17.名誉魔導士とゴーレム
小説・コミックス好評販売中です。是非よろしくお願いいたします!
更新は毎週金曜20時予定です~。
依織の寝不足がそれなりに解消された明くる日。
一行は改めて鉱山の調査に向かった。メンバーは魔法部隊員からナーシルと、選抜された二名。うち一名はあのつっかかってきたナウマである。依織が電球魔法を見せて以降大人しいので、今後もそのまま何事もないことを祈るばかりだ。もう一人の魔法部隊員はヴァータという人で、ちょっとひょろい感じがする若い隊員である。なお、依織は大勢の中から彼に話しかけられた場合、見分けられる気があまりしない。
それから依織と、依織の護衛としてイースとザリの二名を加えた6名が鉱山調査部隊となった。
坑道は狭い場所も多く、大所帯だとどうしても動きづらくなってしまうためである。
(トンネルなら魔法で創れそうだけど……トンネルを創ったことで崩れやすくなったり、逆に掘りにくくなったら大変だよね)
今回の目的はあくまで調査である。普段からここで暮らす人々に影響を与えたくはない。指示があるまではとりあえず黙ってついていこうと決意する依織だった。
「シロ、よろしくね?」
ゴーレムに遭遇した際には彼の塩が頼りだ。ゴーレムを倒すことなく生け捕りにするために、シロに塩を出してもらってそれの中に閉じ込める作戦である。生け捕りにしたあとで追跡魔法を試みるのだ。
呼吸をしないゴーレムであれば、塩の塊の中に閉じ込めたとしても倒してしまうことはない。万が一術者がそのゴーレムを手放したとしても残された魔力とやらがあるらしく、そこから追跡魔法を使うことも可能だ。
ただし、未だに依織は追跡魔法を会得していない。そこがこの作戦のネックである。
声をかけられたシロはプルプルと震えてやる気十分な姿を見せてくれた。大変愛らしい。百点満点。他の追随を許さない癒しパワーである……と言い切るとどこかから「ギョエー!」と吠えられそうな気もする。
シロに癒されたところで、依織も気合をいれて鉱山へと向かうのだった。
先日の手痛い経験を経て、今回はラクダに騎乗ではなく徒歩での参加にさせてもらった。
「構わんが……ラクダに乗る方が疲れないだろうに何故?」
おねだりメモをイースに見せたところ、怪訝そうな顔で問われてしまった。
何故と聞かれることを想定していなくて、しどろもどろになってしまったのはいつものコミュ障クオリティである。乗った方が疲れる、今も内もも等が筋肉痛なことを伝えたところ、なんだか残念な生き物を見る目をされた気がした。
「いやいやいや、馬に乗ったりラクダに乗ったりすると絶対あちこち痛くなるじゃないですか!」
「そ、そういうものか?」
その場に居合わせたヴァータが味方についてくれたので、残念な生き物を見る目は少しマシになった、はずだ。
「イオリさん! 今日は元気そうで何よりです。絶好の魔法日和ですね!」
そんなやりとりをしつつ、置いていかれないようにえっちらおっちら歩いていると、上機嫌のナーシルが声をかけてきた。
「ナーシルは、いつもでは……?」
少し弾んでしまいそうな息を抑え込んで、依織は返事をする。山道はどうしたって疲れるものなのだが、ナーシルにはそうでもないらしい。意外と彼は体力があるようだ。うらやましい。
「いつも魔法日和、ですか? そうでもないですよ~? 僕だって調子が悪い日はありますからね。そういうときは仕方がないので溜まった事務処理とかしますけど」
もしかして、ナーシルの調子が悪い方が全体的に仕事は進むのではないか、というセリフをどうにか飲み込む。だが、ちょっと真偽を確かめたくなってそっとヴァータの方に視線を向けた。
依織同様少々お疲れの様子が濃い彼だが、目が合った瞬間大変悟った表情でそっと首を振る。それで大体理解できてしまった。何も言うまい。言ったところでナーシルが変わるのは相当難しい、というか、無理。依織のコミュ障が治るのと同等の確率だろう。
そんな会話がありつつ、やっと坑道へと辿り着いた。
