19.名誉魔導士の珍道中
小説・コミックス好評販売中です。是非よろしくお願いいたします!
更新は毎週金曜20時予定です~。
困惑。
その一言に尽きる。
「えーっと……」
魔法に関しては異常なほどに饒舌になるナーシルも、普段から言葉がつっかえつっかえなコミュ障の依織も、口下手なイースも。誰も彼もが困惑して現状を整理している。
「なんというか、やる気が削がれますよね。それが目的でしょうか」
ポソと呟いたのはヴァータだったか。
目の前には、脅威であるはずのストーンゴーレムがいる。が、その様相はとても脅威とは思えないモノになっていた。
具体的には、降参するように両手を挙げている。その上、不格好なスキップまで加わっているものだからなんともはやしまらない。何か音楽を付けて短い動画として投稿サイトにアップしたらワンチャンバズるかもしれないような、そんななんとも言えなさがある。
「あの……シロが共鳴? してるので、なんか、そんな、ええと……悪いゴーレム、じゃない……のかも??」
反抗期を迎えたシロはゴーレムのスキップに合わせてポヨポヨと跳ねている。それはそれで圧倒的可愛さがあるが、問題はそこではない。何故仲良くなっているのか、という点だ。
シロはトリさんという別種族の魔物とも意思疎通ができる。もしかしたら、このゴーレムともなんらかの交信をしており、その結果がこのダンスなのだとしたら。
「イオリ殿、ゴーレムがシロ殿を懐柔してる可能性は……?」
「え、ええと……」
イースに尋ねられるが、正直わからない。
(トリさんならともかく、シロがお願い聞いてくれないとかなかったし……。あ、トリさんも拝み倒すと結局はお願い聞いてくれてるから二人(?)ともそんな……。わ、私よりそっちのゴーレムの方がいいってコト!?)
この世界に転生して以来ずっと一緒にいる存在が、そんなポッと出の魔物に懐柔されるとは思いたくない。なんならシロ愛が強すぎて若干思考が暴走気味である。そんな状態で冷静な判断ができるはずもなかった。
言葉を発しないシロとの生活はコミュ障の依織にとってとても楽だった。が、ここにきて意思の疎通をまともに図ってこなかったことに後悔が湧いてきている。もう少しシロと意思を伝え合っていれば、今ここでこんなにも迷わないのだろうか。
そうこうしている間に凸凹な魔物コンビはひとしきり踊って見せたあと、連れ立って坑道の奥へ進んでいった。
「あ、待ってシロ!」
思わず追いかけそうになる依織を、ザリが制止する。
「お待ちください、罠かもしれません!」
他のメンツも同様に、追いかけるのは反対というような空気を醸し出していた。確かに彼らにしてみれば、調査する対象に誘いこまれているように思えるだろう。警戒するのは当たり前だ。
「で、でも……」
チラリとシロとゴーレムの方を見やれば「来ないの?」とでも言いたげに足を止めていた。こちらを待っている風に見える。ただし、シロに足はないのだが。
「た、たぶん、だいじょうぶ。シロについていきたい、です」
だって、シロがいるから。
ゴーレムのことはわからないけれど、やっぱりずっと一緒にいたシロが依織に危害を加えるとはどうしても思えないのだ。
魔物同士、何か通じ合って何かを伝えたいのかもしれない。
そんな依織のワガママともとれる提案を後押ししたのは、意外な人物だった。
「そこまでおっしゃっているのですから、魔女様に先導をお願いしてはいかがですか?」
「ナウマ!? お前、何を……」
「魔女様は我々には理解できない根拠をお持ちのようですからな。そこまで強いてとおっしゃるのですから、責がどこにあるかは歴然。我々はただついて行けば良いだけでしょう。危険など考えるだに不敬でしょうからね」
言葉に非常にトゲがある、気がする。だが、提案自体は間違っていない。それに依織としても此処で押し問答を続けている方が辛い。何せ問答ができないので。
心配そうにこちらを見るイース達に、大丈夫と言う代わりに頷いて、シロ達のあとを追う。
依織に好意的な者達は、やれやれといったため息を吐きながら。懐疑的な者達は警戒心もあらわに。またとある人はこれから何が起こるのだろうかという期待に目を輝かせながらも付いてきてくれた。
「っ!?」
「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
ゴーレムが進む道はなかなか険しい。そこそこの巨体を上手くねじったりしながら、彼(?)は苦もなく進んでいく。が、それについていく人間、主に体力不足の依織は苦労の連続だ。
