15.名誉魔導士の錬金術
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「ヒ、ヒドイ目にあった」
与えられた自室に入るなり、依織はバタリとベッドの上に倒れこんでいた。シロは何かの遊びだと思ったのか、それとも依織を心配してか、背中の上にやってきてポヨポヨと跳ねている。何にせよ、癒しの光景なのでそのままにさせておこう。
第一回鉱山視察の日は、結局ゴーレムに遭遇することができなかった。というよりも、鉱山の中まで到達することができなかったのだ。
何故かと言えば、依織が私利私欲のままにビーズを生成したせいである。
鉱山へ向かう道の途中に捨てられていた、宝石混じりの屑石の山。そこから、宝石と屑石を分別し、宝石だけを集めてビーズの形に成形した。その一連の作業は全て錬金術にて行ったわけだが、それが魔法オタク達の研究心に火をつけてしまったのだ。
ナーシルを筆頭とした魔法オタクの集団に次々と質問を投げかけられたのである。
普段からナーシル一人とのやりとりすらままならない依織に、多数から浴びせられる質問を捌くことなど到底不可能だ。
だが、ナーシル以外の魔法部隊員はほぼ全員が初対面。依織のコミュ障という特性を知っているはずもない。その上ナーシルに負けず劣らずの魔法への探求心を持っていた。
「イース達が止めてくれなかったら、あそこで夜を迎えてたかも……」
あり得ないとは言い切れない想像に依織はブルリと身を震わせた。
結局、イースを筆頭にした非魔法オタクの制止により、一旦出直すことになった。ただし、あの魔法陣に関しての説明書を求められてしまったけれど。
魔女の秘術です、と要求を突っぱねることもできたのかもしれない。が、あの勢いに勝てる気がしなかった。それに分離の魔法陣だけならナーシルには既に教えている。塩水を塩と水に分けるだけのもの。それの応用である。
ただ、あのナーシルであっても応用どころか基礎もうまくできていないのが現状だ。モノになるにはもう少し時間が必要なのだと思う。
「……分離と変化の魔法陣なら危険はない、よね?」
依織が一番懸念しているのは、教えた技術によって世界が悪い方へ変わってしまうことだ。
そもそもこの魔法は依織が快適に一人で長生きできるようにと神様から貰ったものである。
(魔法を教えた結果、良い変化だけならお目こぼししてもらえるかもしれないけど……。そうなるとは限らないものね。勢いに押されて教えちゃった魔法が世界を破滅に導く、なんてことになってしまったら……。ど、どうしよう。打ち首とか切腹じゃ済まなくない?)
そうじゃなくとも、お世話になっているこの国にマイナスの影響を与えたくはない。
ただ、悩みすぎて頭の芯が熱くなってきても、依織では今のところ悪用する方法は思いつかなかった。それどころか唸っていたせいでシロに心配されている気がする。たぶん、恐らく、心配して、背中から頭の上に移ってきてくれたのだと思う。熱くなった頭にシロのひんやり具合がとても気持ちよい。
「シロ~……これって悪用ってできるのかな? ワルの天才になるにはどうしたらいいんだろう……う~~~」
ポヨポヨに癒しを求めるも、断る口実やこの錬金術を行使した際の悪影響も思いつかなかった。であれば、約束通り教えるしかない。今回行った錬金術の手順をできるだけ細かく紙に書き綴っていく。
「あの時は夢中でやったけど、分離と変化の複合魔法陣を創ったのね、私。確かに複雑なことやっているように思えるかも」
書き留めながらやっと先刻の自分が結構高度なことをやらかした自覚を持った。恐らく分離の魔法陣だけならナーシルはあそこまで食いついてこなかったはずだ。だって、彼には既に教えているのだから。
けれど依織は突然見たこともない魔法陣を描き始めた。いや、彼の魔法に対する観察眼であれば一部は見たことがあり、残りは全くの未知だと気付いたかもしれない。だからこそ、思い切り食いついてきたのだ。未知の魔法技術に対してあれだけどん欲だからこその国一番なのだろう。魔法の知識に飢えた集団の目の前で、大変美味しい餌を投げ込んでいたことを自覚して若干凹みそうになる。
