14.名誉魔導士と第一回鉱山視察
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「……やっぱり、できなかったよシロ」
しょんぼりしながら依織はノロノロと身支度を整える。
本日は第一回鉱山視察の日だ。
最初の会議の日から二日の時間が経っている。この二日間、全力で追跡魔法とやらに取り組んでいた。ナーシルを筆頭に魔法部隊員に目の前で追跡魔法を見せてもらったり、ゴーレムの欠片を借りて自室でうんうん唸ってみたりと依織なりに努力はしたのだ。
だが、魔力を感じることに関してはサッパリだった。
ケガの功名として、やたらとつっかかってきたナウマが、少し態度を和らげたことが救いと言えば救いだろうか。キチンと魔力を感じられる彼は依織が魔法を使おうとするたびにちょっと驚いた表情をしていた。ナーシルが言うところの「依織の非常識な量の魔力」を感じたのだろう。
「憂鬱だなぁ」
ポヨポヨと部屋の中を跳ねていたシロを捕まえて抱きしめる。魅惑のプルプルボディは最高の癒しではあるが、追跡魔法ができなかった事実は覆らない。
ナーシル達も言語化に苦戦しているようで、今のところ進展は見られなかった。
今日は「ナマで動いているゴーレムを見たら何か違うかも」という意見の元、万全の体制を整えて鉱山の中へ向かうことになっている。
「実際に見たらできると思う?」
腕の中のシロに問いかける。するとシロはデロンデロンとした震え方をした。全身で「何ともいえない」とお返事してくれているらしい。可愛い。
「まぁ、電球魔法開発した? から、それで役に立てるのは良かったかも」
ひょんなことからできあがった光を産む魔法を、依織は電球魔法と呼んでいた。どうもこの世界には固有の光魔法なるものがあるらしく、それと区別するために。
この世界の光魔法は不死属性の魔物なんかを浄化することが主な特徴だ。が、依織が創り出した光にそんな効果があるとは思えなかった。元は前世のLED電球を魔力で創り上げたものなので。
ただ、アンデッドに効果がなくとも、周囲を明るく照らすことは十分可能だ。むしろ松明やランタンよりも明るく照らすことができる。こちらの方は自主練習をしたので適切な明るさを保てるようになった。少なくとも鉱山探索の灯り係にはなれる。足手まといではないはずだ、という自信がほんの少しだけ心を軽くした。
「うう、がんばろ……」
シロを抱えながら自分を鼓舞していると、迎えのノックの音が聞こえた。覚悟を決めて返事をしたのち、現地へと向かう。
鉱山までの道のりは意外と厳しい。道のアップダウンが激しく、女性には厳しいのでは、ということで依織は馬に乗せてもらっていた。依織 (とシロ)が馬に乗り、イースが引いてくれる形である。
(……お尻とか内ももとか、あとで大変なことになりそう)
当初は馬に乗っていればいいだけなので楽をさせてもらっている、と思っていたのだ。が、徐々にあちこちに違和感を覚えてきた。
姿勢良く保たなければぐらついて怖いし、内ももに力を籠めなければ落ちてしまいそうだ。これは、筋肉痛の予感がする。大人しく歩いていれば良かったと後悔し始めたところで、とあるモノが依織の目に飛び込んできた。
「あ、あの、あれ……」
「ん? イオリ殿、どうかしたか?」
「あの、山?」
手綱から手を離すのは怖いけれど、どうしても気になったので指をさす。若干フラフラしながら示した先には、小石の山とは少し違った色あいの小山があった。
「あぁ、あれは宝石に満たない屑石の山ですね。気になります?」
後ろにいたナーシルが教えてくれた。
「な、なる。見たい!」
依織にしては珍しく食い気味に返事をしたことで、イースとナーシルが顔を見合わせた。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
馬から降りるのを手伝って貰い、ヨタヨタと屑石の山に近づいた。
(すごい! キレイ! これビーズが作れるんじゃ……)
一気に依織のテンションが上がる。
目の前には様々な色が混じった屑石の山。予想通りそれらはとても細かく、中には明らかにタダの石でしかないものもある。それでも依織にとっては宝の山だった。
ビーズがあれば、小物作りのバリエーションが増えるのだ。依織のテンションが上がらないわけがない。
「イオリさんがこんなキラッキラな目してるの初めて見ました。これちょっと貰っていきます?」
「ナーシル、いいの!?」
「流石に無許可は良くないだろう。責任者に許可を貰ってくるので少し待っていてくれ」
ナーシルとのやり取りを見ていたイースが、苦笑しながら許可を貰いにいってくれた。
その間に依織は脳内で魔法陣を思い描く。
(ビーズにするなら穴を空けるだけでいいよね。物質を変化させるだけだから……あ、でもその前に宝石とそれ以外の普通の石を分けないとだよね。そうなると分離させる魔法陣と、変化の魔法陣の二種類が必要だから……)
ウキウキした表情で地面に魔法陣を描く依織。それを興味深そうに見つめるナーシルと、突然始まった何かに困惑する一行。
そうこうしている内にイースが戻ってきた。
「一山全部は無理だそうだ。もっと上の許可がいる。ただ、一つかみ程度であれば問題ないらしい」
「もっと上ならいっそイザーク様に許可とるのがいいんじゃないですか?」
「お手紙、書く!」
コクコクと頷きながら依織は意気込んだ。イザークに押されてやむを得ず承諾したはずの、伝書ガルーダ・トリさんの到着が今から待ち遠しい。我ながら現金なものである。
「えーとそれで、一つかみ程度なら貰っていいんですよね。このあたりとか特にキラキラしてるの混じってません? あ、手を切らないように気を付けてくださいね。布とかあればそれ越しの方がいいかも」
「ありがとう、ナーシル!」
依織の中で、いまだかつてない程にナーシルの株が爆上がりしている。まさか魔法オタクの彼からこんな提案をしてもらえるとは!
示された部分をそっと自前のハンカチで掴む。ちょっぴりチクリとした感触があったものの、今はどうでもいいことである。目の前のモノが素材になる可能性に依織は胸を高鳴らせていた。イザークの前でもしたことがない恋する乙女の顔、かもしれない。
早速その一つかみの屑石達を先程描いた魔法陣の上に乗せる。
思い描くのは前世のビーズだ。
余計な小石を取り除き、宝石のみに振り分けて、中央に糸が通る程度の穴を空ける。とても単純な魔法陣だ。ただし、依織にとって。
「……何が起こるんです?」
依織の奇行に耐え切れず年若い隊員がそう呟いたが、集中している依織の耳には幸いにも届かなかった。周囲に思い切り注目されていることに全く気付かず、依織は魔法陣に魔力を流し込む。
「は?」
依織の魔法に慣れていない者達から、一様に驚きの声が漏れた。
一瞬の光のあと、依織の想像通りのビーズが完成する。
「やったぁ!」
嬉しさに思わず依織にしては大きな声が出た。キラキラの色とりどりのビーズと、それ以外の小石が分けられている。できあがったビーズの内一つをつまみ、光に透かす。きちんと穴が空いていて実用に耐えられそうだ。
ウキウキと先程使ったハンカチにビーズを乗せていると、背後から声がかけられる。
そう、今までの工程を固唾を飲んで見守っていたナーシルだ。
「ではイオリさん。その魔法陣の解説、お願いできますよね?」
「へっ!?」
いつの世も、上がりっぱなしの株というのは存在しないものである。
非常に圧のある笑顔を向けられ、そこでやっと依織は逃げ場を完全に失ったと悟ったのだった。
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