足元はどうにか電球魔法で照らすことができる。けれど、よわよわな足腰にはゴツゴツした道は大変厳しい。何度もよろけてはイースやザリに支えられている。
ゴーレムという種族に疲れはないらしく、彼は道中何度も大きな岩を持ち上げて取り除いたりと体力自慢っぷりを見せつけていた。どうやら依織達に気を遣ってくれているらしい。
少なくとも、ゴーレムはこちらが攻撃しなければ黙々と道案内をしてくれている。敵対するような素振りは一度も見せていない。
(人間を襲うことが目的であれば、こんな誘い込むとか回りくどいことしなくていいよね。じゃあ、何か別の目的があるんだ)
その目的はなんだろう、と先程から考えているのだが、いかんせん場所が悪い。考え事に気を取られて足元が疎かになると、すぐ躓いてよろけてしまうのだ。よろけて、倒れないように変にあちこちに力を籠めるせいで余計に体力が削られていくという負のループ。
そもそも男女差がある上に、軍に所属する人達とは地力が違う。
「……もう、むり……」
足元を照らしていた電球魔法が、切れかけのようにチカチカと点滅していたあたりで全員が察していただろう。依織の体力が底を尽きている、と。
ガクリとその場にへたりこんでしまう。
膝はガクガク、足は生まれたての小鹿のよう。明日と言わず今晩から元気な筋肉痛とのお付き合いが始まりそうだ。
ハァハァと荒い息をあげていると、シロが心配そうに依織の元へやってきてくれた。
「しんぱいして、くれてる?」
ぜぇはぁとなんとか呼吸しながらもシロに話しかければ、肯定するように震えてくれた。
「ゴーレムも置いていくような気配はないし、一度休憩をとるか」
「賛成でーす。インドア派な魔法部隊には結構キツイ」
男性陣も息を乱してはいないものの、それなりに疲れてはいるらしい。特に魔法部隊員の方が消耗しているように思えた。
それでも依織ほど疲労困憊している様子はないけれど。
「魔女様も、次は限界を迎える前に一言言ってくださいね?」
「ザリ……」
ザリが優しく声をかけてくれるが、それができたらコミュ障で苦労はしていない。曖昧に笑みを浮かべて流すしかなかった。
「シロ殿、ゴーレムと意思疎通ができるのか?」
小休憩の間、イースがシロとコミュニケーションを図り始める。ゴーレムは警戒されていることを自覚しているのか、一行とは少し離れた場所で体育座りに近い座り方をしていた。なんだか可愛く見えてくる。
問われたシロはぽよんぽよんと跳ねて返事をしていた。
「ねぇねぇシロさん。ゴーレムの目的地って遠いんでしょうか? 正直イオリさんだけじゃなく僕達にも体力の限界ってものがあるんですけど……」
シロへの聴取の結果、シロがゴーレムと意思疎通できること、それからゴーレムに攻撃の意思がないことは確認できた。どうやらこの先に、ゴーレムが案内したい何かというのがあるらしいのだが、流石にそれ以上の情報はわからなかった。
ナーシルの「その目的地は遠いのか」という問いにも明確な答えは返ってこなかった。魔物と人間の感覚には大分差がありそうなので仕方がない。
「え、シロ?」
ようやく依織の足のプルプルが治ってきた頃、シロが依織をどこかへ連れて行きたそうな動作を見せた。
促されるまま付いていくと……。
「ひょあ!? わわわわ」
辿り着いたのはゴーレムの元だ。そして、いきなりゴーレムに掴まれてしまい、思わずおかしな声をあげてしまう。
慌てるのは護衛役であるイースやザリだ。
「貴様っ!」
「あ、あ、イースまってまって。これたぶん、運ぼうとしてくれて、る?」
突然掴まれて驚いたものの、今はゴーレムの肩の上に乗せてもらっているような状況だ。このまま運んでくれるのであればとても楽そうである。ただし、尻の皮膚あたりは犠牲になるかもしれない。
「まぁそれだけ密着してたら万が一があってもイオリさんなら分解できますよね」
大変分解して欲しそうなナーシルが、あまりにも期待に満ちた目でそう言うと、心なしかゴーレムは脅えているように見えた。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
作者のモチベに繋がります
ブックマークも是非よろしくおねがいいたします
漫画はパルシィとpixivコミックにて好評連載中です!
書籍化もしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします