13.名誉魔導士と会議の行方
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漫画等でキャラクターの怒りを表現するときに、何故「ゴゴゴゴゴ」という効果音が付くのか、前世で疑問に思ったことがある。依織は今、その答えを目の当たりにしていた。
依織の知るイースはいたって物静かな人である。そんな彼の周りに、鬼とか龍とか、とりあえず恐ろしいとされるものが憑依しているように見えた。その効果音としてゴゴゴゴゴという文字が見える、気がする。勿論、依織の心象風景でしかないのだが、とにかく、怖い。とても怖い。
「……言葉通りです」
少し青い顔をしながらも言葉を返したのは、先程エーヴァという名を挙げた年若い隊員だ。彼には依織と同じ幻覚は見えてないとは思う。そもそもこの世界に鬼とか龍みたいな存在があるのかもわからないし。
それでも、怒っているイースが怖いという部分はシンクロできているらしい。
「今まで行方不明とされてきたエーヴァ様が、何故かこのタイミングで目撃されています。繋がりを疑うのは当然では?」
ただし、怖いと思っていても彼には立ち向かう勇気があるようだ。依織に足りない部分ではあるし、見習うべき点と言える。この場合その勇気は吉と出るか凶と出るかわからないが。
「エーヴァの魔術師としての能力を高く買ってくれていることはわかった。だが、憶測で人を中傷するのは見逃せんな。お前の発言は今『エーヴァであれば、ゴーレムを使い国を害すこともあるだろう』と言ったのと同義だ」
「可能性の話です。国一番の看板を奪われたあと行方知れずなのですから、そういう可能性もあるのでは?」
ここでザリが言葉を濁していた意味がようやくわかった。
現在の国一番の魔術師はナーシルだ。そしてエーヴァという人は元国一番。つまり、ナーシルが頭角を現したから、その地位を追われた人ということ。話の流れから察するに、彼は国一番じゃなくなった段階で行方をくらましたのだろう。
(行方不明の元国一番の魔法使いってなると疑う気持ちもわかるかも)
「エーヴァ様がそのようなことをなさるはずがないだろう! 恥を知れ!」
激昂した声をあげたのは先程から依織につっかかっていたナウマだ。顔を真っ赤にして唾を飛ばさんばかりの勢いに気圧され、思わず顔を伏せてしまう。
その声を皮切りに様々な声が飛び交った。
「彼ほどの使い手であればこの鉱山でゴーレムを使うことだってできるはずだ」
「する理由がない」
「国一番という座を奪われたのが悔しいっていうのは人間の感情としてあり得ますよね」
「馬鹿を言うな! そのような感情に囚われる方ではない!」
「では何故行方をくらませたのです?」
若い声ほどエーヴァという人物が関与しているのではないかと疑っており、イースと同年代の人達は逆に彼を擁護しているようだ。そして依織はと言えば机を見つめて縮こまるしかできなかった。自分が怒鳴られているわけでもないのだが、どうしてもこういった空気が苦手すぎる。
(瞬間移動する魔法とか、ないかな。遮音とかでもいい。あーでもこういうのって空気も怖いから遮音したところで怖い気がする……怖いよー!!)
必死で別のことを考え気を逸らそうと努力するが、やはり怖いものは怖い。
言い争う声を聞きたくはないのだが、瞬間移動も遮音もできなかったので、結局耳に入ってきてしまう。どうやら勢いとしては年齢層が下の、エーヴァが犯人ではないか説の方が勝っているようだった。
イースは口が達者ではないし、エーヴァ本人が不在なことが響いているのかもしれない。ナウマも口調だけは激しいが中身はあまりないように思える。
「そういう憶測が成り立つのは否定しません。でも、僕はあり得ないと思いますよ」
ヒートアップする議論の最中、突如ナーシルの声が響いた。その声は普段とは違って冷たく聞こえた。驚いて依織は思わず顔を上げた。
「確かに僕はエーヴァ様よりも優れていると国に認められましたけど、正直ただの得意ジャンルの違いというやつですね。僕が優れているところもあれば、悔しいですけれどエーヴァ様の方が優れているところもある。例えば指南という点においてはエーヴァ様の方が優れていると思います。僕は未だにイオリさんに魔法を上手く教えられていませんしね」
(……その点気にしてくれてはいたんだ。話す量を減らしてゆっくり教えてくれればとは思うんだけど……オタクにそれは難しいよね。ごめんね、ナーシル。私も一応頑張る気はあるんだよ)
心の中でナーシルに謝罪する。いつもあの物凄い勢いなため、上手く依織に教えられていないことを気にしているとは思っていなかったのだ。
当たり前のことではあるが、多くの言葉を駆使している彼だって秘めている部分というのは必ずある。饒舌だからといって感情を全てさらけ出しているわけではない。その点を失念していたのは恥じ入るばかりである。とはいえやはり、教えるとき喋る量は減らしていただきたいし、キラキラの顔面を近づけるのもご遠慮いただきたい。
「彼がゴーレムを操れるかもしれない。この点に関しては同意できます。不可能だとは言い切れません。エーヴァ様は本当に凄い方ですから。鉱山で実験をしているのかも、という可能性も否定はできません。ですが、万が一このゴーレムを動かしているのが彼だとしても、その目的は国に仇なすとかそういったモノではないと思いますよ」
「ナーシル様……」
恐らくではあるが、年若い隊員はナーシルを慕っているのだろう。だからこそ、エーヴァの存在が悪であってほしいと願っているのではないだろうか。
もちろん突然行方をくらませたことに対する反感もあるのかもしれない。だが、ナーシルが手放しで認めるほどの才能の持ち主が、もしもどこぞで腕を磨いて再び国に戻ってきたとしたら、今度はナーシルの方が地位を脅かされる可能性だってある。彼らは敬愛するナーシルのためにその可能性を排除したいのだ。
当のナーシルがそういった地位とかを気にしていなさそうなだけで。
「それと、僕が追跡魔法をした雑感なんですけど、このゴーレム、阻害魔法もかけられている感じがするんですよね。途中で痕跡がフッと消えるというか……。ゴーレムを操る魔法の上に阻害魔法の重ね掛け。この二つの技術を行方不明になってる間に会得したっていうのは考えづらいというか、考えたくないというか。この短期間にそこまで差を離されたらちょっと僕立ち直れないなぁ。勿論チャレンジはしますけど」
「なるほど」
「まぁ、確かに……」
「ナーシル様がそう言われるなら……」
最後の方はナーシルらしい理由で少し気が抜けた。
依織の気が抜けたように、周りも毒気を抜かれたらしく、剣呑とした空気はいつのまにか消えている。
「いずれにしても憶測で物事を進めるのはよくないですよね。今できることから積み上げなければ。ということで、イオリさんには申し訳ないですけど、追跡魔法のやり方をとりあえず見てみてください。僕らもどうにか言語化を頑張ってみますので」
「え、あ、うん。が、がんばる」
エーヴァへの疑いは一旦保留となり、追跡魔法の実演へと移ることになった。
依織としては文字情報である程度予習をしてからが望ましいのだが、喧嘩調の議論を聞き続けているよりはよほど良い。
最初はナーシルのお手本を、それから魔法部隊員の追跡魔法をかわるがわる見せてもらった。あのつっかかってきたナウマもトラブルを起こすことなくお手本を披露してきた。若干その態度が尊大というか慇懃無礼な気もしたけれど、直接何か言われないのであれば依織もスルーできる。
しかしながら、結果は惨敗。
全員の魔法を見ても、依織は追跡魔法を再現することはできなかった。
鉱山の調査の前途はなかなか多難そうである。
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