12.名誉魔導士と魔力の話
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「……イオリ殿、あなたへの前言は撤回させていただきます。非礼をお許しください」
ナウマが深々と頭を下げてきた。まだわだかまりが完全に消えたわけではなさそうだけど、マシになっている。そのことに依織はとりあえず安堵した。剣呑な空気というのはそれだけで逃げ出したくなるので。
(でも、ただ光っただけだよね? そんな凄いことしてないよね?)
そう思い込みたいけれど、周囲の顔色を伺うとどうもそれだけでは済まなさそうだ。一部の魔法を扱う隊員達の目がキラキラしている。そう、まるでナーシルのように。
怒涛の勢いで話しかけてくる魔法オタクが増えてしまったのではないだろうか。あまりにも恐ろしい想像に、依織は身震いする。
「光魔法が使えるなんて……やっぱり魔女返上して聖女って名乗りません?」
「えっと、光っただけ、だよ?」
「それが大事なんですよ。だって、今の光はとても眩しかったけれど、熱くはなかったでしょう? あとで僕もチャレンジしてみますけど、再現できるかどうか……」
「え……あ!」
ナーシルにそこまで言われてやっと依織も気付いた。彼らは、熱くない光というものを知らないのだ。
この世界で魔法を操るにあたり、大切なのは魔力と知識と、そして想像力だ。
恐らくこの世界の人達だって熱くない光というのは想像したことがあるのだろう。けれどそれを実現するための知識がなかった。
反対に依織は、前世で現代日本のLED電球の存在を知っている。ついでになんとなくの「LED電球は赤外線を発しないから熱くなりにくい」という知識もあった。この程度の知識であっても、神様から貰った膨大な魔力があれば実現できてしまうらしい。
依織としてはこれならば魔力が暴走しても熱くならない、周囲に被害が及ばないとチョイスしただけ。しかし、この世界の人達はそんなことを知る由もない。
だから、無から想像上のものを魔力で創りあげたのだと思っている。
(私はただ熱くない光を知っていただけなんだけど……それを説明するのは、ダメだよね。前世のことから説明するのは危ない。イザーク相手だけならともかく)
イザークを含めたごく少数の人達は、依織に前世があることを知っている。けれど、それ以外の人達に無暗に広めるのは良くない、と注意されていた。依織自身もそれに同意だ。イザーク達にすら言えてないことがまだまだあるのだから、この場で言うわけにはいかない。
わかってはいるけれど、本当のことを隠したままこの尊敬の眼差しを受け止め続けるのは心情的にすごくキツイ。依織自身は全然凄くないのに。
神様から貰っただけの、依織自身はさほど努力もしてない魔法技術。
それから、前世の人間であればだいたいの人が知っている大して特別でもない知識。
この二つをかけ合わせたことで、たまたまこの国の役に立つことができた。本当に、それだけのことなのに、持ちあげられるのはとても心苦しかった。本当なら尊敬の眼差しを受けるのは神様だったり、前世で色々な法則を見つけたりした人達なのだ。
「イオリさん?」
「あ、えと、だいじょぶ……」
唐突に黙った依織に、ナーシルが訝しげに声をかけてきた。だが、今は誤魔化すしかない。
「ともかく、これで彼女が魔法を使えないというデマは払拭されたな。それで、今後どうするかだが……」
「そうですね。今後のことを話しましょう」
イースが話の流れを変え、ナーシルがそれにのっかった。
「えぇと、文章化するのは大変申し訳ないんですがちょっと……難しいかもしれません。努力はしてみます。ちょっと時間がかかるかもしれませんので、先に追跡魔法の実演だけしてみてもいいですか?」
「え? あ、うん。わかるか、わかんないけど……」
正直言って全く自信がない。が、現状でやれることもなさそうだし、異論はない。頷いて、ナーシルがこれからやることを注視する。
「まず、これが現れたゴーレムの欠片になります。キチンと倒しましたからこの欠片が動くことはないので安心してください」
「……石、だね」
「まぁ一見そうですね」
ゴトンと音を立ててナーシルがテーブルの上に置いたのは、ごくごく普通の石に見えた。わざわざ言われなければ普通の石と差を感じないだろう。道端に落ちているモノよりはちょっと大きいな、くらいだろうか。
「ですが纏っている魔力があります……よね?」
「……え?」
ナーシルに言われて再度石をじっくり観察する。が、見ても見てもそこにはただ石があるのみ。一夜城に使った砂岩とは違う種類だな、とか。ちょっと黒っぽいから真っ白な砂漠に落ちてたら目立つ色合いだな、とかその程度はわかる。
だが、魔力とは?
