理由の一つにどこぞの王族が「くれぐれもイオリを危険な目に遭わせるな」と言い含めていることがあるのだが。知らぬは本人ばかりである。
ただ、この不思議な声の主の感性はどうやら依織寄りだったらしい。
戦う気満々のメンツを見て少し呆れたような声を出した。
「人間ってホント好戦的だヨネ。んーー全員相手するのメンドウだからちょっと一人借りるヨ。なに、危害は加えないから他の面々はゆっくり休んでくれたまエ」
その言葉が終わると同時に、依織の足元がポカリと空いた。
「へ?」
「イオリ殿!?」
「魔女様ッ!」
依織の間抜けな声と、焦った周囲の声。
足元に空いた穴は依織を飲み込むと、すぐさま硬く閉ざされてしまった。どのような仕組みかはわからないが、閉じた瞬間から皆の声が全く聞こえない。
落とし穴に落とされたようなものだが、衝撃はなかったのは幸いだった。
恐らく声の主が魔法でなんとかしてくれたのだろう。一瞬だが浮遊感のようなものがあった。
ようするに、声の主はそういうことをできるくらいの魔力の持ち主ということだ。大勢の中から依織だけを正確に移動させた上に、その際の衝撃を完全に無効化する、という二つのことを同時に成立させた。かなり緻密な魔力操作の為せる技である。
正直関わりたくないのだが、何故だか依織が選ばれてしまったらしい。
(……借りるって、私!? なんで!? あ、そうか。一人だけ戦闘態勢とらなかったから!?)
何故どうしてと考えてみても、声だけ聞こえて顔も合わせていない相手の考えることなどわかるわけがない。でもできることなら顔は合わせたくない。コミュ障だもの。
わかるのは、自分が現在ピンチに陥ってしまったということ。
「やぁやぁいらっしゃい人間。ちょっと聞きたいことがあるだけだからくつろいでくれたまエ。質問に答えてくれれば危害なんて加えないからサ」
焦って周囲を見渡す依織に、声がかかる。恐る恐るそちらの方を向く。
(……す、砂嵐?)
視界に声の主が映って一番最初に思ったのはそれだった。
目の前に小さな砂嵐のような渦がある。渦は声に合わせてクルクルとその場を舞った。
「おっと自己紹介とやらをした方がいいんだっケ? いや、姿をきちんと見せた方がいいんだったカ……。ニンゲンの流儀とやらは本当にめんどくさいヨネ。話を聞きたいだけなのにサァ」
やれやれ、とでも言いたげな声を上げると渦はグルグルと大きく膨らんでいく。
そして、人に近い形に成っていった。
依織にとって、最も苦手と言える形を。
(む、むり……)
この時点で既に逃げ出したい衝動に駆られるが時すでに遅し。
「ボクは君タチにはジンと呼ばれる種族だヨ。名前は……まぁ教えなくてもいいカ。この辺りに同族なんていないしネェ。ボクはとある人物との約束を果たしに起きたんだけど、ちょっと話を聞かせてくれなイ?」
話を聞きたいのであれば、まず渦の形に戻ってくれ。
そう言えれば依織のコミュ障という称号は返上である。が、そうならないのが世の常というもの。
コミュ障の明日はどっちだ!?
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