依織は依織で未知のハンドメイド素材という餌の前で見境がなくなっていたのだ。今後は同じことがないように気を付けなければ。そうじゃないとまた取り囲まれてしまう。
「……気持ちを切り替えて楽しいこと考えよう」
体力的には消耗していないが、精神的にはかなり消耗している。
そんなときは、自分の好きなことをするに限る。依織の場合はもちろんハンドメイドだ。
「まずはイザークへのお手紙書こうかな。いつトリさんが来るかわからないし。待ち遠しいな、トリさんが来るの」
小さな宝石が含まれる屑石の山を欲しい、というお願いを手紙にしたためる。文章にすると色々と伝えたいことが増えて、一度書き直すハメになった。ただ、依織にとって文字のやり取りは直接言葉を口にするよりも気安いため、あまり苦にはならない。じっくりと言葉を選ぶ時間があるのはとても有難いことだ。
気付けば今日起こったことや、町によって風習が違うことの興味深さまで書き綴ってしまった。
「……これにお返事が加わるんだよね? ちょっと書きすぎたかな? う、うーん」
イザークはまだまだ忙しいはず。あまりにも長々と書くと負担になるかもしれないとも思う。うんうん唸って考えた結果、とりあえず保留にすることに。彼からの手紙がきたときにもう一度内容を厳選すればよい。
手紙を書き終えればあとはお楽しみの時間がやってくる。
「ふふ、ふふふ」
ナーシルを筆頭とした魔法部隊員達を魔法オタクと心の中で呼んでいるが、依織とて人のことは言えない。依織は依織でハンドメイドオタクなのだ。
前世では切り詰めた生活に追われて、楽しさを感じる余裕がなかった。けれど、転生した今は違う。好きなときに好きなだけ、とまではいかないが、締め切りという制限もノルマもない純粋な趣味だ。
うっとりしながらビーズを包んだ布をテーブルの上に広げる。落とさないように慎重に広げた布の中で、ビーズ達はキラキラとした輝きを放っていた。まさに、依織にとっては宝の山だ。
「錬金術ってすごい……大きさが均一になってる」
自然から生まれたチビ宝石は、当然ながら大きさが不揃いだ。宝石の輝きとただの石ころが混ざりあってるモノだってある。それが錬金術によって綺麗に仕分けられ、同じ大きさの穴が空けられている。手作業でやるなら気が遠くなるような作業が、あの一瞬で終わったのは本当に凄いことだ。
ただ、ハンドメイドオタクな依織であれば、そういった細かい作業も嬉々としてやったかもしれない。
「手持ちの裁縫セットもあるし、何か作ってもいいよね」
ウキウキしながら思考を巡らせる。
現在ビーズは様々な色がごちゃまぜの状況だ。仕分けをしたいのだが、そのための器がない。前世であればプラスチックのトレイを使っていたのだが、今世にはない。今そのためだけに人を呼びつけるなんてことは論外中の論外だ。
なければ、作ればよい。
職人はそんな発想をするものだ。幸い手持ちの裁縫セットにプラスして、少し硬めの布を持っていたので、それで仕切りのある器を縫いあげた。ビーズが混ざらなければよいのだからそこまで難しいことではない。
次に、ビーズの仕分け。一つ一つ手作業でやってもいいのだが、ふと分離の錬金術を応用できないかと考えた。宝石の色が多種多様ある理由の一つに構成元素の違いがある。
(細かいことは覚えていないけど、発色元素とかいうのがあって、それで色の違いがあったはず……。元素別にグループ分けしてもらうイメージで上手いこといかないかな?)
思い付きを試すのはやはり楽しいものだ。失敗しても成功してもなんらかの成果を得られる。数回の試行錯誤ののち、依織はビーズの色別に分けることに成功した。
ただし、本来睡眠に充てるべき時間を犠牲にして。
この場にイザークはいないので、多少夜更かしをしてもあのキラキラの顔面で迫られることはないとタカをくくっていたのだ。その結果、何が起こるのか。ビーズの仕分けが上手くいって喜んでいる依織はまだ何も知らないのである。
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