「あの、えと……」
疑問はある。だが、それを言葉にして、声に出すまでが難しいのだ。何故皆はそうスラスラできるのか。魔法よりもずっと疑問だ。
「あーえーっと、一旦先に進めますね」
「もし疑問点があれば後ほどまとめておくと良い。メモはいるだろうか?」
言葉に詰まっている依織の様子を感じ取ったのか、ナーシルが先に進めようとし、イースが補足してくれた。特にイースの提案は有難いので彼の方を向いてブンブンと首を縦に振る。色々疑問に思ったことがあってもこの情報量だとそのまま押し流されてしまいそうだ。
イースに合図された部下が依織の目の前にペンと紙を置いてくれた。
なんとなく、一人だけ補習を受けている学生の気分になる。実際、魔力のことがわからなさすぎてこの魔法集団の中では圧倒的劣等生なのは間違いない。
ナーシルは依織がメモをとる準備ができると話を続けた。
「この石は魔力を纏っています。そしてその魔力の出所を探ろう、というのが魔力追跡です」
現時点で魔力のまの字も感じられない依織にとっては大変絶望的な情報である。感じられない魔力をどうやって追跡しろというのか。
「ゴーレムを操っている人物の正体と目的を探り、鉱山の安全を確保する、というのが今回の目的です。今のところ人的被害の報告はありませんが、この鉱山は我が国の重要な資源なので放置はできません。ゴーレムは普通の魔物とは違いせん滅して終わり、とはならないのが問題なんですよね。操っている人物を止めない限り、ゴーレムはいくらでも発生してくる可能性があるので」
この石の大元であるゴーレムがどれくらい大きくて怖いのかは想像するしかない。が、ランタンとかのちょっと頼りない灯りの中で働いていたところ、いきなり人型の岩が現れる、なんてシチュエーションは想像するだけで恐ろしいのはわかる。いくらツルハシなんかの採掘道具を持っていても、対抗するのは難しそうだ。
(でも、ゴーレムってそんなに簡単に創れるものなの? ていうか、創れるならゴーレムに採掘して貰えばいいんじゃ……)
浮かんだ疑問はとりあえずメモになんでも書いておく。それを質問するかどうかは後で考えれば良い。
と、思いつくまま書き殴っていると、疑問の答えが思わぬところから飛んできた。
「ナーシル様ならそう簡単におっしゃるのも頷けますが、実際のところゴーレムを創って操るなんて生半可な腕でできることじゃありませんよね」
声を上げたのは年若い隊員のようだ。その言葉に何故かトゲを感じるのは気のせいだろうか。というか、なんでこの会議の場はこんなにもトゲトゲしいのだろう。大変怖いので帰りたさMAXである。
「ただ、今回の件と関係あるかはわかりませんが、先日この町でもエーヴァ様らしき方を見かけたそうですよ。エーヴァ様ならできそうですよね」
続けられた言葉に、依織の近くにいた人物の纏う空気がガラリと変わった。
イースである。
「その言葉の真意を聞こうか」
地を這う、という表現が相応しい声音に込められた怒気を感じて、今度こそ依織は逃げたくなった。
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