「結構ひんやり、ですね」
日光が届かない場所、そしてそれなりに高地にある此処はいつもの装いでは少し肌寒いくらいだった。肉体労働をすることを考えると涼しくてちょうどよさそうだ。
「松明でない灯りだとこうなるのだな」
坑道内に入る際、一度お試しで依織の電球魔法をメインで使ってみた。
今までは松明やランタンを使用していたため、ほんのりと暖かかったのかもしれない。熱源がなくなった坑道内は依織の魔法により不自然なほどに明るいが、その分なんだかひんやりと感じられた。
「明るさとしてはイオリさんの魔法で十分なんですけど、不慮の事故があった際に真っ暗になってしまうのは困りますね。やはり僕らも個々で灯りを持ちましょうか」
それぞれが手に灯りを持ち、ついに出発準備が整った。
「とりあえずゴーレムの目撃情報があった地点に行ってみましょうか」
一行を先導するのはヴァータらしい。
依織はイースとザリに挟まれる形で進んでいく。
(車の運転経験はないけど、あれかな。車のライトみたいな気持ちで前を照らせばいいかな?)
思い付きで照らし方を変えては問い詰められかけたり(イースが「外に出てからゆっくり聞け」となだめてくれた。問題の先送りともいう)というトラブルがあったものの、目的地点には到達した。
「この辺りが最近では一番発見事例が多かった場所ですね」
地図を見ながらヴァータが言い切る。
ちょっとした中継地点なのだろうか。
「相手も移動するでしょうし、どうしましょう? 手分けします?」
「少ない手勢で遭遇しては元も子もないだろう、ナーシル。君とイオリ殿のどちらかがいれば対処は可能だろうが、それでは追跡魔法ができん」
「確かに。うーん、じゃあこの先の細い道に行ってみます?」
「闇雲に進むよりは……そうだな。ヴァータ、この先どの道が一番広く作られている?」
「広い道、ですか? 正直この先はそこまで変わりありません。しいて言うなら――」
皆があーでもないこーでもないと進むべき道を検討している最中、依織は若干の観光モードだ。電球魔法で照らすとたまにキラリとした光が見える道はとてもワクワクする。
皆の結論を待ちながら光を追って天井を見上げていたところ、ナウマが鋭い声をあげた。
「魔法反応あり! 正面の坑道から。おそらくゴーレムだ!」
今までずっと黙っていたのは、彼は魔力による索敵をしていたからのようだ。彼の言葉に弾かれたようにそれぞれが反応する。
イースとザリが依織を守るように立ちはだかった。
(……み、見えない!)
ただ、そうやって守られてしまうと、依織が相手を視認できない。魔力を感じられない依織は視認した相手にしか魔法をかけられないのである。
どうにかこうにかワタワタしてゴーレムの姿を確認する。
岩が無理やりつなげられて、人型になったような姿。それが、ぎこちなくこちらへと歩いてくるのが見えた。
見えたのならばこちらのものだ。
「シロ、おねがい!」
いつもどおり魔力を練る。想像するのは、毎度おなじみ塩漬けになった魔物、今回の場合はゴーレムだ。
(自分の魔力ってやつならなんとなくわかるんだけどな……って、あれ?)
依織はいつも通り魔力を操作しているのだが、目の前のゴーレムは全く変化がない。普段であれば大きな塩の塊が対象を覆うはずなのだが。
「イオリさん?」
困惑気味のナーシルの声が坑道に響く。だが、困惑しているのは依織とて同じだ。
依織はいつもどおりにやっている、はずである。
だとすれば原因は――。
「シ、シロ!?」
魅惑の癒し生命体であるシロが、沈黙を保っていた。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
作者のモチベに繋がります
ブックマークも是非よろしくおねがいいたします
漫画はパルシィとpixivコミックにて好評連載中です!
書籍化もしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします





